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Chapter_3:機械工の性

Sub-Note3. 場外乱闘

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 辺り一辺が砂漠であり、遠方からは街すらも見えてこない。青い空が一面に覆い尽くし、高低差のある砂丘が影を作る。

 砂が踊り、跳ねるように宙へと舞い上がる。やがて落ちていき、雲の如く周囲を隠していく。大きな影が目前に迫り、空を見上げれば邪魔するように、機械の巨人同士で争い合う。

 キャンソン姉弟は【トレザー砂漠】にて、シェルター【ミカエラセラピー】の襲撃を受け、最終的な決着をリーダー同士の決闘に委ねた。サドは静かにレオを応援していた。

 レオは【タイタン号】に乗り、頭領のウルサは自作の機体に乗る。共に300mメートル級の巨大機体であり、拳による激しい攻防を繰り広げていた。

 ライラはもどかしくなり、遂にサドに話しかけた。


「レオちゃんは大丈夫なの?」

「レオなら勝てます。懸念があるとすれば1つ、タイタン号の撃破です。古い機体なので、亀裂が広がるでしょう。」

「ええ!?じゃあ、【タイタン号】が崩れたら、旅とかはどうするの!?」

「それ抜きでやるしか無いでしょう。幸い、レジスタンスキャンプは付近にあります。【プラズマネットワーク】で探索にも困りません。船で直接本部に戻るまでです。

しかし、最前線で苦戦を強いられるはずです。武力はこちらの方が遥かに弱い立場。この機体が1つあるだけでも、戦況が大きく変わります。巨大機体には、それだけの力があるのです。」


 政府の巨大機体の特徴は、ただ機械霊に立ち向かう“兵器”の役割だけではない。長期的な停泊や、険しい土地の開拓に対応できるのが普通である。

 その能力が更に“母艦”としての役割を果たし、今日の上級貴族にとって当然の権威として君臨している。

 【タイタン号】はそのプロトタイプとして、書物や資料として情報が残されている。時が流れるに連れて、新型の台頭もあり、先立として世間から隠れてしまった。


「向こうの機体も、凄い力を……」

「違います。あれは無理やり力を集めただけ。戦闘以外の使い物にはなりません。」

「え?じゃあ何が違うのかしら?」


 マークⅢがP-botピーボットとして、解析した結果を説明する。


『結果として、戦闘を優位に進める“素材”を集めただけです。装甲を堅くして、パンチの威力や防御力を高めただけの機体です。

母艦としての能力は一切なく、入れる空間はコクピットだけとなっています。特殊な武装も無いようです。』

「でも何で押し負けてるの?あそこまで素早く動ける秘訣は?」

『引き続き解析を進めます。』

「よろしく、マークⅢ。」


 サドが観戦しているところに、何人かの女性が不自然にこちらに近づいてきていた。タニアとその仲間達であった。

 タニアは声で撫でるようにライラを誘惑する。


「……折角なら、一緒に観戦しようぜ。向こうでさ。」

「お断りします!」

「まあまあ。でもそいつとだんまりしてるのも暇だろ?ならアタシらと一緒にいた方が楽しいと思うんだけどな~?

可愛い顔を活かさないなんて、もったいないなあ。奴なんかより私の方が……」


 タニアがライラの胸を揉もうとした瞬間、差し出した右腕の義手が吹き飛んだ。高熱で斬り落とされた痕跡が見られる。残光がタニアを弾き、サドが目の前に割り込んできた。斬り捨てた後の残心に、タニアは一瞬だけ見惚れてしまうほどであった。

 そのまま転けてしまい、タニアは彼を前にして顔を上げることになった。正気に戻ったのだ。怯んだ上に反省もしない彼女に、サドは威嚇する。


「……次は急所だ。」


 絶対にられる。彼の本気と威圧感に押し負けそうになった。

 でも負けられない。負けるな自分。タニアはそう言い聞かせて立ち上がろうとした。

 仲間の大女が、2人に近づく。タニアに予備の義手をタニアに投げ渡して話す。


「他人の恋路を邪魔しやがって、ひどいもんだぜ……その汚え顔を吹き飛ばしてや……ヴッ!」

「触るんじゃねえよ。」


 思い切りサドの顔に、右腕をぶちかまそうとした瞬間に、横に回避される。差し出した右腕を掴まれ、地面に向けて叩き付けられた。


「ちょ、顔は殴っちゃ……ブッ!!」


 寝込みを右足で正面から踏みつけ、重い一撃を彼女に見舞わせる。

 顔を横に向けたところに蹴りを打ち込んだ。汚い顔を文字通り、吹き飛ばしたのだ。体ごと横に半回転して止まる。


「は、鼻の骨が折れてる……」

「鼻血が出ただけだろ。降伏するまで蹴るから。」

「ギブなんて」
「待て!」


 タニアが代わりの義手を取り付け、2人を止めようとした。口論をやめた彼らに、1つの口約束を結ぼうとした。


「決闘だ!アタシと決闘しろ!美女を賭けて勝負しやがれ!」


 サドは【ビームソード】を発動させ、タニアに威嚇した。


「ライラさん逃げて。この人達、まだ諦めていない。」


 無表情を貫き通しているが、内心で著しく憤っていた。先程の決闘を無かったことにしたがる舐め腐った行為に対して、親切にも怒ってあげようとしていた。

 その証拠に、ライラに手を伸ばそうとする大女の動きを見通していた。光剣で背中を斬りつけるよう構えた。

 タニアは彼の気力に怯え、大声で全力で止めた。


「やめろ!卑怯者!そんなチート武器なんかで決闘が成り立つと思うなよ!平等に剣で勝負しろ!」


 大女は気絶した。サドは彼女に光剣を突き刺しはしなかった。代わりに標的をタニアに変えて、強く気構えて頼みに応じる。


「……分かった。」


 サドは光剣をしまう。タニアが腰に据えた鉄の剣を1つ投げ捨て、サドに渡した。もう1つを自分で持ち、彼を無様に斬り刻むことを今か今かと待ち侘びていた。

 彼もまた、粗末な鉄の剣を構える。



「ウルアアアァァッッッ!!!」


 サドの要求を待たずに突っ込む。タニアは積年の恨みを晴らすかのように、彼にまっすぐ斬り掛かった。単調な動きで彼に勝てるはずがなかった。

 そのままサドは剣先を下げ、ステップを加えて至近距離まで踏み込む。アッパー気味に鉄剣を振り上げた。


「ッ!ふざけっ……ぐあっ!」


 剣で受け止めるものの、ダッシュの勢いから生まれるパワーに体を仰け反られ、真上に打ち上げられてしまう。剣も手放してしまった。

 その隙を見逃さない。剣を戻し、再び突き刺した…彼女の尻に容赦なく狙った。


「………!」


 鉄剣を突き刺したまま、タニアの体は地に落ちた。うつ伏せになり、刺さった剣を取ろうと尻に両手を伸ばした。


「くおおオォォォォォッッッ!!!」


 予告通り、急所に剣を突き刺した。

 タニアは悶絶した。激痛を走らせながら恥も晒され屈辱を受けた。感じるのはとにかく痛みだけ。どうにか引き抜こうと必死になっていた。

 気絶していた大女が起き上がり、這いつくばってその様子を見た。そして文句を連ね始めた。


「や、やりやがった!あいつ!とうとうやりやがった!この野郎!ケツ穴に剣をぶち込みやがっ……て……」

「………。」


 サドは畜生を見る目で彼女を見下した。まるで目に入った虫を、無言で躊躇いなく処理するような表情と共に見せる。

…一言だけ。


「“決闘”は締め切りだ……雑兵ぞうひょう共。」


 光剣を発動させて、彼らに明確な“殺意”を見せた。


「ば……化け物だああああアアアアアアアアッッッ!!!!!」


 ボコボコにされた大女はタニアの肩を背負って、慌てて彼から逃げ出そうとした。間抜け面を晒しても良い。あの化け物から遠くへ逃げようと必死に走り出した。

 情けなく敗走した彼らを、サドは追わなかった。背後を向いて、ライラの安全を確かめる。


「ライラさん!怪我は?襲われませんでしたか?」

「大丈夫。おかげで無事よ……。」


 ライラの心配する姿を見た。戦闘中に目で確かめていたが、彼女の言葉で肩の力をようやく抜いた。


「良かった。ライラさんに手を出されたら……みんなに顔を合わせられません……本当に、良かった……。」


 ライラは恐れていた。殺気を放ったサドの姿は今でも記憶に残っている。一太刀でも入れようとすれば、逆に斬り返される恐怖を、彼らの目に焼き付けたのだ。

 自分を捨てようとした彼の顔と見つめ合う。心中ではずっと、彼を心配していた。無理をしていたのは傍らから見て明らかであった。


「……少しだけ、寄り添ってほしいの。」

「………。」


 静かに頷き、近くに身を寄せた。突然の事でまだ整理できておらず、孤独な心に余裕がなかった。盲目的に従うしかなかった。

 ライラは責任を持って抱擁する。


(彼を抱けば、あの人達は諦めるのかな。逆に刺激させてしまうかもしれない。その時は私も戦いの標的にされる。危険な目に遭うと思う。

……それで良いの。今は武器もある。変に付き添われるより、襲われるぐらいなら、自分から堂々と抗ってみせるわ。)


 優しく見つめた。ようやく隣に立てる。1人で先立たせはしない。



…暫くの間、そのまま寄り添ってからサドは巨大機体の方に顔を向ける。


「引き続き……レオを……。」


 2人は観戦を続けた。


_____


  場外乱闘の後、大女はタニアの尻に刺さった剣を引き抜いてあげた。

 2人は不満を垂れた。


「アァ、クッソ!まだ痛む……あの野郎ぅ……羨ましいぞ。」

「違うだろ!なに魅了されてんだ!?」


 タニアは、サドの鋭い眼光に圧倒された。大女が憤怒することに対して、彼女は嫉妬していた。


「余計にアタシらより綺麗なのも相まって、凄くムカつく。時代遅れのくせに、野郎なんかがあんな美しくなんか!

ただ……アイツらの間を割けられねえ。私達の想像以上の関係にあるかも。略奪して後悔するのは……私達かもな。」


 大女は軽蔑した目で、タニアを見つめていた。そんな彼女に対して憐れに思っていた。


(なるほどな……タニアの詰めの甘さ、新米への態度、とことん甘い奴だ。見てられねえ。

奴らが言ってたのも理解できた。アイツは本当に目指す気など無かったんだろうよ。せっかくの美女を見逃し、副将の癖して男に負けるなんざ……論外にもほどがある。

……今日限りでここを離れるか。奴の首を取って、傷ついた新米の機体を裏で壊して、私は権威と女を手にする。あの美女の代わりだ!大勢で囲んで、私達の物として仕込んでやる!)


 大女は怒りをそのまま胸に秘めた。

 後に彼女は機械霊に挑み、勇ましい死を遂げることとなった。しかし彼女と同様に、タニアをよく思わぬ仲間が残っている。

 彼らはウルサの機体を今か今かと待ち侘びていた…【大空洞】の留守番をしながら。


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