【完結】社長、俺のこと好きすぎじゃないですか?―キスから始まる溺愛オフィス―

砂原紗藍

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11.素直な気持ち

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翔は会議の資料を取りに一度戻ってきたが、俺に声をかける暇もなく、そのまま出ていった。

パソコンを開いたまま、画面だけを見ている。
……文字が一つも頭に入ってこない。

「やっぱり翔が好きだ」

男として。恋愛対象として。
この気持ちは、もう否定できない。

「でも……」

社長と部下。しかも、男同士。
こんな関係、許されるのか。

スマホが震えた。翔からのメッセージだった。

『会議、長引きそう。お昼は少し遅くなる。先に食べててもいいよ』

俺はすぐに返信する。

『分かりました。待ってます』

送信してから、また顔が熱くなった。

“待ってます”って。
……まるで、恋人みたいじゃないか。



午後一時過ぎ、翔がオフィスに戻ってきた。

「お疲れ様です」

俺は立ち上がって迎える。

「ごめん、待たせた。颯真、まだお昼食べてない?」
「はい……待ってたので」
「ありがとう」

翔は優しく笑った。

「じゃあ、今から行こう。簡単なもので良ければ、近くのカフェでもいい?」
「はい」

カフェは会社の近くにある、落ち着いた雰囲気の店だった。
窓際の席に座り、サンドイッチとコーヒーを注文する。

「翔……」
「うん?」
「俺……」

その時、カフェのドアが開いて、グループ客が入ってきた。
賑やかな声が店内に響く。

俺は口を閉じた。タイミングが悪い。
翔は少し残念そうな顔をしたが、すぐに微笑んだ。

「ここじゃ、落ち着かないね」
「すみません……」
「謝らなくていい」

翔はネクタイを少し緩めた。
その仕草が妙に色っぽくて、俺は思わず視線を逸らした。

オフィスに戻ると、翔はデスクいっぱいに資料を広げ、黙々と作業を始めた。
キーの打鍵音だけが静かな部屋に響いていた。

しばらくして、ふと顔を上げると、窓の外はすっかり夜の色に変わっていた。

机の端に置かれた時計を見て、はっとした。

――もう、午後七時を回ってる。

「颯真は帰っていいよ」

翔は視線を資料に落としたまま、静かに言った。

「俺は、もう少しかかりそうだから」

その横顔には、いつもの余裕がなかった。

「俺も、手伝います」

俺がそう告げた瞬間、翔の手が止まった。

「でも、これは俺の仕事だ」
「翔が困ってるなら、俺も一緒に考えたいです」

顔を上げた翔は驚いたような顔をして、それから笑った。

「……ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えようかな」

二人で資料を整理し始める。
翔が説明してくれる案件の内容は複雑で、取引先との調整が難航しているらしい。

「ここの数字、合わせるのが……」

眉間を押さえ、翔が小さく唸る。
俺は隣から資料を覗きこんだ。

「この部分、納期を一週間ずらして……ここを調整すれば、こっちに余裕ができます」
「――それだ」

顔を上げた翔の表情がぱっと明るくなる。

「颯真、助かった。本当にありがとう」

翔は嬉しそうに笑っていた。

時計が午後十時を指した頃、ようやく一段落ついた。

「ふう……」

翔は椅子に背を預けて、天井を仰いだ。

「颯真のおかげで、なんとか目処がついた」
「いえ」
「本当にありがとう。よし、帰るか」
「……はい」

翔は俺を見て、優しく微笑んだ。
でもその笑顔の奥に、どこか影のようなものがあるのがわかった。

「……翔」
「ん?」
「何か、あったんですか?」

翔は少し驚いたような顔をして、それから小さく笑った。

「颯真は、よく見てるんだな」

翔は視線を落とした。

「実は……今日、取締役会で色々言われてさ」
「……え?」
「『若造が調子に乗るな』とか、『もっと慎重にやれ』とか」

翔の声が、少し沈む。

「社長だから、弱音吐けない。みんなの前では、いつも強くいなきゃいけない」

翔は自嘲するように笑った。

「でも本当は……たまに、すごく疲れる」

その言葉に、胸が痛んだ。
翔はいつも完璧に見えた。仕事もできて、決断力があって、強くて。

でも今、目の前にいるのは――。

「一人で抱え込まないでください」

気づけば、そう口にしていた。

「辛い時は、俺に言ってください。俺、翔の力になりたいです」

この人の隣で支えたい。
これは、憧れじゃない。尊敬でもない。

「颯真」

翔が顔を上げて、俺を見た。
その目は、優しさと愛情に満ちていた。

「お前がいてくれて、本当に良かった」

翔の手が俺の頬に触れる。
俺は意を決した。

「俺、全部思い出したんです。歓迎会の夜のこと」

その言葉に、翔の表情が一瞬変わった。

「俺が、翔にキスしたこと。好きだって言ったこと。抱いてって……言ったこと」

翔は言葉を発さず、ただ俺をじっと見つめていた。

「翔が俺のこと……見た目じゃなくて、ちゃんと見てくれたこと」

声が震える。

「それが、すごく……嬉しくて」

涙が滲んだ。

「俺、翔のこと……本当に、好きです」

翔は驚いたような顔で、俺を見つめていた。

「……今、何て」

俺はもう一度、はっきりと告げた。

「翔のことが、好きです」

その言葉を聞いた瞬間、翔の目が大きく見開かれ、そして――翔は俺を抱きしめた。

「っ……!」

翔の腕が、俺を優しく包む。
温かい。そして少しだけ、震えていた。


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