俺は善人にはなれない

気衒い

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第13章 魔族領

第268話 葬(おく)る

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「みんな、この度は本当にありがとう。

それから勝手なことをして、ごめんなさ

い!!」

ハーメルンが被っていた帽子を取り、頭

を下げる。現在、シンヤ達一行はレムロ

ス王国の隣の街であるワプロにいた。あ

の壇上での一幕を終えた後、王国近くの

森の中でシンヤ達と落ち合ったハーメル

ンは今回のお礼も兼ねて、彼らをワプロ

にある自身のクランハウスへと招待した

のだ。そこでは色々な料理が用意され、

壇上にいた者達だけではなく、他の同盟

クランメンバーも多く出席していた。そ

して、今はハーメルンが代表して乾杯の

挨拶を行っているところであった。ちな

みにワプロとは他種族が多く入り混じる

街であり、橙組が常駐するクランハウス

支部があるところでもある。

「これからは1人で背負い過ぎず、何か

あったら、俺達を頼れよ?」

「ああ!僕が馬鹿だったよ。ずっと暗い

中を1人で彷徨い歩いてた。1人で何と

かしなきゃいけないって思い込んでた。

でも、違う。僕は1人じゃないんだ。僕

には同じクランのメンバーもいるし、シ

ンヤ達同盟クランの仲間達だってい

る…………こんなこと言うと無神経かも

しれないけど、それに気付けただけでも

今回のことは無駄じゃないと思う」

「より絆は深まったからな」

「だね……………あ、そういえば。シンヤ

はどうやって、同盟クランのみんなとレ

ムロス王国に来たの?それと壇上にいき

なり姿を現したのって魔法?それからラ

ゴン夫妻の件も……………」

「落ち着け。ちゃんと質問には答えてや

るから」

「ごめん。一度気になったら止まらなく

なっちゃった」

「まず、同盟クランについてだが俺は最

初他のクランのこと自体ほとんど知らな

かった。だから、事前にある程度の情報

を調べ、それぞれの拠点へと赴いて話を

つけていったんだ」

「いきなり、シンヤが目の前に現れた時

は驚いたぜ」

シンヤの言葉に隣にいた同盟クランのマ

スターが思わず反応する。そして、そこ

に続く形で他のクランマスター達も次々

と口を開いていった。

「同盟を組んだってことは知っていたが

実物を目の当たりにしたことはなかった

からな」

「分かる分かる。これがあの"黒締"

か!ってな」

「それで話を聞いてみたら、ハーメルン

を救うのに力を貸してくれだもんな」

「そんなの同盟を組んでんだから当然だ

ろ!……………って言いたいところだった

んだが」

「正直こいつは一体何を言っているん

だ?って思ったわ」

「……………ん?どういうこと?」

最後の方のクランマスター達の発言に疑

問を覚えたハーメルンは思わず、途中で

口を挟んだ。するとそれに対して最初に

口を開いたクランマスターがこう答え

た。

「その時はまだハーメルンが冒険者を引

退するって知らなかったんだ。なんせ記

事にもなっていなかったからな」

「えっ………………」

「それでシンヤが言ったんだよ。"これ

からハーメルンは冒険者を引退し、その

後を民意に委ねるつもりだ。だから、そ

れを止めたい。力を貸してくれ……………

"と」

「で、その後に"いきなりこんなことを

言われても信じられないかもしれないが

今はただ俺の言葉を信じて欲しい。それ

でもしも俺の言っていることが違った場

合は後でどうしてくれても構わない"っ

てな」

「そこまで言われちゃ流石に与太話とは

思えないしな。真剣な顔をしていたのも

あって、とりあえずは信じてみることに

したんだ」

「そしたら、数日後には本当にそんな内

容の記事が出るし」

「ちなみに記事が出る前、既に俺達は集

まって色々と段取りを練っていたんだ。

ラゴン夫妻もそこに加わったのは記事が

出てから数日経ってからだったな。それ

でハーメルンが壇上へと上がる今日を迎

えた訳だ」

「とにかく、時間との勝負だったよな。

なにせ記事が上がってから1週間しか時

間がないんだもんな。にしてもシンヤは

相変わらず、凄いスピードと行動力だよ

な」

「えっ……………な、何でそんなことが。

まるで未来に起きることが分かっていた・・・・・・・・・・・・・・・みたいじゃないか」

クランマスター達の言葉に呆然となるハ

ーメルン。そこでシンヤは1つ息を吐く

とこう言った。

「それについては俺の持つ固有スキルに

よって分かったこととだけ言っておく。

で、こいつらとラゴン夫妻にも協力を持

ちかけて、数時間前のあの一幕を行った

という訳だ。あ、ちなみに壇上にいきな

り現れたのも固有スキルだ。そっちは"

透過"ってスキルだがこれが色々と便利

でな」

「………………何て言ったらいいのか分か

らないんだけど、とりあえずシンヤにし

かできないことをやってのけたってこと

は分かったよ。そのおかげで僕は助かっ

た訳だし」

「まぁ、今回はたまたま運が良かっただ

けだ。もしかしたら、今後手に負えない

事態がやってくるかもしれないからな。

気は抜けないぞ………………っと、そろそ

ろ乾杯してもいいんじゃないか?早く呑

みたい奴だっているだろ」

「あっ!?そ、そうだった!こほんっ、

では僕ハーメルンの冒険者続行を祝し、

さらに今後、同盟クランメンバー全員の

より一層のご活躍を願いまして……………

乾杯!!」

「「「「「乾杯!!!!!」」」」」

その日は夜遅くまでクランハウス内に沢

山の笑い声が響き渡っていたそうな。








――――――――――――――――――






その日はムカつくほど晴れ渡っていた。

"聖義事変"が終わり、2週間が経った

今日……………ワタシは1人の恩人をおくる為、故郷に帰ってきていた。

「な、何であいつが……………」

「ううっ、ぐずっ」

「皆、本当に済まなかった。ワシがつい

ていながら、何たる不覚じゃ」

周りでは啜り泣く声が聞こえ、それに対

して長老が頭を下げ続けている。しか

し、どんなに周りが泣いて喚こうが、謝

罪して帰還を願おうがもうあの人は還っ

てこない。命とは失ってしまえば取り返

しがつかないものなのだ。

「ジェイドさん……………」

ワタシはお墓の前で目を瞑り、手を合わ

せた。こうしているとジェイドさんとの

日々がつい昨日のことのように次々と頭

に浮かんでくる。ワタシが幼い頃よく一

緒に遊んでくれたこと、里の人には内緒

で少しだけ近くの森の中を案内してもら

ったこと、魔物や人との戦い方を教えて

くれたこと、記憶にはないけど赤ちゃん

の頃に抱っこしてもらっていたらしいこ

と………………など。

「ううっ、ごめんなさいジェイドさ

ん………………ワタシも駆けつけていた

ら……………本当にごめんなさい」

己に対しての憤りと同時にジェイドさん

に対しての申し訳なさが募り、涙が止ま

らない。だが、後悔してももう遅い。溢

れた水はもう元には戻らないのだ。だか

ら、ワタシにできることといえ

ば……………

「ワタシ……………ジェイドさんの分もこ

の世界を楽しく生きていくわ。だから、

どうか見守っていて下さい」

生前にジェイドさんが好んでいた花を手

向け、お墓に水をかけながら、ワタシは

そう言った。相変わらず、涙は止まらな

いし、そのせいでよく前が見えないけれ

ど……………

「ジェイド、今までありがとう。今後も

俺が責任を持ってローズを幸せにする。

だから、安心してくれ」

「シ、シンヤさん!?そ、それって完全

にプ、プロ…………」

「ティア、落ち着くんですの…………

あ、ジェイドさん。私もローズを支えて

いきますのでご安心を」

「アタシも!」

「ノエ、も」

「私もです!」

「妾もじゃ」

「無論、我もだ!」

「俺もな」

「ミーを忘れてもらっては困りやがるデ

ス!」

「ボクもいるの」

「もちろん、僕もね」

「ち、ちょっと私を抜きで挨拶なんてズ

ルいです!ジェイドさん、私もいます

よ!!」

「いやいや、ティアは勝手にアワアワし

てたんだろ」

どれだけ前が見えなくても例え進む道が

困難であろうとワタシは自信を持って、

歩いていける。

「ほら、ワタシにはこれだけ素晴らしい

仲間がいるわ。だから、大丈夫よ」

だって、力強く引っ張っていってくれる

仲間達がこれだけいるんだから。
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