俺は善人にはなれない

気衒い

文字の大きさ
74 / 416
第6章 裏切りは突然に

第74話 真実

しおりを挟む
「さて、大人しくこちらに来てもらいましょうか」

「……………」

「すみません…………すみません」

「…………ミームよ、そう自分を責めるでない。お主のような心優しい男がこんなことをするのには何か訳があるんじゃろ?」

「あ…………それは」

「おい、一体何を言おうとしているんです?ミーム、あなたはただ言われたことをやればよいのです」

「ううっ…………」

「なるほど、今のやり取りだけでお主らのクランがどういうものなのか、だいたい分かった。まさか、陰に隠れて、このようなことをしておるとは…………」

「ここまでくるのに随分と苦労しましたよ…………なんせ、この街には貴方だけでなく、猛者も多い。それと長年の計画を邪魔するかのようなことがいくつも起こりました。特にあいつらがうざいのなんのって。事あるごとに数少ないクラン同士、仲良くしようとして……………だから、対抗戦に誘われた時は断るのに苦労しましたよ。私と同じ臆病者であるギヌですら、参加するって言いますし…………」

「お主が臆病者?ここまでのことをしでかしておいてか?」

「ええ。だから、陰で動いていたんですよ…………それなのに対抗戦の誘いのような我々を邪魔することが後を絶たなくて。それもこれも全部アイツらがこの街に現れたせいです」

「アイツら…………」

「クラン"黒天の星"ですよ。新人冒険者にして、数々の功績を残している、いけ好かない連中です。人は突然の変化に思わぬ反応をするものでしょう?でなければ、あのギヌが対抗戦のような催し物に参加するはずありません。おそらく、彼の中で何か思うことがあったのでしょう」

「……………」

「まぁ、最も邪魔されたと感じたのはそんなことではありませんけど…………」

「それは一体………」

「スタンピードですよ。せっかく、我々が傍観者を決め込み、あまり目立たずにいたのに……………奴らが止めやがったんです」

「ど、どういうことじゃ!あそこで食い止めていなければ、お主らも無事では済まなかったんじゃぞ!それではまるで初めから………」

「ええ、初めから我々はスタンピードが起こることを知っていましたし、いつでも逃げられる準備はできていました」

「っ!!な、何故…………!?」

「さ~何故でしょうね?」

――――――――――――――――――――





「お~お前ら、久しぶりだな」

「お久しぶりでございます、ダート様。お待ち申し上げておりました」

「ああ。この街に来たら、まずはお前らに顔見せとかないといけないと思ってな。おそらく、俺が来ることはヨールから聞いてるだろうし。まぁ、そんなことより、今までご苦労だったな。遂に魂の供給率が半分を越えたみたいだぞ」

「つ、遂にですか!」

「ああ。だから、俺達も方々に散って最終段階に向けての仕上げに入っているんだ。それから、今まで以上に教徒の動きも活発になってくる」

「なるほど…………ようやく、我々の悲願が達成される時が来るのですね」

「ああ。このまま上手くいけばな」

「大丈夫ですよ。その為にこうして危険因子を捕らえてあるんですから」

「どれどれ……………おっ、こいつがあの"魔剣"ブロンか。お前ら、気が早いな。せっかく、俺が直接やろうと思っていたのに」

「…………お主らがまさか繋がっておったとはな」

「お、もしかして、俺のことも知っているのか?」

「当然。と言っても知っておるのはギルドの上層部と一部の者だけじゃ。お主、アスターロ教の幹部"狂反"のダートであろう?」

「……………おい、ハイド。このジジイは捕らえて正解だったな。こいつ、俺の名前だけじゃなく、地位も二つ名ですら把握してやがる」

「ええ。長年、フリーダムにいて我々にとって最も危険だと判断したので捕らえました。現に我々が裏で動いていたこともうっすらと気付いていたみたいなので…………」

「なるほど。これから、世界中を恐怖に陥れようというのにこういう奴の邪魔が入っちゃ興醒めだからな」

「ええ」

「あ、あの~」

「ん?どうしたんです、ミーム?」

「先程から随分と物騒な会話が繰り広げられているんですが…………魂の供給がどうとか、世界中を恐怖にとか」

「ああ、そのことですか。それなら、安心して下さい。貴方は別に知る必要はないですし、ただ言われたことをやっていればいいんです」

「おいおい、仲間はずれは良くないぞ。せっかくだから、教えてやれよ」

「よろしいのですか?」

「ああ。どうせ、知ったところで何もできんだろ。それなら、せめて真実を明かしてやった方がいい」

「なるほど、そういうことでしたら…………いいですか、ミーム?これから、話すことは他の誰にも話してはなりません。内容は我々の真の目的についてです」

「真の目的………ですか?」

「ええ。そもそも我々、Bランククラン"人猟役者"はとある目的の為、アスターロ教という方々の命によって、設立されました。いわゆる下部組織のようなものですね。そして、その目的はただ一つ……………アスターロ様という偉大な御方をこの世界に復活させることです」

「…………アスターロ様?それは一体、どんな御方なのでしょうか?」

「その昔、この世に蔓延る者全てを無に帰そうとした邪神様です。一時は世界滅亡というところまでいきかけましたが、寸前で勇者という者によって、封印されてしまったのです」

「そ、そんな危険なのを何故、復活させようとしているんですか!?」

「およそ、数十年前に現在、アスターロ教の教祖であらせられるランギル様に神託が下ったのです。"我を復活させよ。世界の滅亡に関してだが、それはしないから安心しろ。それどころか、お前らにとって、住みやすい世界を創り上げてやる"と。俄には信じ難いことでしたが、試しにその後も度々下った神託の通りに動いてみたところ、全てが上手くいったそうなのです。そこでこの御方の仰ることは間違いないと感じたランギル様がアスターロ教を立ち上げ、今日までアスターロ様の復活の為、活動を続けてきたという訳なのです」

「わ、私がやっていることもその活動の一環ですか?」

「ええ、もちろん。"人猟役者"の面々は主に裏で動く為の特殊部隊のようなもの。メンバーは普段、様々な職種に就き、そこで別の顔を演じています。それも全てはアスターロ様の為。人々の感情の揺らぎこそがあの御方を復活させるのに必要なもの」

「え…………じゃあ、魂の供給率とかいうのも」

「ええ。その際に発生する負の感情を生命力と共に吸い取っているんですよ。それがいわゆる"魂"と呼ばれているものですね」

「一体、どうやって…………」

「忘れたんですか?貴方が奴隷商を始める時に私が渡した魔道具があるでしょう?ずっと置いておくようにと言って」

「あ…………!!」

「思い出しましたか?」

「わ、私は今までなんてことを……………」

「知らないのも無理はありません。今、話した内容はアスターロ教と"人猟役者"の幹部しか知りませんから」

「ううっ…………」

「今更、後悔してももう遅いですよ。貴方は"人猟役者"のメンバーとして、これまで色々としてきたのですから。そして、これからも我々の命令を忠実にこなしていくことしかできません。その意味は分かりますよね?」

「…………はい」

「では早速、次の命令です。これを肌身離さず、持っていて下さい」

「これは……………?」

「そこにいるブロン・レジスターから取り上げた通信の魔道具です。ブロンは貴方の奴隷契約によって、命令がなければ身動きができない状態となっていますが、万が一があるといけません。あの忌々しい"黒天の星"とも何やら親しいみたいですし、助けを呼ばれでもしたら厄介ですからね」

「おい、ハイド。それこそ、それを使って、こいつが助けを呼ぶってことはないのか?通信の魔道具の受信側に表示される名は発信側の魔道具の所有者…………つまり、ブロンの筈だろ?」

「ミームはそんなことできませんよ。我々を裏切るということがどういうことになるのか、彼自身が一番良く分かっているでしょうし、弱味も握っていますので。それとその恐怖を乗り越えたとしても奴らとの間に信頼関係がありません。現にミームの報告で"黒天の星"は何にも気が付くことなく、この街を出ていったとありました。もし、ミームとの間に友情のようなものが芽生えていたとしたら、きっとその時点で動く筈です。つまり、奴らの中で彼の存在は眼中にないに等しいでしょう。奴らの行動の中には仲間の為に動くというものがあります。その点、ミームはその対象外。リスクに対してのリターンの可能性は限りなく低い。ここにきて、そんな賭けはしないでしょう」

「そうか。残念だな。そいつらを一目見ておきたかったんだが………………」

「ダート様には申し訳ないのですが、なるべく不確定要素の乱入は潰しておきたいので……………ということで、我々の邪魔をする者は今後、この街に現れることはないでしょう」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ハーレムキング

チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
っ転生特典——ハーレムキング。  効果:対女の子特攻強制発動。誰もが目を奪われる肉体美と容姿を獲得。それなりに優れた話術を獲得。※ただし、女性を堕とすには努力が必要。  日本で事故死した大学2年生の青年(彼女いない歴=年齢)は、未練を抱えすぎたあまり神様からの転生特典として【ハーレムキング】を手に入れた。    青年は今日も女の子を口説き回る。 「ふははははっ! 君は美しい! 名前を教えてくれ!」 「変な人!」 ※2025/6/6 完結。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

イレギュラーから始まるポンコツハンター 〜Fランクハンターが英雄を目指したら〜

KeyBow
ファンタジー
遡ること20年前、世界中に突如として同時に多数のダンジョンが出現し、人々を混乱に陥れた。そのダンジョンから湧き出る魔物たちは、生活を脅かし、冒険者たちの誕生を促した。 主人公、市河銀治は、最低ランクのハンターとして日々を生き抜く高校生。彼の家計を支えるため、ダンジョンに潜り続けるが、その実力は周囲から「洋梨」と揶揄されるほどの弱さだ。しかし、銀治の心には、行方不明の父親を思う強い思いがあった。 ある日、クラスメイトの春森新司からレイド戦への参加を強要され、銀治は不安を抱えながらも挑むことを決意する。しかし、待ち受けていたのは予想外の強敵と仲間たちの裏切り。絶望的な状況で、銀治は新たなスキルを手に入れ、運命を切り開くために立ち上がる。 果たして、彼は仲間たちを救い、自らの運命を変えることができるのか?友情、裏切り、そして成長を描くアクションファンタジーここに始まる!

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

処理中です...