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◆ 第3章
19. 蜜色の夜 前編 ◆
しおりを挟む「寒いか?」
「いえ……平気です」
口づけの合間にそっと尋ねられたので、首を小さく振る動作だけで否定する。
優しいキスを繰り返す将斗にパジャマを脱がされ、少しずつ肌を露出されていく。上衣を留める五つの前ボタンをすべて外され、下衣もショーツと共に剥ぎ取られる。まだ何も脱いでいない将斗と異なり、七海はほとんど裸の状態だ。
ただボタンは外されたが、完全に脱がされたわけではない。七海がパジャマを最後まで脱がない理由は『恥ずかしいから』だが、照れ隠しのために発した『寒いので』という一言で、将斗も察してくれたのだと思う。本当に寒いのならエアコンの温度を上げればいいだけなのに、設定温度を変えない代わりにそれ以上七海のパジャマを脱がせることを止めてくれたのが、その証拠だ。
「ん……っ」
耳や頬に将斗の唇が触れる。柔らかな感触と熱い温度が押し当てられるたびに、身体がぴくっと反応する。
頬から首筋、鎖骨から胸の膨らみまで余すことなくキスを落とされ、たまに小さく歯を立てられる。しかし痛みを感じる前にちゅ、ちゅ、と音を立てて優しく口づけ直されるので、七海は大人しくされるがままになった。
「あっ……ん……ぅ」
胸の頂に将斗の唇が到達しそうになったので、腕を抱えて肌を隠そうとした。だがそこに触れるためには七海の腕が邪魔だと言わんばかりに顔を見つめられ、そっと腕を外される。
七海の腕を掴んだ将斗の手は温かく、恥ずかしさ以外の感情は抱かない。だから七海の腕をシーツの上に降ろして胸の膨らみを優しく包み込む手も拒まず、ふわふわと撫でる動きに身を委ねる。
「ん……んっ」
労わって気遣うような優しい触れ方に、また少し気持ちが落ち着いて心が軽くなる。
「あ……っぁ……ふ」
口づけと愛撫による甘やかな刺激のせいか、それとも本当に寒さを感じていたのか、普段はなだらかな頂がいつの間にか固く尖って膨らんでいる。
「んゃ、あ……っ!?」
緊張で硬直していると、将斗が突然、左胸の突起を口に含んだ。ぬるりとした舌の感覚が敏感に尖った乳嘴全体を包み込んでねっとりと纏わりつく。肌にキスされるだけでも十分恥ずかしいのに、敏感な場所を直接食まれたせいで、背中から腰のあたりがぞくぞくっと激しく震えた。
「あっ……や……ぁっ……! 将斗さ……っ」
乳首を丁寧に舐めとり、ちゅう、と可愛らしい音を立てて吸い上げられる。七海の身体はそれだけで緊張してしまうのに、さらに右胸の尖端にも将斗の左指が絡みついてくる。
「あ、ああ……っ」
「ここ、気持ちいいだろ? 感じてる七海も可愛い」
「か、可愛くは……っぅ、ん」
七海の右胸を弄りつつ左胸を舐め吸う将斗が、楽しそうな声で七海を褒める。しかし恥ずかしい刺激を同時に与えられて一気に困惑した七海は、将斗の言葉を正確に理解できない。
ただ『可愛い』という言葉が自分には不釣り合いであることだけはわかったので、必死に首を振る。するとくすくすと笑ってそこをぺろっと舐めた将斗が、一度顔を離して今度は右の乳首を口に含んだ。
「あっ……あ、ぁん」
それまで指の腹で撫でられるだけだった場所を甘噛みされる。強い刺激に背中にぴんと力が入ってシーツから浮くと、刺激に反応して固く尖った乳首をちゅうぅ、と強めに吸われた。
「あ……っゃ……ぁ」
胸の頂が性の刺激を拾いやすい場所だというのは理解している。だがこんなにも吸ったり舐めたり指や舌で転がされたり様々な刺激を与えられると、頭がぼーっとして何も考えられなくなってくる。
与えられる刺激が嫌なわけではないが、気持ち良さのあまり恥ずかしい言葉を口走ってしまいそうだ。もっと、と将斗にねだってしまいそうで、ただひたすら恥ずかしい。
将斗に甘える自分の姿を想像して照れた七海は、自分の口を手で覆うことで今にも溢れ出そうな声と感情と反応のすべてを押さえ込もうと考えた。
「七海」
「っ……え」
だがその手が口元を隠す前に将斗の手が先んじて動き出す。
将斗は七海の腕をベッドに押さえつけるような無体は働かなかったが、代わりに自分の指に七海の指を絡め、お互いの手のひらを合わせるようにぎゅっと強く手を握り込んできた。
突然の恋人繋ぎと七海の心をからめとるような鋭い視線に、胸の奥がきゅんと疼く。
「七海は、手繋ぐのが好きなんだな」
「え……?」
どきどきしたまま見つめ合うと、ふ、と表情を緩めた将斗が意外なことを言い出した。図星を指されたようにどきんと緊張する七海の耳元に、身を屈めた将斗の唇が近づく。
「こうやって手を握ると、余計に乳首が勃つ」
「っな!? ……ち、ちが……!」
「身体も震えて……ほら、また固くなった」
「やだ……ぁ……ん、ん!」
将斗の指摘を否定しようとした七海だったが、彼の動きが思いのほか素早い。
七海の右手と将斗の左手は結んだまま――伸びてきた右手の指先に膨らんだ尖端をくにくにと摘ままれると、七海の身体がびく、びくっと強く反応する。将斗の言葉通りにやけに乳首が固くなっていることを知ると、七海の身体に緊張と灼熱の汗が噴き出た。
羞恥のあまりふるふると首を横に振る七海だったが、将斗は基本的に七海をからかうのが好きな人だ。確かに『痛いこと』や『怖いこと』はしないと宣言されていたが、そこに『恥ずかしい』ことは含まれないようで、照れる七海の様子を気をせず膨らんだ突起を再び口に含まれる。
「だめ……噛んじゃ……っ」
「ん……甘いな」
「やぁ、あ……んっ」
前歯で軽く乳首を噛んだまま舌の先だけで先端をゆるゆると嬲られる。ただでさえ気持ちがいいのに固く尖った乳首に強い刺激を与えられると、それだけで腰がびくんっと跳ねて背中がふるふると震え出す。
本当は淫らな反応を知られたくない。しかし気持ち良さを逃そうと身体が仰け反ると胸を前に突き出す格好になるせいか、将斗が余計に舐めたり吸ったりしやすくなってしまう。
「はぁ、あ……ん」
そうやって敏感な性感帯の右にも左にも刺激を与えられると、下腹部の奥がきゅん、きゅう、と甘く疼いて収縮する。身体が将斗に与えられる刺激を欲して、もっともっとと鳴くように震える。
「あ……将斗さん、まって……!」
右胸を舐めながら指先で左胸を弄っていた将斗の手がふっと離れる。その瞬間、七海は慌てて制止の声を発したが、将斗はやはり止まってくれなかった。
「濡れてる」
「だめ……見ないで……ください」
身体から離れた将斗の両手が、七海の足を持ち上げて左右に開く。その中央が刺激を感じて濡れていることは、自分でもうっすらと自覚していた。だから将斗に見られたくなくて早めに制止したのに、力が強い将斗の動きを止めきれるはずもなく。
股の中央をじっと凝視されると、あまりの恥ずかしさにそのまま消えてしまいたくなる。優しく抱くと言っていたのに七海が恥ずかしがることばかりする将斗に「ぜんぜん優しくない……」と文句の台詞を零す。
そんな七海の不満を聞いた将斗がにこりと笑った。
「七海。俺の指と俺の舌、どっちがいい?」
「……え?」
「結構濡れてるが、さすがに多少は慣らさないと挿入らないだろ」
自分の宣言に自分で頷く将斗の姿を見て、密かに息を呑む。
(あ……将斗さん、の……大きい……から)
確かに最初にある程度慣らしてほぐしておかなければ、男性を受け入れる女性の身体にかかる負担は大きい。それは男性側のサイズに関わらず言えることだが、以前将斗に抱かれたとき――初めて彼を受け入れたとき、かなりの圧迫感があって正直少し息苦しかったと記憶している。だから今夜ももちろん〝準備〟が必要だろうけれど。
慣らす、と口にされたことから、将斗自身も準備の必要性を感じているのだろう。だが七海はふと、その前に彼が発した言葉が気になった。
「えっと……? 俺の舌、って……?」
直前に聞こえた単語を拾って首を傾げる。すると将斗が、ふむ、と鼻を鳴らした。
「七海は舐められる方が好きか」
「え」
将斗の台詞を聞いた瞬間、背筋がぴきっと固まる。だが問いかけようにも制止しようにも、やはり将斗の動きは俊敏かつ力強い。
気づいたときには、将斗の顔が七海の股の位置まで下がっていた。
「え、今のちが……ちょっ……ひぁっ!?」
シーツに立てた脚を左右へ拡げられ、中心で震える花芽にちゅう、と強く吸いつかれる。まさか将斗が陰核に直接口づけてくると思っていなかった七海だが、脚を閉じようにも将斗の腕に太腿を固定されていて、ちゃんと閉じることができない。
「あ、あっ……っふぁ……」
胸の頂よりは柔らかさはあるが、萌えた新芽のように膨らんで主張する様子は乳首にも負けないほど。まるで将斗に触って欲しいと言わんばかりに濡れて反応する花芽を、舌の先で上下に舐めとられる。
「ひぁ、あっ……ん」
生温かい舌先が震える花芯を優しく嬲る。時折ぐりゅ、と強く押されると、腰が引けて自然と身体が上へ逃げてしまう。だが身体だがずり上がるたびに太腿を掴んで下へ引き戻され――また花芽を吸われて丁寧に舐め転がされる。
「だめ、ぇ……まさとさ……舐めちゃ……!」
ベッドルームにぴちゃぴちゃと激しい水音が響く。その音が将斗の唾液によるものなのか、七海の中から溢れ出してきたものなのか、あるいは二つが混ざり合って生まれているのもなのかはわからない。
「や、だめ……きたな……っ」
「そんなことない」
首を振ると、七海の陰核を吸って舐めていた将斗が少しだけ顔を上げて、ふっと微笑む。
「七海はぜんぶ、綺麗だ……ほら」
「ふぁっ……っぁ、あ」
七海の制止に聞く耳を持たない将斗が休憩に与えてくれた時間は、ほんの一呼吸ぶんだけ。あとは七海が逃げないようにまた太腿をがっちりと押さえ、蜜核の頂点から小さく窪んだ穴、側面の溝まで丁寧に舐められて吸われていく。
舌と唇でほぐされる気持ち良さのあまり、身体が何度も仰け反って弓なりにしなる。シーツと背中の間に子兎が通れるほどの空間ができると、それまで太腿を押さえていた将斗の指が腰に回ってきて、そこをゆっくりとなぞられた。
「んん、んぅ……っ」
性の快楽を拾う陰核を激しく刺激されつつ、くすぐったさと快感を拾う腰をするすると愛撫される。
七海が恥ずかしさから顔を背けても、耳に聞こえるぴちゃぴちゃ、ぐちゅぐちゅという恥ずかしい音は止まらない。それどころか、将斗に舐められて快感に溺れる身体の奥からは次々と愛蜜が溢れてくる。
「ふ、ぅ……っぁ……ん」
陰核を舐めていた将斗の舌と唇がさらに下へ移動する。そこには彼を受け入れるための蜜の門がひくひくと蠢き、奥では快感を期待した蜜筒がきゅんきゅんと甘く疼いている。
「ひぁっ……! ああ……ぁっ」
七海の身体に生じる期待と緊張を、将斗は正確に把握しているらしい。舌の先が濡れて閉じた陰唇をやや強引に割り開くと、その中に眠る蜜壺の入り口を舌全体を使ってぐりぐり拡げられる。
「あ……ぁ……ゃあん」
将斗の舌で蜜口をこじ開けられ、宣言通りじっくりと慣らされる。その恥ずかしい状況と強い刺激から逃れたいのに、七海の身体を支えてがっちりと掴む将斗の手からは、どうあがいても逃げられない。
「んっ、ぅ……ぁ~~ふっ……あぁあっ……!」
ヒクつく蜜口を丁寧に舐められ、さらに長い舌で浅い場所までほぐされる。刺激に耐え兼ねた七海は、ゆるい快楽に負けてとうとう軽く達してしまった。
だが深い快感を掴まえて強い絶頂感を得るには――将斗に満たしてもらうには、質量も熱も足りない。
もっと強く将斗を知りたい。もっと深い場所で将斗を感じたい。――そんな恥ずかしい感情に支配されたままぼんやり視線を彷徨わせていると、ようやく七海の股の間から顔を上げた将斗と目が合った。
「大丈夫か?」
「あ……はい……」
オレンジ色の淡い光の中で体調を確認される。肩で息をしながら頷くと笑みを零した将斗が七海の上に覆いかぶさってきて、そのまま唇を重ねられた。
触れ合った唇からほんのりと感じたのは、塩キャラメルのような不思議な甘さだった。すぐに離れた将斗がにやりと口角を上げて、
「七海の味」
と意味深な言葉を呟いた。
将斗の台詞をすぐには理解できない七海だったが、ほんの数秒遅れて意味を察する。
たった今まで七海の秘部を舐めて啜っていたのだから、当然彼の唇や舌は七海の愛液と触れ合っている。だからこれが『七海の味』だと言われればその通りかもしれないが――なんだか、すごく申し訳ないし、恥ずかしい。
猛烈な羞恥を感じて将斗の視線から逃れるように顔を横へ背けると、手の甲で顔を覆い隠しながらぼそぼそと文句を言う。
「美味しくないは……です」
「ん。そうか? ああ……まあ、ちょっと甘すぎるか」
七海のささやかな抵抗に、将斗がくすりと笑みを零す。内心『甘いわけがない』と訴える七海だったが、不思議と嫌だ、汚らわしい、とは思わない。
将斗は七海の負担を軽くするために丁寧に身体をほぐしてくれたのだ。確かに舐められるのは恥ずかしいし申し訳ないと思うが、それと同時にほんの少しだけ『嬉しい』とも思う。
だからもし機会があったら、七海も将斗に同じようにしてあげたい。七海の奉仕で将斗が喜ぶかどうかはわからないが、少しでも将斗に恩返しがしたい……将斗にも気持ち良くなってほしい。
なんて考えているうちに、だんだん自分がひどくはしたない妄想ばかりしていることに気がついた。
応援ありがとうございます!
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