俺は善人にはなれない

気衒い

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第2章 クラン結成

第16話 屋敷

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「何?グスタフがやられただと?」

「は、はい!奴ら、どうやら只者じゃねぇみてぇで」

ここはフリーダムにある大きな屋敷の一室。円卓を囲み、様々な種族の9人の男女が座っていた。それぞれの性格から鑑みても協調性に欠けているのは間違いなく、それでなくとも皆、別々の表情を浮かべていることから考えていることが一致していることはまずないだろう。しかし、防具に数字が印字されていることと風格が歴戦の戦士を思わせるという点においては全員が共通していた。

「この2週間、一体何をしていたんだ?」

「んなこと言ったって、仕方なくね?情報が出てこなかったんだろ?」

「そこを何とかするのが情報部隊の務めでなくて?」

「あれ?情報部隊って何番隊だっけ?」

「キルス、お前はまだそんなことも覚えてないのか?」

「仕方ねぇだろ!この中じゃ一番新入りなんだからよ!」

「………情報部隊は4番隊」

「お、そうか。メル、サンキュー」

「メルザ、あまりこやつを甘やかすでないぞよ」

「うるせぇ、熊爺」

「場が混乱してきましたね………ここは一つ占って差し上げましょう。そう、この6番隊隊長"預言"のリンドが」

「ヒッヒッヒ……面白そうですね」

「こ、これが隊長達の円卓………」

最早、それぞれが好き勝手なことを言い出し、収拾がつかなくなりそうなこの場を一声で収めたのは話し合いに参加せず、ずっと目を瞑り、何事かを考えていたこの男だった。

「静粛に!………本日、遠征からガンドル様がお戻りになられる。ついてはその時、ご意見を頂戴したいと思う。我々がどう思おうが自由ではあるが、最終的な決定権はあのお方にあることを努努、忘れるでないぞ。この2週間、情報部隊はとても頑張ってくれた。そして、その他の隊もできるだけ協力して、情報を集めようとしてくれた。しかし、集まってきた情報と言えば、2週間前、奴らがここにやって来た日のことしか現状ではない。しかし、そんなものはフリーダムの冒険者達ならば今や誰でも知っていることだ。我々が知りたいのはその後のこと。どうやら、その日を境に今日まで奴らを見かけた者はいないらしい。だが、門番が街を出ていくのは確認している。ということはだ。私は奴らの拠点はフリーダムではなく、どこか別の街にあり、この2週間、そこで過ごしていたのではないかと考えている。だとすると、こうして、いくら情報網を駆使しても何も浮かび上がってこないのには納得がいく」

「なるほど」

「確かに」

「その考えはなかったわ~」

「でも、それって考え過ぎじゃないかしら?じゃあ、そこで活動してればいいって話になってこない?なんで、わざわざこんなところに」

「そう、そこなのだ。私が引っかかっていたのは………一体、奴らは何の目的があってこの街に来たのだ?」

その答えを知る者は当然その場にはおらず、これ以上、話し合うことも別にないと思った為、そこで会議は終了となった。だが、この時、もっとちゃんと色々な可能性を話し合っておけば良かったと思うようになるのはもう少し先の話である。



――――――――――――――――――――



バカ共を退け、ギルドを出て少ししてから、俺はこう言った。

「突然だが、家を買おうと思う」

「はい?」

「家なら、もうあるのではなくて?」

「そうなんだが……。あそこのはそのまま残しておいて、買うのはここフリーダムにだ」

「何でそんなことするんだ?」

「まぁ、この街で生活してみたいと思ったからだ。宿屋でも別にいいんだが、人数が多いことともしかしたら、今の持ち金で買えるところがあるかもしれないからな。ちなみに別の意見がある者は言えよ」

「お家……楽しみ」

「はい、ノエがこう言ってるから、決定な」

「なんか、ノエには甘いんだよな………しかも他の意見は聞いてねぇし」

「シンヤ、お家、一緒に住も」

「…………じゃあ、カグヤ。こんなあどけない顔で頼まれて、断れると思うか?」

「………ごめん、アタシが悪かったよ」



――――――――――――――――――――



所変わって、不動産屋に俺達は来ていた。受付に行って、持ち金を伝えて、買える家をピックアップして紹介してもらっているのだが、なかなかピンと来るのが見つからなかった。今後、この街にどれだけ滞在していくのかは分からないが、拠点の一つとなる場所に一切の妥協は出来なかった。もちろん、そこでの生活自体も妥協するつもりは一切ないが。

「そうですね………これら以外ですと…………あっ」

「どうした?」

「大変申し上げにくいのですが、少々変わり種がありまして………そこでしたら、もしかするとお客様もお気に召す形となられるかもしれません。ちなみに料金もお安く、本日中でのご案内も可能ですが、いかが致しましょうか?」

「どんなところか聞いてみないと」

「失礼致しました。その家…正確にはお屋敷ですが、曰く付きでして、なんでもとんでもないものが住み着いているとか………」

「詳しくは分からないのか?」

「はい。何度も調査員が訪れたらしいのですが、その屋敷を出ると中が一体どうなっていたのか、部屋の数・構造・造り………不思議なことにそのどれもが思い出せないそうなのです」

「なるほど。それが何度も続いて、中にいる奴の仕業じゃないかと思った訳だ」

「はい………」

「………よし、そこを買おう。いくらだ?」

「え!?………よ、よろしいんですか?」

「ああ。気になるしな」

「はぁ………」

「で、いくらなんだ?」

「は、はい!税金など別途でお支払い頂くものも含めまして、金貨1枚でございます」

「安っ………はいよ」

「お買い上げ、誠にありがとうございます!!ではこちらの必要書類にご記入の上、サインをお願い致します」



――――――――――――――――――――



「こちらが例のお屋敷となっております。先程も申し上げましたが、1年に1回、固定資産税として銀貨500枚をお支払い頂く形となっております。こちらは月毎でのお支払いでも受け付けております。お支払い方法変更の際は当方までお申し付け下さいませ。ではまたのご来店を心よりお待ち申し上げております」

「サンキュー。ご苦労さん」

屋敷まで案内してもらったが、その壮大さに驚いた。おそらく軽く30人ほどは住めるだろう大きさ。本来、屋根は真っ黒で壁は白一色なはずであったのだろうが経年劣化により、少し禿げ色も薄くなってしまっている。ちなみに蔦が絡まっているのもご愛嬌だ。それ以外に目を移すと庭に至っては随分手入れされていないのだろう、荒れ放題で噴水もとっくの昔に枯れ果ててしまっているようだ。総合的に見て、殺風景なことこの上ない。10人中10人が見ても間違いなく住みたいと思う奴は1人もいないだろう……俺以外は。あ、そういえば、門も錆び付いて、今にも壊れてしまいそうだわ。こんな部分まで徹底しているとは抜かりないな。

「家や庭の状態は魔法で何とかなるが、問題は中に住み着いている奴だな」

俺はゆっくりと門を開け、敷地へと入っていく。
 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか」


  



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