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第13章 魔族領
第267話 名の知れた男2
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「そんな………………本当に僕は許されて
しまってもいいのだろうか?」
大きく掲げられた署名を見ながら、ハー
メルンは呟いた。その表情は不安と恐怖
で彩られており、あと1歩のところで自
身の明るい未来を信じ切ることができて
はいないようだった。ところが、その気
持ちもシンヤが次に放った一言により、
氷解することとなる。
「ハーメルン、よく見ろよ。これだけの
者達がお前のことを想ってくれているん
だぞ。それにお前が許されないってこと
はここにいるユーサー達も同じことにな
る。もう自分自身を責めなくていいんじ
ゃないか?お前はこの2週間、十分苦し
んだんだ………………よく我慢したな」
「……………ううっ、シンヤ………………
ぼ、僕は兄のせいでみんな
が………………」
「ああ。嫌な思いをしたと思って辛かっ
たんだろ?大丈夫だ。お前のせいじゃな
いし、何もお前が責任を負う必要はな
い。民意だけではなく、俺達もそう思っ
ている」
「そう……………なの?」
「ああ。だから、俺達をもっと頼れ。あ
まり1人で背負い込むな。俺達の関係は
何だ?」
「同盟……………?」
「そう。つまり、仲間だ。仲間が困って
いるのなら、助ける。これは当然のこと
だ」
シンヤの言葉に深く頷く同盟クランのマ
スター達。彼らから感じるものは仲間へ
の親愛の情。ただそれだけだった。そこ
には打算的な目論みも野心も一切なく、
皆がハーメルンのことを純粋に心の底か
ら想っていた。
「……………シンヤ、ありがとう。もう大
丈夫だ」
一瞬、涙混じりの顔を下へと向けたハー
メルンだったが、それも数秒後に顔を上
げた時には笑顔になっていた。そして、
ユーサー達とアイコンタクトを交わした
ハーメルンは聴衆へと身体を向ける。す
るとそれに続くようにユーサー達も前へ
と進み出て、ハーメルンの横に並んだ。
結果、横一列になった3人は目配せをし
合うと深呼吸をして数秒経った後にこう
言った。
「「「この度は大変申し訳ございません
でした!」」」
ここまで色々と起こったせいか状況を今
一度整理する者達が多く、しばらくは静
寂が場を支配していた。5分、下手した
ら10分程だろうか。実際には1分程度
しか経っていないのだろうが聴衆にはそ
れぐらいに感じていた。とそんな中、こ
の状況を見かねたのか最初に沈黙を破っ
たのは聴衆ではなく、まさかのシンヤだ
った。
「とまぁ、これだけの署名もあるしこい
つらも反省している。だから、ここは1
つ許してやってくれないか?」
まるで湖面に石が投げられた時のように
シンヤの言葉は徐々に聴衆の間に浸透し
ていった。これによって現場の空気感で
は完全にハーメルン達が無罪となる流れ
だった。誰も彼らに対して嫌悪感を抱い
てはおらず、先程までハーメルンに対し
て否定的な意見を持っていた者でさえも
無罪を認めざるを得ない、そんな状況に
なっていた。
「まぁ、普通に考えてあいつらは悪くな
いしな」
「そうよ。可哀想よ」
「お、俺は最初からそう思ってたぞ!」
「あ~肉食いてぇ」
聴衆からハーメルン達を肯定する意見が
次々に出ているのを確認したシンヤはハ
ーメルン達へと目配せをした後、次の瞬
間、同盟クランのマスター達と共にその
場から姿を消した。そして、それに聴衆
が驚いたのも束の間、3人の口からその
日最も大きな声で感謝の言葉が紡がれ
た。
「「「皆様、どうもありがとうございま
した!!!」」」
その後、広場に歓声が湧き上がったのは
言うまでもないことである。
「ふ~ん……………やるじゃねぇか」
壇上での一幕を遠くの方で見ていた男が
そう零した。薄汚れたローブに傲岸不遜
な態度をしており、手に持った骨付き肉
を人の目などお構いなしに食い千切って
いる。その度に顔を半分程覆っているフ
ードが揺れ、そこから黒髪が見え隠れし
ていた。するとそんな様子を近くで見て
いた酔っ払いが何を思ったのか、いきな
り絡み出した。
「おい!お前の食ってる肉、やけに美味
そうだな!ちょっと分けてくれよ」
あろうことか酔っ払いは男の持っている
肉へと手を伸ばして奪い取ろうと試み
た………………が、その手は呆気なく空を
掴み、
「邪魔だ。どけ」
「げぶらぁっ!?」
腹に膝蹴りを決められてどこかへと吹っ
飛んでいった。突然起きたこの出来事に
周りの者達は驚いて一斉に男の方を見た
が、そんな視線を気にする素振りもな
く、男は出口へと向かって歩いていっ
た。
「お、おい。今のって……………」
「ああ。薄汚れたローブに傲岸不遜なあ
の態度。そして何より…………黒髪黒
眼。間違いない。キョウだ」
「おいおい、それって…………」
「ああ。ここらじゃ、名の知れた男だ
な」
しまってもいいのだろうか?」
大きく掲げられた署名を見ながら、ハー
メルンは呟いた。その表情は不安と恐怖
で彩られており、あと1歩のところで自
身の明るい未来を信じ切ることができて
はいないようだった。ところが、その気
持ちもシンヤが次に放った一言により、
氷解することとなる。
「ハーメルン、よく見ろよ。これだけの
者達がお前のことを想ってくれているん
だぞ。それにお前が許されないってこと
はここにいるユーサー達も同じことにな
る。もう自分自身を責めなくていいんじ
ゃないか?お前はこの2週間、十分苦し
んだんだ………………よく我慢したな」
「……………ううっ、シンヤ………………
ぼ、僕は兄のせいでみんな
が………………」
「ああ。嫌な思いをしたと思って辛かっ
たんだろ?大丈夫だ。お前のせいじゃな
いし、何もお前が責任を負う必要はな
い。民意だけではなく、俺達もそう思っ
ている」
「そう……………なの?」
「ああ。だから、俺達をもっと頼れ。あ
まり1人で背負い込むな。俺達の関係は
何だ?」
「同盟……………?」
「そう。つまり、仲間だ。仲間が困って
いるのなら、助ける。これは当然のこと
だ」
シンヤの言葉に深く頷く同盟クランのマ
スター達。彼らから感じるものは仲間へ
の親愛の情。ただそれだけだった。そこ
には打算的な目論みも野心も一切なく、
皆がハーメルンのことを純粋に心の底か
ら想っていた。
「……………シンヤ、ありがとう。もう大
丈夫だ」
一瞬、涙混じりの顔を下へと向けたハー
メルンだったが、それも数秒後に顔を上
げた時には笑顔になっていた。そして、
ユーサー達とアイコンタクトを交わした
ハーメルンは聴衆へと身体を向ける。す
るとそれに続くようにユーサー達も前へ
と進み出て、ハーメルンの横に並んだ。
結果、横一列になった3人は目配せをし
合うと深呼吸をして数秒経った後にこう
言った。
「「「この度は大変申し訳ございません
でした!」」」
ここまで色々と起こったせいか状況を今
一度整理する者達が多く、しばらくは静
寂が場を支配していた。5分、下手した
ら10分程だろうか。実際には1分程度
しか経っていないのだろうが聴衆にはそ
れぐらいに感じていた。とそんな中、こ
の状況を見かねたのか最初に沈黙を破っ
たのは聴衆ではなく、まさかのシンヤだ
った。
「とまぁ、これだけの署名もあるしこい
つらも反省している。だから、ここは1
つ許してやってくれないか?」
まるで湖面に石が投げられた時のように
シンヤの言葉は徐々に聴衆の間に浸透し
ていった。これによって現場の空気感で
は完全にハーメルン達が無罪となる流れ
だった。誰も彼らに対して嫌悪感を抱い
てはおらず、先程までハーメルンに対し
て否定的な意見を持っていた者でさえも
無罪を認めざるを得ない、そんな状況に
なっていた。
「まぁ、普通に考えてあいつらは悪くな
いしな」
「そうよ。可哀想よ」
「お、俺は最初からそう思ってたぞ!」
「あ~肉食いてぇ」
聴衆からハーメルン達を肯定する意見が
次々に出ているのを確認したシンヤはハ
ーメルン達へと目配せをした後、次の瞬
間、同盟クランのマスター達と共にその
場から姿を消した。そして、それに聴衆
が驚いたのも束の間、3人の口からその
日最も大きな声で感謝の言葉が紡がれ
た。
「「「皆様、どうもありがとうございま
した!!!」」」
その後、広場に歓声が湧き上がったのは
言うまでもないことである。
「ふ~ん……………やるじゃねぇか」
壇上での一幕を遠くの方で見ていた男が
そう零した。薄汚れたローブに傲岸不遜
な態度をしており、手に持った骨付き肉
を人の目などお構いなしに食い千切って
いる。その度に顔を半分程覆っているフ
ードが揺れ、そこから黒髪が見え隠れし
ていた。するとそんな様子を近くで見て
いた酔っ払いが何を思ったのか、いきな
り絡み出した。
「おい!お前の食ってる肉、やけに美味
そうだな!ちょっと分けてくれよ」
あろうことか酔っ払いは男の持っている
肉へと手を伸ばして奪い取ろうと試み
た………………が、その手は呆気なく空を
掴み、
「邪魔だ。どけ」
「げぶらぁっ!?」
腹に膝蹴りを決められてどこかへと吹っ
飛んでいった。突然起きたこの出来事に
周りの者達は驚いて一斉に男の方を見た
が、そんな視線を気にする素振りもな
く、男は出口へと向かって歩いていっ
た。
「お、おい。今のって……………」
「ああ。薄汚れたローブに傲岸不遜なあ
の態度。そして何より…………黒髪黒
眼。間違いない。キョウだ」
「おいおい、それって…………」
「ああ。ここらじゃ、名の知れた男だ
な」
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