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第2章 クラン結成
第15話 愚狼隊
しおりを挟む「久しぶり」
「あ、シンヤさん!お久しぶりです!」
たった2週間で街中が変わるなんてことは当然なく、通りは以前来た時と同様賑やかだった。ギルドへと向かう道すがら、食べ物や気になるものを買っては次々とアイテムボックスへと放り込んでいったが、その速度は非常にゆっくりであった。俺達全員、ここに1日以上留まったことがないのだ。本来の予定であったならば、今頃、宿に泊まって、依頼をいくつかこなしているはずであったが、成り行き上すぐにホームへと戻ってしまった為、じっくり回る余裕などなかったのである。皆、興味津々で色々なものに反応しては4人でキャッキャ言い合っているのはとても微笑ましく、時間をかけてギルドまで向かった。
「なんか、見られてる気がするんだが」
「それはそうですよ!シンヤさん達はたった1日であれだけのことをしたんですから!注目されて当然です!」
「そういうもんか。じゃあ、挨拶がてら、魔物の死体を売りたいんだが」
「早速ですね!」
「とりま、訓練場へ行くか。あそこの方が楽だろ?」
「かしこまりました!………みんな、手伝って!」
俺達はマリーと職員を連れ、訓練場へと場所を移した。
――――――――――――――――――――
「全部で100体…………毎回、キリがいいですね」
「その方が気持ち良くないか?」
「数字だけ見るとそうですね………でも、現物を見せられるとそうは思いませんが」
「それはご愁傷様だな。ところで、あの世話焼きジジイは?」
「世話焼きジジイ…………あぁ、ギルドマスターのことですね!今日はまだ出勤されてませんが………それにしてもギルドマスターが世話焼きだなんてよく分かりましたね?」
「あいつの俺を見る目がそういう感じだったんだよ」
「へ~………経験談から、そういうのが分かるんですか?」
「色々あってな……。まぁ、いないならそれでいいんだ。そんなことより、いくらになった?」
「はい!金貨62枚です!」
「了解、ありがとう。じゃあ、俺達はこれで」
「ちょっと待った!」
金ももらって、出ていこうとしたその時、訓練場の端から声がかかった。そちらへ反射的に目をやるとこちらに向かって歩いてくる複数の者達が見えた。明らかに俺達を目指している。
「マリー、また頼むわ」
「は、はい!ありがとうございました!」
だが、そんなものは関係ない。俺達はまっすぐ出口へと進みだした。しかし、すぐに周りをそいつらに囲まれてしまった。
「何のマネだ?」
「お前、つい2週間ほど前にフリーダムに来たシンヤとかいう冒険者だよな?」
「人に名を訊ねる時はまず自分から名乗れ」
「ちっ………Bランククラン愚狼隊所属5番隊隊長"行燈"のグスタフだ」
「そうか、じゃあ、さよなら」
「おい、待て!俺は名乗ったぞ!お前も名乗れよ!」
「は?俺が言ったのは人に名を訊ねる時はまず自分から名乗るのが大前提という話だ。その後、どうするのかは俺が決める」
「なんだと……テメェ」
「おいおい、冒険者ってのは短気な連中ばかりなのか?こんなんで依頼もまともに受けられるのか?」
「お、お前!!許さな」
「隊長!完全に奴のペースに乗せられてます!忘れたんですか?ゴメスがどうなったか」
「ぐっ……悪い。頭に血が昇って、つい」
「ぷっ、こんなことで頭に血が昇るとか……Bランククラン所属なのに?冒険者を一からやり直した方がいいんじゃないか?あ、そうだ。マリー、悪いけど、こいつらに新しいギルドカード作ってやってくれないか?………。なんでももう一度、冒険者の基礎から学び直したいんだって。おい、俺の計らいに感謝しろよ?自分で言うのは恥ずかしいだろうから、代わりに頼んでやったぞ」
「テ、テメェ、絶対に殺す!ゴメスの件があってもなくてもだ!」
「隊長!ダメです!隊長!」
「ゴメス?誰だ、それ」
こんなに単純な挑発に乗ってきたバカが俺に向かって剣を振り下ろしてきた。俺は絡んできたことを後悔させてやると応戦しようとした。しかし、
「シンヤに、何、する!!」
バカの剣を事もあろうにハンマーで防いでしまったのだ……ノエが。
「ノエ……お前、自分が何をしたか分かってるのか?」
「シンヤ、に、危害を加える奴、許さない」
「別にお前の気持ちを聞いてるんじゃない……いいか?お前はたった今、俺の戦いを横取りしたんだ」
「……………」
「その後はどうするべきか分かるか?」
「……ふるふる」
「責任を取って、後はお前がやるんだ。何をどうすればいいか、全てお前に任せる」
「いいの……?」
「ああ。好きにしろ」
「うん。シンヤ、ありがと」
俺はノエの頭に手をやるとそのままわしゃわしゃと撫で回した。ノエは気持ち良さそうにされるがままになっていた。
「た、隊長、大丈夫ですか?」
「ぐっ、なんなんだよ、このチビ。俺の全力の一撃でもピクリともしてねぇ」
見るとバカは顔を真っ赤にして、身体全体が小刻みに震えていた。まるで軽い電流を浴びた人みたいになっている。
「お前、許さない……ふんっ!」
「ほざけ、チビ!くらえ、連剣山!」
バカの連続した突きを前にノエは軽く息を吸い込み、ハンマーを一振りした。たったそれだけ。時間にして、わずか1秒。
「う、嘘だろ……」
「お、俺達の隊長が……」
「ああああ」
結果、バカの上半身が吹き飛び、その場には大量の血と支えを失って前のめりに倒れていく下半身だけが残った。バカのお仲間達はその光景がよほどショッキングだったのか、嗚咽する者まで出てくる始末。
「あ、こ、こ、これは」
とばっちりを受けて可哀想なのはマリーと職員達である。善良な民である彼女達は普段から、このような光景を目の当たりにはしないだろう。いくら、ギルドが冒険者同士の争いに不干渉とはいえ、このような殺り合いが日常的に起こっていては冒険者の数がこれほど多くはない。だから、こういう現場は見慣れていないはずだ。では、この間のゴミを始末した時は大丈夫だったのか?それはおそらく、距離が離れていたし、目を逸らすなり近づかないようにしていれば問題はなかったように思える。死体自体もギルマスが処理すればいいし。だが、今回は目の前で起きた。それも一瞬で。目を逸らす暇などなかっただろう。
「……で?まだ、殺る気はあるのか?」
「ひっ……」
「い、いえ!」
「す、すみませんでした!」
バカのお仲間達はバカの死体を担いで急いで出口へと向かっていった。後に残されたのは未だ放心状態のマリー達と帰る気マンマンの俺達である。
「巻き込んで悪かったな。じゃあ、俺達はこれで」
「は、はいぃぃぃ」
最後に見たのはその場にへたり込んで動けなくなっているマリーとそれを支えようとする職員達であった。
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