俺は善人にはなれない

気衒い

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第9章 フォレスト国

第125話 出発

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リースがクランハウスを訪れてから、1ヶ月が経った。そして、いよいよ本日はフォレスト国へと向けて出発する日となった。この日の為に済ませておきたいことは全て終わっており、一緒に行くメンバーも既に決まっていた。クランメンバー全員で行くとなると膨大な数になることから事前に選定しておいたのだ。まずはこの依頼を受けた張本人である俺。それから、カグヤ・イヴ・ドルツ・ローズ、そして、それぞれの部下が受け持つ組の副長達であるネネ・マヤ・ライアン・レーンに加え、サポートとして組員を1人ずつ計4人つけた状態で向かうこととなった。もちろん、道中はリースとセバスを護衛しながら向かうことになる為、全部で15人の大所帯となる。会議室にて、この発表をした時、選ばれたメンバーと残るメンバー、双方でリアクションに差があり、特に他の場所や食べ物などに興味津々な者は揃ってガッカリしていたのだが、別の機会に一緒にどこか行こうと提案することでその場は納得してもらった。しかし、それは組員達の話であって、より付き合いの長い幹部に至っては不機嫌オーラが凄かった。だが、それにもちゃんとした理由があることを説明した上で納得はしてもらえた。現在、同時に10個もの事業を展開しており、その責任者である幹部全員が出掛けてしまえば何かあった時の対応に不備があるかもしれない。けれども半分以上が残ってさえいれば、例え自分のところ以外で何かあったとしたら、応援として駆けつけ、助けることが可能である。仲間の非常事態をカバーし合う。これがいかに重要か。当然、そんなことは全員分かっている。しかし、これは感情の問題なのだ。いくら依頼とはいえ、別の場所へと赴くことは軽い旅行のようなものだ。道中で楽しいことや嬉しい発見、様々なことが待ち受けているかもしれない。そこに行けない自分を想像したのだろう。一方で自分が抜けて他の者に代理を任せることに対して申し訳なさと不安を同時に感じたことも事実であろう。まだ事業も始まったばかり。無理もない。だから、理屈と感情がぶつかり合ってしまったのだ。とりあえず、彼女達にも今度どこかへ一緒に行こうと提案して、その場は収まった。ちなみにティアとサラは"全く、こんなことで拗ねるなんて子供です(わ)ね………"と内心では呆れているような感じのスタンスでいたが、何故か手に持っていた木材からはメキメキという嫌な音が聞こえた。彼女達の立場上、今回は不測の事態に備える為に残ってもらい、俺の代わりとして動いてもらうこととなった。必要であれば、シリスティラビンのクランハウスやフリーダムのクランハウス、また絶望の森を行き来してもらう形となるかもしれない。いずれにせよ、俺の代わりができる者には残ってもらうしかない。そのことは彼女達も十分承知だろう。その時、背後を振り返ってみたら、手にしていたはずの木材が真っ二つになって床に落ちていたのは見なかったことにするが……………とはいえ、選んだメンバーで幹部に関していえば、ちゃんとした理由があるのだが、組員でいうと組長ではなく副長をわざわざ選んだのにも訳がある。それは責任者がいなくなり、代理としてその任をこなすことになる組長に経験を積ませる為である。まだ始まったばかりでそれは早いと俺の元いた世界で同じことになれば言われるだろう。けれどもこんな機会は早々ない。早い内からそういう経験を積むことはきっと本人達にとってプラスとなる。現にそれが分かっている組長達は張り切って仕事に臨もうとしている。これは実験や予行演習でもあるのだ。今後、責任者が急にいなくなることがあるかもしれない。その時に自分が代わりとなって迅速かつ適切な対応ができるのであれば、それに越したことはない。したがって、今回の指名依頼は渡りに船という状況だったのだ。

「よし、じゃあ行ってくる」

俺は見送りに来てくれたクランメンバー達を見回しながら、そう言った。

「シンヤさん、行ってらっしゃいませ。お気をつけて」

代表してティアがまずは答えてくれた。若干、寂しそうにしていたのを見た俺はティアを抱き寄せて頭を撫でながら、耳元で囁いた。

「国…………救ってくるから」

「信じています。頑張って」

俺はそれを聞いてティアを解放しつつ、皆を見渡してから再度、こう言った。

「じゃあな!しばらく留守を頼んだ!」

「「「「「行ってらっしゃい!!!!!お気をつけて」」」」」

仲間からの応援を背に踏み出した俺は目の前に立つ2人へと歩み寄った。

「とうとうこの日が来たな」

「ああ……………シンヤ、改めて依頼を引き受けてくれて、ありがとう。それから、よろしくお願いします!」

「私からも……………どうぞ、よろしくお願い致します」

「ああ、任せろ」

こうして、俺達はフォレスト国へ向けて出発した。この1ヶ月間、色々なことがあった。今ではリースもセバスも仲間や家族といった気持ちでいる。この2人が困っているなら、それは仲間が困っているのと同義。なんとかしてやりたい。そう素直に思える。だから、待っていろフォレスト国。今から行って、何もかも変えてやる。俺は不敵な笑みを浮かべながら、一歩を踏み出した。空は晴れ渡り、俺達のこれからの旅路を祝福してくれているかのようだった。
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