俺は善人にはなれない

気衒い

文字の大きさ
218 / 416
第11章 軍団戦争

第218話 ぺったん

しおりを挟む
「ぺった~んぺった~ん」

シリスティラビンから遠く離れた街、チ

ルド。ここは以前、アスカとリーゼが訪

れた街である。邪神災害が起きる前はそ

こまで治安が良いとはいえない街であっ

たが今では打って変わり、治安が良く、

子供でも安心して暮らせる街というのが

特徴となっている。というのも以前悪さ

を働いていた冒険者やならず者達は災害

で心も身体も疲弊してしまい、それどこ

ろではなくなってしまっているのだ。そ

こに加えて最近、やってきた冒険者達に

よって悪人は一掃されて、街全体が良い

方向へと変わってきている現状というの

があった。その証拠にこの日もとあるク

ランハウスから子供達の元気な声が響い

ていた。

「お次の方はこちらへどうぞ~」

そんな子供達のすぐ近くから優しく暖か

い声が聞こえた。それはクラン"黒天の

星"玄組副長テレサの声だった。先日、

リーゼ率いる玄組はこの街にクランの支

部を構える為にやってきたのだ。彼女達

はやってきたその日のうちにクランハウ

スを購入し、街で暮らす者の邪魔をしな

いよう静かにしていようと心掛けた。し

かし、小悪党はどこにでも存在する。彼

女達を鬱憤ばらしの対象にしようと思っ

た冒険者達がしつこく絡んでいったのだ

が、それを無視され、頭にきたのか武器

を抜いて襲い掛かってきたのだ。そうな

ると話は変わってくる。普段は良い子

に、だが一度武器を向けられれば容赦は

しなくていいと仕込まれた組員である子

供達はその冒険者達をものの数秒で片付

けてしまった。そして、それを皮切りに

して、その後も数十人が襲い掛かり、対

処しているうちに気が付けばギルド内は

めちゃくちゃになっていたのだ。一部始

終を見ていた者達は開いた口が塞がら

ず、ギルドの職員達は頭を抱えていた。

それを見たリーゼ達はもう用はないとば

かりにギルドを後にし、以後彼女達を街

で見かけても余計なことはしないよう街

全体へと広がっていったのである。そん

なこんなで悪人はだいぶ減り、現在では

彼女達の人気が急上昇中なのだった。

「はい、おじさん!おいしく召し上がっ

て下さいね!」

「ありがとうね。これ、お代」

会計を担当している組員が笑顔で接客を

する。それに対し客も笑顔でその場を去

っていった。彼の手にはついたばかりの

餅が握られていた。

「ぺった~んぺった~ん」

「はいっ!はいっ!」

「わぁ~い!上手くいってる!」

「これ、楽しい~」

あちらこちらから、子供達の楽しげな声

が聞こえてくる。この日はクランハウス

の庭で餅の販売を行っていた。これも街

の住人や冒険者達と仲良くなる為の一環

であった。

「お前、何時から並んでるんだ?」

「昨日の夜からだ」

「やりすぎだろ」

「あの天使達がついた餅だぞ!在庫切れ

で買えなかったら、どうするんだ!」

「んな大袈裟な」

「いや、そんなことはない!あれを見て

みろ!」

「ん?あれは…………何だ?」

「俺と同じ穴の狢。徹夜組だ」

「嘘だろ!?テントまで用意して、中で

一夜を明かしたのか!?たかだか、餅だ

ろ!?やることがしょうもねぇ!」

「ふんっ、そんなことで驚いているよう

じゃまだまだだな……………まぁ、お前も

じきに分かるさ」

「分かりたいような、分かりたくないよ

うな」

「とにかく、俺達はな……………あの笑顔

を守りたい。ただそれだけなんだ」

「だから、こんだけ苦労して並んで買う

のか……………餅を」

「ああ」

「あの餅にそこまでする価値があるのか

ね」

「百聞は一見にしかず。お前も実際に買

ってみれば分かる」

「いや、俺はその為に来たんじゃねぇ

し」

「ん?じゃあ一体何の為に…………」

「う、うるせぇな!別にいいだろ?」

「何か怪しいな……………ん?お前、さっ

きからどこをチラチラと見てん

だ……………あっ!ま、まさか、お

前…………」

「な、何だよ」

「そうか。だが、悪いことは言わない。

テレサさんだけはやめておけ」

「っ!?な、何で分かったんだ

よ!……………ってか、やめておけっ

て?」

「いや、この餅販売は今日で3回目な訳

だ。で初回の時にお前みたいな奴が下心

満載でテレサさんへと近付いていったん

だよ。そしたら……………」

「そ、そしたら?」

「一発で見抜かれて、心を折られたん

だ。"私は誰ともお付き合いをする気が

ありません"ってな」

「っ!?そ、そうか……………」

「まぁ、そう落ち込むな。何も悪いこと

ばかりではなかったぞ。現にその男は別

のものに目覚めることができたんだから

な」

「別のもの?」

「まぁ、平たく言えば"こちら側"に来

たってことだ」

「?よく分からんが……………それよりも

お前の方はどうなんだよ?リーゼさんや

考えたくはないがテレサさんのことを狙

って……………」

「安心しろ。俺は小さな子にしか興味が

ないからな」

「……………は?」

この後、テレサ狙いだったこの男が別の

魅力に取り憑かれるのも時間の問題だっ

た。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ハーレムキング

チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
っ転生特典——ハーレムキング。  効果:対女の子特攻強制発動。誰もが目を奪われる肉体美と容姿を獲得。それなりに優れた話術を獲得。※ただし、女性を堕とすには努力が必要。  日本で事故死した大学2年生の青年(彼女いない歴=年齢)は、未練を抱えすぎたあまり神様からの転生特典として【ハーレムキング】を手に入れた。    青年は今日も女の子を口説き回る。 「ふははははっ! 君は美しい! 名前を教えてくれ!」 「変な人!」 ※2025/6/6 完結。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

イレギュラーから始まるポンコツハンター 〜Fランクハンターが英雄を目指したら〜

KeyBow
ファンタジー
遡ること20年前、世界中に突如として同時に多数のダンジョンが出現し、人々を混乱に陥れた。そのダンジョンから湧き出る魔物たちは、生活を脅かし、冒険者たちの誕生を促した。 主人公、市河銀治は、最低ランクのハンターとして日々を生き抜く高校生。彼の家計を支えるため、ダンジョンに潜り続けるが、その実力は周囲から「洋梨」と揶揄されるほどの弱さだ。しかし、銀治の心には、行方不明の父親を思う強い思いがあった。 ある日、クラスメイトの春森新司からレイド戦への参加を強要され、銀治は不安を抱えながらも挑むことを決意する。しかし、待ち受けていたのは予想外の強敵と仲間たちの裏切り。絶望的な状況で、銀治は新たなスキルを手に入れ、運命を切り開くために立ち上がる。 果たして、彼は仲間たちを救い、自らの運命を変えることができるのか?友情、裏切り、そして成長を描くアクションファンタジーここに始まる!

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

処理中です...