チート能力解放するにはヘタレを卒業しなきゃいけない

植木鉢たかはし

文字の大きさ
367 / 387
それは一輪の花のように

現実

しおりを挟む
「……いよいよだな」


 アリアさんが呟く。僕らは船の一番前、狭い操縦室に、全員で集まっていた。それぞれがこれまで、船のなかでなにをしていたのか、僕は知らない。けれどそれでいいと思っている。Unfinishedは……お互いを常に見ていなければならないような、危なっかしい関係でない。


「これ、このまま進んだら、あの中に吸い込まれる感じに、入れるんでしょうか?」

「分からない。だが、そうなることを信じて進むしかないだろうな」

「大丈夫っ! ぼくら一人じゃないもん! ね!」

「そうだよ、おいらたちは大丈夫だからなっ!」


 僕はそんな声を聞きながら、目の前をじっと見据えた。真っ黒に開いた絶望への入り口。こんなところに向かうだなんて、あのときの僕らは、思いもしなかっただろう。
 ただ平和に過ごして、ディランさんを見つけて、帰ってきて……そんなことを、思っていただろう。


「…………」

「……リーダー」


 僕は、ゆっくりと目を閉じ、開いた。


「……行くよ、みんな!」


 ぼくらの乗った船は、船ごと、黒々としたそれに吸い込まれていった。


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


 ――ここは、なんだろう。
 思わずそう考えた。考えて、僕の陳腐な思考が産み出した答えは一つ。

 地獄。

 そういうに等しい状況が、そこに広がっていた。崩れた丘が、町が、城が、山……が……? もはやそれが、なんだったのかすら分からない。
 瓦礫と呼ぶべきか、クスラップと呼ぶべきか……何かの残骸がそこらじゅうに転がっていた。


「これが……漆黒……?」


 呟いた瞬間のことだった。


「伏せろっ!」


 聞き覚えのある声がした。と思ったら、目の前に氷の槍が迫っていた。とっさに身を捻り、それを避けた……と思ったら、その先は炎の海だった。避けることもできない……!


「ウォーターボール!」


 丸い水の球におおわれれば、なんとかそれを回避する。しかしその先にはまた『何か』がある。


「グォォォォォォッ!」

「……ドラゴン……!?」


 無論、ドラくんではないドラゴンだ。それは、僕が体制を整えるより早く、僕に迫ってくる。そして、大きな身体をくねらせ、僕を地面に叩きつけようとする。


「しえる」

「シエルトっ!」


 僕がシエルトを唱えるよりも前に、誰かがシエルトを唱え、僕の身体を引きずっていく。そして、瓦礫の影になっているところへと連れてこられた。


「ウタくんっ……!」

「え……あ、ど、ドロウさん……!?」


 そこにいたのは、個性の塊'sの一人、ドロウさんだった。


「ウタくんがここにいるってことは、他のメンバーと一緒に……?」

「は、はいっ! ……あの、ジュノンさんたちは!? Unfinishedの、他のメンバーはどこに!? ここは、なんなんですかっ?!」

「落ち着いて。ここは漆黒。入ったら壊すまでは『基本的に』出られない場所。入るときに歪みが生じるから、一緒に入った人間が、同じ場所にいられるとは限らない。……私も、結構な時間戦ってるけど、まだ誰も見つけられなくて」

「まだ、誰も……ですか? でも、個性の塊'sがここに入ったのって、逆算したら、一週間以上は……」


 僕のその言葉を聞けば、ドロウさんは酷く疲れたような、どこか焦点の合わない目で笑った。


「…………一週間、か。頑張ったなぁ」

「ど、ドロウさん?」

「行くよ、みんなを探さなきゃ」

「…………」


 違和感を感じた僕は、悪いとは思いつつ、ドロウさんの『心』を聞いてみることにした。


『もう疲れたなぁ……楽になりたい』

「…………え」


 遠回しに、どういう意味なのか。それはすぐにわかる。しかし、同様が隠せなかった。個性の塊'sは、一人でも十分に強い。それなのに、ここまで精神的に追い詰められるなんていうこと、あり得るのだろうか?


「……そういえばウタくん」

「あ、は、はい」


 突然声をかけられ、ぎこちない返事をする。そんな僕にドロウさんはにこりと微笑みかける。そしてその背後には……たくさんのドラゴンが、目を光らせ、僕を見下ろしていた。


「死んでもらうよ?」

「なっ……なにを」

「やれ」


 ドロウさんが指示をすれば、ドラゴンたちは一斉に僕を狙って飛びかかってくる。一種の恐ろしささえ感じつつ、僕はとっさにそこからに逃げた。
 違う、違ったのだ。
 あれは、『ドロウさん』ではなかったのだ。ならばなんなのだ? 僕を殺そうとしている? この空間の主……?


「ハク、ナイル……やって」


 ……違う。
 あれは、間違いなく『ドロウさん』だ。あの能力は、間違いなく『個性の塊's』だ。他に類を見ないような、類いまれな存在。まさしくそれは個性の塊'sであるはずなのに……激しすぎる違和感がぬぐいきれない。


(ドロウさんが、僕を狙うはずがない。僕に嘘をつくはずがない。……だとしたら、なぜ、僕は嘘をつかれ、欺かれた?)


 答えは一つだろう。
 目の前にいるドロウさんは、ドロウさんだけれども、ドロウさんではない。
 操られているか、もしくは……何かを失っている。

 これが……漆黒の現実なのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...