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第4部 B級と公爵さまの陰謀

迷宮研究会

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違う違う違うんだよなー。
B級昇格の祝の席で、ひたすらわたしは嘆いている。
わたしたちは、「愚者たちは踊る」だ。
「迷宮研究会」ではない。
ない。ぜったいない。

いまもギルドマスターは見せたこともない笑顔をみせながら、わたしに酒をすすめる。

「まあ、はれてB級ってことだ。内容によるクエストの制限もなくなる。
つまりは一流バーティって認められたわけだ。
そりゃあ、会長、あんたにとってはささいな事かもしれないが」
ギルドマスターはそう言ってくれるが。

それも違うんだよ。
わたしは、パーティリーダーだ。「会長」ではない。
わたしたちは冒険者パーティだ。サークル活動ではない。

だが、世間的には迷宮研究家サリア・アキュロンがはみ出しものを集めて、パーティを結成し、それが初陣で、白骨迷宮に巣食った変異種を退治した。
そんなふうに伝わっている。

間違いではないのだが、迷宮研究家がリーダーだからパーティ名が「迷宮研究会」で、そこのリーダーだから、「会長」はないだろう、と思う。

わたしたちのB級昇格の宴は、ほんとうにささやかなものだったはずだ。
もっと言えば、B級は冒険者パーティだったら、ここまでいければ1人前、の指標のようなもので、希少価値のあるポジションではない。
だが、白骨宮殿の蜘蛛がこれまで、A級、S級も退けた難物であったこと。

わたしたちの、持ち帰った素材がとんでもない値段で売れたこと。

などと、相まって、わたしたちは一躍、時の人となってのだ。

正直に言う。

迷惑だ。

変なパーティ名で登録されるし、わたしは会長だし。だれだ、そもそも会長なんて言い出したのは。

「おーい。サリア!
サリア会長! 
ラッペフが話をしたいそうだ。」

おまえじゃないだろうな?元勇者オルフェ。
わたしは、無精髭の偉丈夫を睨みつけながら、ラッペフ閣下に挨拶した。

オルフェは、昔のよしみであっさり、ヨピ捨てにしているが、彼はもともと王女付きの秘書官であって、さる貴族家の三男坊である。家督をつぐことはまずもってないだろうが、けっこう偉いのだ。

「おめでとうございます、サリア・アキュロン。次期パレス公もぜひとも出席をとご希望されていたのですが、なにぶんにも多忙を極めており」

冗談では無い!
ルークが、王女と結婚とともに、就任するパレス公爵は、常時はおかれぬ最高位の貴族だ。
実際に就任するのは、結婚してからになるだろうが、すでに実際にその職務を行っているときく。
そんな人物が、B級程度の昇格バーティにのこのこ顔を出してくれるな。

「ルーク殿下は、ずいぶんとサリアのことを高く評価してくれてますのね。」
話しかけてきた貴公子は、リティシア・バロンヌ伯爵閣下だ。
こんな、なり、だが女性である。
「わたくしも、婚約者として鼻が高いですわ。」

そして、わたしを公然と口説く数少ない同性でもある。
もっとも、斥候のモールも大のお気に入りのようなので、オルフェさえ、いなければ、いなければ、ああ、私の、ハーレムが・・・などとつぶやいている。

これはこれで極めて、やっかいなお人だった。

それでいながら、バロンヌ伯爵である。
バロンヌ伯爵夫人でも、バロンヌ伯爵令嬢でもない。
名門の家督をついだバロンヌ伯爵そのひとである。

おまけのように付け加えるならば、剣の腕前も魔法のそれも、都では五指に入る。
両方を兼ね備えたものは、少ないので、言い方をかえれば、国でも屈指の強者のひとりということになるのだ。

料理と酒は、ルークからの差し入れもあって、はっきり言って、B級昇格パーティには場違いなほど高級なものばかりだ。
再生したわたしの目は、まえよりもよくみえる。

バカ高い治療費は、冒険者ギルドが褒賞の一部として負担してくれた。
素材が売れたお金はまるまるこっちに入ったわけで、おかけで、わたしたちはちょっとお金持ちである。

いや本当はちょっとどころではないお金持ちである。
わたしなどは、これでしばらくは、クエストなんか気にせずに、自分の研究のためだけの迷宮探索に邁進できる!などと勘違いを、してしまいがちだが、残念なことにパーティリーダーとしては、それは許されないのだ。

素材の価格は、名門貴族であるバロンヌ伯爵家においてもかなりの影響力がある額だったらしい。

冒険者なんてやめて、とっとと、(異性と)結婚して後継を作れ、という親族の声はいっせいに、トーンダウンしているようだった。
贅沢な暮らしのために貴族家はどこもたいてい赤字をかかえているのだが、それを黙らせる金額だったらしい。
あの大蜘蛛はどんだけ、宝の山だったんだ?

「サリア、いや会長殿とおよびすべきなのでしょうな。」
ラッペフは、懐から「薔薇を貫く剣」の紋章の入った封筒を取り出して、わたしに渡した。

「会長はやめてください。」
「そうですか。実にお似合いの呼び名だと思いましたのに。」

受け取った封筒はかすかに、香水の香りがした。

「ルークさまが後ほどお話がしたいと。場所などはそちらにしたためてございます。」

「すっごいです!会長!」
モールが無邪気に飛びついてきた。

「あの、ルークさまにも認められてるってことですよね、わたしたち!」

正確には。認められているのは、給仕の女性のおしりを触っているこの、元勇者だ。
ルークはこいつに殺されかけた。

処罰を恐れたパーティメンバーはとっとと逃げ去ったが、彼自身は王都に侵入しようとした魔族の足止めに成功したという功績と相殺されて、降格だけですんだのだ。

時期パレス公爵の暗殺未遂が、降格だけ?

ということで、未だに彼を恨むものは数しれない。
こんなメンバーを、率いて、わたしはこれからルークの要求する無理難題に答えないといけないのだ。

せめてパーティ名とわたしの呼び方くらいはなんとかならないですか?
だめですか。
そうですか。
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