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第50話 道中 迎えと別れ

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 建物から少し離れたところに馬車は停めてある。少しだけ街道を逸れたところに置いたのは万が一を考えてだったのだが。

 その馬車の上に人影が見えた。

「遅かったではないか」

「「エリック様!」」
 オスカーと二コラは共に走り出し、そして膝をつく。

「手間取ってしまい申し訳ございませんでした。まさかあなた様までいらっしゃるとは、お手数をおかけしてしまい、誠に申し訳ございません」
 口調を改め、オスカーは凛々しい声で主に謝意を述べている。
 ギャップが凄い。

「いや、思ったよりも早い解決だ。咎める事などない。それで二コラ、怪我をしたと聞いたが、大丈夫か?」

「僕は大丈夫です。ですが新たな情報を得られず、申し訳ございません……しかしエリック様がこちらにいらしたという事は、あの者達は無事にファルケへと戻れたのですね」

「あぁ。二コラのお陰だ、感謝するぞ」

「有難きお言葉です」
 ニコラは唇を噛み締め、喜びに浸っているようだ。

「リー殿、いやリオン殿。ありがとう。まさかここまでしてくれるとは思っていなかったよ。あなたの働きで部下たちは無事だし、国も守れそうだ。礼を言う」

「いえ、成り行きでこうなっただけですから。それよりもエリック様、国を離れていいのですか? 内通者がいるかもしれないと伝言したと思うのですけど」

「大丈夫だ、父上に任せてきたからな。それにリオン殿から貰った有益な情報のおかげで対策も考えてある」
 エリックは地上に降り立つとリオンに頭を下げる。

「約束通りリオン殿の後ろ盾になる事を誓おう。リオン殿の大切な者達も全てファルケ国の要人として扱う事を約束する」

「それは有難いです」
 マオやカミュ、そしてラタで暮らしている皆も対象になるだろうか。

「実はラタの国にも家族に等しいものがいるのです、もし良ければ皆と共にファルケへと移住をしても大丈夫でしょうか?」

「落ち着いたらぜひ迎えに行かせてもらおう。リオン殿が来てくれるなら我が国は安泰だな」
 エリックが視線を移し、微笑んでいる。

 その視線の先には少々悔しそうなセシルがいた。
 一連のやり取りでマオが起きた為に共に馬車から出てきたようだ。

「先を越されましたか。はぁリオン殿の頭脳と胆力はレーヴェ国でもと望まれていたのですが……エリック殿下相手では分が悪いですね」

「駄目だったと帰ったら伝えるといい。口約束とは言え俺が先に了承を得た。ここに居る皆が証人だな」

「僕では張り合えませんのでこの場では大人しく引きますよ。それにファルケの方が兄妹で居られていいでしょうし」
 マオと二コラが側に居られる環境ならばそれは良い事だろう。

 ようやっと会えたのだから。

「もしかしてレーヴェも同じ条件で受け入れてくれるの?」

「レーヴェも候補に入れてもらえるのですか? もちろん喜んでその条件を受け入れます!」
 言葉を撤回される前にとセシルは前のめり気味に返事をする。

 エリックはリオンの言葉に驚いていた。

「リオン殿、ファルケでは不満という事か?」

「いえ、そういう事ではないのですが、レーヴェの方がご飯が美味しい。とマオが言っていたので」
 さらりとマオの意見を重視しようとするリオンにエリックは呻き、しかし反論はしなかった。

「食は確かに大事なことだ。それに伴侶の願いを叶えてあげたいというのも否定は出来んな」

「意外と怒らずに受け入れてくれるんですね」
 冷たいと称されるエリックの葛藤に、意外性を見出す。

「リオン殿は命令して大人しく聞くタイプではなかろう、恐らくマオ嬢も。ならば本心からいいと思ってもらわねば、すぐに離れてしまう。押さえつけていい仕事が出来るとは思えないしな」

「怖い人かと思ってたですけど、優しいのです」
 マオもびっくりしている。

「二コラの身内であれば、無碍には出来ない。だが、まだ書類にサインをしたわけではないからな、諦めてはいないぞ」

「さっき口約束も約束って……」

「正式なものはやはり文書だ。リオン殿、王族だったならばわかってくれるだろう」

「言葉を巧みに操らないと駆け引きは出来ませんよね。どちらもいい国なので、とりあえず保留です。ゆっくりと見させてもらってから決めますよ」
 リオンはこの話はここで終わりだと、話題を切った。






 エリックと二コラ、そしてオスカーは先にファルケへと戻る事にした。

 そしてライカとセシルもまたレーヴェへと戻るという。

「リオン様達はペコラ国の観光をしてからゆっくりとお戻りください。その頃には両国落ち着いていますから」
 そう言ってセシルは幾許かの資金を渡してくれた。

「こんなに多くのお金、受け取れないよ」

「気兼ねなくお使いください。何かあった時の為に必要だろうと持たされたもので少ないのですが、国に来た際は不足分を支払います」
 セシルに押し付けられ、リオンは仕方なく受け取る。

「いや、でも悪い気分だよ」
 まだきちんと終わってないのに遊ぶのは気が引ける。

「レーヴェがそうしてお礼をするのに、王太子である俺が何も渡さないのは申し訳ないな。リオン殿、一度身分証を出してくれないか?」
 そう言ってファルケが出した三人の身分証に自分のサインを入れ、国章の入ったカフスボタンを手渡す。

「これでファルケ国の者だと認められるだろう。俺の名も遠慮なく使っていい。そうすれば質のいいホテルや店に入れるし、安全だからな」

「こんな大切なもの軽々しく渡しては駄目です、もしも落として拾われて悪用されたらどうするんですか?!」

「悪用した者は厳罰に処さねばいけないから、被害者を増やしたくなければ落とさないように気をつけてくれ。では、またな」
 エリックとオスカーは空を、二コラは地を駆けていく。

 気のせいかエリックが来てから二コラは急激に元気になっていた。

(怪我も本当はしていたんだよね、何故か治っていたけれど)
 血で汚れていたのと二コラが隠していたので最初はわからなかったが、着替えの際に大きく服が破けていたのが見えた。

(治癒魔法の使い手かとも思ったけれど、それなら薬でやられた時とか解毒しそうだし……うーん)
 ちょっと謎である。

「それではリオン様、俺達も行きます。またレーヴェで会いましょう」

「ありがとうございました、リオン様。マオさんも今度来た時にはまた美味しいものを用意しますので。カミュさんも、今度来たらゆっくりお酒でも飲みつつ話しましょう」
 獣化したライカの背にセシルが乗り、猛スピードで駆けて行った。



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