俺は善人にはなれない

気衒い

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第11章 軍団戦争

第220話 クリーム

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商業が盛んな街、ロンド。ここは商いを

始めた者にとって登竜門のような存在の

街である。一度街へと入れば、通りを埋

め尽くす店の数々が観光客や冒険者を出

迎える。毎日、同業種の店が鎬を削り、

弱者は淘汰されていくこの街では冒険者

ギルドよりも商業ギルドの勢いの方が遥

かに強い。商売に憧れを抱いた若者が故

郷を離れ、新人としてやってくるケース

が多く見られる為、そういった者を一か

ら教育する機関が必要となり、発足され

たのが商業ギルドだ。しかし、稀に店を

営んでいる者に直に弟子入りを頼む新人

も現れ、断られるといったこともある。

いずれにせよ、"商売を始めたいのな

ら、まずはロンドを目指せ"という言葉

が広まっている以上、新人がこの街に集

まるのは自然なことだった。ちなみに新

人の期間を終えてもそのまま商業ギルド

に所属し続けることは可能であり、また

新人ではないが商業ギルドに所属してい

ない者が途中から所属することも特に禁

止されている訳ではない。とにかく、

個々人の商売形態の違いはあれど、この

街に今もなお現役で活動できている時点

で熾烈な争いを勝ち抜いた猛者である

ことは疑いの余地もない。そして、そん  

な環境において、とある場所に客が行列

を作る店があった。

「いらっしゃいませ~"リームのクリー

ム屋"へようこそ~」

そこはクラン"黒天の星"銅組組長のリ

ームが店主を務める店だった。クラン支

部として、この街に購入したクランハウ

スの隣の建物。そこには以前、とある事

業を営む夫婦が仕事場兼自宅として住ん

でいた。しかし、どうにも経営が上手く

いかず、継続を断念。その建物も売りに

出され、最近まで買い手がつかなかった

のだ。そこでちょうどいいと考えたリー

ム達が即決で購入。居抜き物件であった

為、そもそもの金額も安く済み、後は掃

除や軽く物を揃えるぐらいで事足りた。

で、その結果、完成したのが"リームの

クリーム屋"である。これは生クリーム

を使ったお菓子を販売する店でコンセプ

トとしては子供からお年寄りまで幅広い

世代の口に合う商品を提供することだ。

もちろん、商品だけではなく内装もこだ

わり魔道具やスキルを駆使して快適な空

間を演出している。店員は皆、銅組の組

員である見目麗しいエルフの女性達。口

だけではなく、目の保養も忘れてはいな

い。こういった細かい気遣いのおかげで 

行列のできる店になっているといっても

過言ではないのだ。

「お前、一体いつから並んでるんだ?」

「6時間前からだ」

「長っ!何の為に!?」

「そんなの1つしかないだろ」

「まぁ、食い物の店に並ぶっつったら、

食べる為だろうが……………にしてもこん

な行列に並んでまで買う程のものなの

か?店の名前もなんだかダジャレっぽい

し」

「ふっ、お前もまだまだだな」

「は?」

「あれを見ろ」

「ん?あれは…………」

「俺と同じ穴の狢で長時間待機組だ。凄

い奴だと2桁時間も待っている奴がい

る」

「くだらねぇ!たかが食い物、それもス

イーツごときに!どんだけ暇なんだよ!

ここは商業の街だろ!?仕事しろ!」

「あとお前、店の名前を馬鹿にしただ

ろ?言っておくが、そんなことする奴は

お前ぐらいだ。その証拠にあいつらを見

ろ」

「今度は何だ?」

「店の名前が入った服を着て、リームさ

んの顔が描かれた団扇を持った集団だ。

今じゃ、ああいうファンクラブまででき

ている」

「仕事しろよ!」

「これで分かったか?お前はこの中じゃ

新参もいいとこだ。意見を言いたきゃ、

ここに通い詰め、どっぷりと芯まで染ま

り切ってからにするんだな」

「そこまでは勘弁願いたいんだが」

「じゃあ、お前は俺達と違って、ただた

だ菓子を買いに来たってだけなのか?あ

そこで働いている店員達を見ても何とも

思わないとでも?」

男が店内へと目を走らせると元気な声が

聞こえてくる。

「いらっしゃいませ!」

「お買い上げありがとうございます!」

「少々お待ち下さい」

エルフの女性店員達が店内を動き回る

度、客はそれを目で追う。完全に目の保

養になっていた。

「………………」

「あれだけ美人で仕事もできる、さらに

冒険者としても一流とくれば、目を奪わ

れない方がおかしい」

「ま、まぁな」

「で?お前はどの子がタイプなんだ?」

「う、うるせぇな!別にいいだろ、そん

なこと」

「ここまできて隠すのかよ………………

ん?ちょっと待て。今、ピンと来たぞ。

もしかして、お前、リームさんが目当て

なのか?」

「っ!?だ、だったら、どうだっていう

んだよ!」

「図星か。だが、まぁ、悪いことは言わ

ねぇ……………あの人はやめておけ」

「何故だ?」

「いや、この店は今日で開店3日目な訳

だ。で、初日にお前みたいな奴が下心満

載でリームさんへと近付いていったんだ

よ。そしたら……………」

「そ、そしたら?」

「一発で見抜かれて、こう言われたん

だ。"アタクシを満足させられるかし

ら?"と」

「……………」

「その時、その場にいた全員が悟った

ね。ああ、この人に釣り合うのは無理だ

と」

「はぁ…………そうだな」

「まぁ、そう落ち込むな。何も悪いこと

ばかりではなかったぞ。現に男はそのお

かげで別のものに目覚めることができた

んだからな」

「別のもの?」

「まぁ、平たく言えば"こちら側"に来

たってことだ」

「?よく分からんが……………それよりも

お前の方はどうなんだよ?あのエルフの

女性達や考えたくはないがリームさんの

ことを狙って……………」

「安心しろ。俺は熟女にしか興味がない

からな」

「……………は?」

この後、リーム狙いだったこの男が別の

魅力に取り憑かれるのも時間の問題だっ
 
た。
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