俺は善人にはなれない

気衒い

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第9章 フォレスト国

第124話 銭湯

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例の一角において、最も大きな建物といえば銭湯"カグヤ姫"のことであろう。ここはカグヤが一番番頭を務め、朱組の組長クーフォと副長ネネがそれぞれ二番番頭、三番番頭を任され、残りの組員達が番台をしている。宿暮らしで風呂に入る機会のない冒険者や風呂が併設されていない家に住んでいる人々をターゲットにしており、1日の疲れを癒す場所として、どうやら好評のようだ。元々、カグヤの故郷には温泉があり、知り合ったばかりの者同士で一緒に風呂に入り、色々と語りって、そこで仲良くなるという風習があったそうだ。だから、俺が何かやりたいことはないかと訊いた時にカグヤからは真っ先に湯屋をやりたいという答えが返ってきたのだ。クランハウスの大浴場を一番堪能しているのではないかというほど風呂好きであるカグヤ。貴族以外では中々、毎日風呂に入るということができない者が多数いるのがこの世界の現状であり、それに対してカグヤは嘆いていた。どうにかして、この素晴らしさを街の人々にも堪能して欲しいと。そこで取った手段が銭湯の開業である。温泉や風呂のことに関しては誰よりも熟知していると豪語するカグヤ。その知識や作法を朱組の組員達に徹底的に叩き込んだ。その結果、組員達は風呂マニアにまで成長し、今では立派な番頭や番台を務めるだけでなく、クランメンバーにまで風呂に関して一々指摘するほどにまでなった。ちなみに売り上げは上々。生活費や家賃を考えると流石に毎日は来れず、たまに来るという者がほとんどではあるものの、街の人々が代わる代わる来る為、閑古鳥が鳴くということはまずあり得ない。システムでいうと男湯と女湯に分かれており、混浴はないタイプの非常にシンプルな銭湯である。番台が常に目を光らせており、もしも邪な目的で銭湯内をうろつく者を見つけた場合は速やかに厳しい罰が下される。罰金として銀貨100枚、それから今後一切、銭湯へは出入り禁止とされてしまう。邪かどうかを見分ける方法だが、番台の側に魔道具が置いてあり、それが反応すれば黒、それ以外は無反応といった具合で的中率は100%であり、言い逃れなどは一切できない。しかし、これに対して恐怖や不満を感じる必要はない。普通に利用している分には何も問題はないのだから。ただ本能の赴くまま欲求に従って間違いを起こしてしまわないように気を付けてさえいれば、熱い湯に浸かり、リフレッシュができる最高のサービスなのだ。かくいう俺もちょこちょこ利用していたりする。現に今も視察で訪れているとはいえ、早く入りたくて仕方がなかった。だが、その前にやらなければならないことがある。

「カグヤ、お疲れさん」

「お、シンヤ。お疲れ~。もしかして、視察?」

「ああ…………銭湯での仕事はどうだ?」

「毎日、忙しいな。けど沢山の人に良さを知ってもらえて嬉しいって気持ちが勝ってるから、楽しいよ」

「そうか」

「この後、入っていくのか?」

「ああ。他の番頭や番台とかにも話を聞いてからな」

「そうか。じゃあ、今日も大変だっただろうから、ゆっくり浸かっていけよ」

「そうさせてもらう……………なんなら、お前も一緒に入るか?」

「ちょっ!忘れたのかよ!?ここには混浴がないぞ!」

「いや、その前にお前はまだ仕事中だろうが。ツッコミを間違えるなよ」

「そ、そんなこと言ったって!」

「いや、お二方共、ツッコミがズレてますよ?」

「ん?クーフォか……………ここでの仕事はどうだ?」

「いや、サラッと進めないで下さい」

「シ、シンヤ!一緒に入るのは…………」

「まだ言ってんのか。じゃあ、それはクランハウスの大浴場でな」

「う、うん!絶対に忘れるなよ!」

「ああ。善処する」

その後、他の番台達とも軽く話をした俺は1時間ほど湯に浸かってから、銭湯を出た。外へと出ると火照った体に冷たい風が当たって非常に気持ちがいい。ふと空を見ると日が沈みかけ、これから夜がやってくるところだった。店によっては今からさらに忙しくなるところもあるだろう。俺は心の中で全員に対して頑張れと呟きつつ、クランハウスを目指して歩き出した。これにて今日の視察は全て終了。明日からはまた新しい日々が始まる。すれ違う人々の声をBGMに内心でどこかワクワクとする自分がいることに俺は気が付かないフリをした。
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