俺は善人にはなれない

気衒い

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第12章 vs聖義の剣

第248話 七罪"憤怒"のブーダ

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「っ!?お、俺は一体何を…………」

クラウドはハッと我に返り、辺りを見渡

した。今の今まで急に呼び覚まされた過

去の記憶に囚われて、しばらくの間、呆

けてしまっていたのだ。だが、それも致

し方のないことだった。ピンチに陥って

誰かに助けられるなど一体いつぶりのこ

とか。それに彼は今回の状況を少年時代

に体験した村での出来事と同一視してし

まった。であれば、彼がこういった状態

になるのも必然であろう。

「どうしたの?大丈夫?」

「あ、ああ。すまん、助かった」

声を掛けてきたクーフォに対して、お礼

を言うクラウド。クーフォは"新生人ニュー・タイプ"の槍を彼女の持つ

鉤爪によって受け止めていた。つまり、

クーフォが敵の攻撃からクラウドを守

り、それが今もなお続いているという現

状だった。これを申し訳なく思ったクラ

ウドは慌てて立ち上がり、自身の身体の

具合を確かめた。

「もう立ち上がっても平気なの?」

「ああ。命を救ってもらっておいて、い

つまでもこのままじゃいけねぇさ。それ

に発破も掛けてもらったしな……………っ

てことで、そこ代わってくれるか?」

「……………その顔はもう大丈夫そうね。

分かったわ。よいしょ」

「っ!?ぐぎゃあっ!?」

武器を交えている中、クーフォが一気に

力を抜いて後ろへと下がる。すると急に

支えがなくなった"新生人ニュー・タイプ"は体勢を崩し、つんのめる状

態になった。そして、そのタイミングに

合わせて駆けていたクラウドは拳を振り

被り、渾身の一撃をお見舞いした。

「"クラウド・パンチ"!!」

「ぐがあっ!?」

これにはたまらず吹っ飛ばされて地面へ

と転がる"新生人ニュー・タイプ"。腰の入った良い一撃、それと何故か

は分からないが力が身体の奥底から溢れ

出してくるのを感じたクラウドは満足そ

うに頷いた。

「うし。これなら、いける!!」

「後は自分でなんとかしなさいよ。もう

助けてあげないからね」

「おう!」

「じゃあ、私はあそこで踏ん反り返って

る奴らの相手をしに行ってくる

わ………………あ、そういえば」

「ん?なんだよ」

「あんたって、ネーミングセンスないの

ね」

「ほっとけ!!」






――――――――――――――――――






「はぁ~世話になっちまったな」

クーフォが敵の幹部の元へと行くのを見

送ったクラウドは軽くため息をついた。

彼としては注目しているクラン、それも

いずれは模擬戦でもできたらと考えてい

た者相手に借りを作ったことで"お願い

"がしにくくなってしまったのを嘆い

た。と同時に助けられたこと自体は特に

プライドをへし折られたと感じることも

なかった。むしろ頼もしそうな背中を見

たことでクラン"黒天の星"全体のレベ

ルの高さが窺えて、嬉しく感じた程であ

る。

「……………よし、切り替えていくぞ。ま

ずは目の前の敵に集中するんだ」

クラウドは自分に言い聞かせると今、戦

うべき相手に視線を移した。相変わら

ず、生気のない表情には変わりないが、

先程までと違い警戒心を露わにした態度

で立っている。つい数分前まで地面をの

たうち回っていたはずであるが、どうや

らいつの間にか復活していたようだ。

「ぐが………が…………だ」

「?」

未だ人語ではなく、獣が唸るようにしか

言葉を発せない"新生人ニュー・タイプ"。七罪に乗っ取られている為、

自分の意思を表に出すのが非常に困難と

なっているのだが、そんな中、今この時

ばかりは少々勝手が違うようだった。何

かに抗うかのように苦しそうな表情を見

せる"新生人ニュー・タイプ"。

それが5分程続いたところで急に無表情

になったかと思えば、次の瞬間には泣き

そうな表情に変化した。そして、衝撃の

一言を発する。

「…………だ、助げでぐれ!!」

「っ!?」

クラウドはひどく驚いた。対峙してか

ら、初めて意思の篭った声を聞いたから

だ。そこに畳み掛けるように相手は言葉

を続ける。

「お、俺は生前、人道に反することをい

くつもしてきた。だから、俺自身はどう

なっても構わない。だが、あいつらの思

惑通りに動くのだけは受け入れられな

い!だから、頼む!………………某を止め

てくれ!!」

「最後の1人称は?」

「生前、自身を指す時にそう言っていた

のだ。だが、こうして生まれ変わったら

人格も口調も変わっていた。まるで自分

が自分ではないみたいだ」

「……………」

「俺が意識を保っていられるのもあと少

し。もうすぐで七罪に全てを呑み込まれ

てしまうだろう。だから……………最後く

らいはカッコつけさせて欲しい」

「…………分かった。なら、前の口調で

名乗ってみせろ!お前は化け物なんかじ

ゃない!俺はこれからお前を1人の人間として・・・・・扱う!ちなみに

俺の名前はクラウド!周りからは"雲海

"とか呼ばれてる大馬鹿野郎だ!!」

「っ!?そ、某の名はブーダ!生前は"

瞑想"という2つ名があった!そして、

今は……………七罪"憤怒"の力に支配さ

れている大うつけ者だ!!」

2人の叫びが森の中に響き渡る。それは

お互いに魂の篭ったものだった。

「後は頼んだぞ、クラウドとやらよ。某

は………………ぐ、ぐおおおおっ~!!」

「っ!?始まったか!」

クラウドが再び臨戦態勢に入った直後、

ブーダも七罪によって再び意識を乗っ取

られてしまう。そして、数分後。そこに

はより強化されたブーダが立っていた。

「ぐがっ!!」

「おりゃあ!」

すぐさま猛スピードで正面からぶつかる

2人。槍と拳が交わり、その衝撃で地面

は陥没し、近くの木々が倒れていく。明

らかに常人の為せる技ではなかった。

「"クラウド・キック"!!」

「ぐがががっ!」

今度は蹴りと槍がぶつかり、余波で舞い

上がった土砂が容赦なく降り注ぐ。純粋

な近接戦闘。小細工などは必要ないと感

じていたのか、そんな戦いがしばらく続

く。それはお互いの思いをぶつけるよう

な戦いにも見えた。ブーダにはもう己の

意思がないはずだが、まるで彼自身が泣

き叫んでいる……………そう感じる程、槍

は重たかった。

「"雲の海クラウド・オーシャン"」

「ぐがっ!?」

流れが変わったのはクラウドが得意技を

放った時だった。しかし、それは既に見

破られているはず。何故、このタイミン

グで使ったのか。その答えはブーダの反

応に出ていた。

「ぐ?が?」

そもそも"新生人ニュー・タイプ"に妨害系の魔法や技が通用しないのは

死人であることと七罪によって心身を乗

っ取られている為だった。では五感がほ

ぼ機能しない中、敵に接近し攻撃するこ

とが可能な理由はなんなのかというと全

て七罪の力によるものだった。その力は

肉体強化や魔力増幅だけではなく、敵の

魔力を感じ取り辿ることもできるのだ。

これによって、猛スピードで敵に接し、

強烈な一撃を叩き込んでいたという訳で

ある。

「ぐがあ?」

だが、それはついさっきまでの話。今は

状況が変わっていた。ほんの僅かではあ

るが、ブーダの意識が一度顔を出した。

その意味するところはすなわち……………

「五感が一時的に戻っているかもしれな

いってことだ!」

「がっ!?」

ブーダがクラウドの技の術中に嵌ってい

たことが何よりの証拠である。結果、ク

ラウドの読みは当たり、賭けに勝った形

となった。キョロキョロと辺りを見回す

ブーダに対して、クラウドは時間を掛け

て拳に全魔力を集中させることに成功し

た。そして………………

「"クラウド・アッパー"!!」

「ぐぎゃあ~!?」

渾身の拳がブーダに向かって放たれた。

その威力は凄まじくブーダの身体は地上

から約10m離れた上空まで浮かんでい

た。そして、それからすぐに地面へと叩

きつけられる。

「ぐはっ!?」

その声はもう支配されているものではな

く、紛れもないブーダ本人のものだっ

た。

「はぁ、はぁ、はぁ。これで………………

いいのか?」

「はぁ、はぁ、はぁ………………ああ、か

たじけない」

お互いに倒れた状態での会話。激戦を終

え、その身体はもうボロボロになってい

た。そんな中、ブーダはという

と………………清々しい笑みを浮かべてい

た。

「どうやら、ここまでのようだ。はは

っ、おかしいな。まるで憑き物が落ちた

かのようだ」

「惜しいな。お前とはもっと別の形で出

会いたかった」

ブーダの言葉に本心で返すクラウド。そ

れは友人にではなく、ましてや家族や恩

人にでもない…………

「あばよ、ブーダ」

これまでの戦いでその強さを認めた強敵

ライバルに向けてのものだった。
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