【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。

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第64話 終わりの話

 そうしてようやく侯爵家に着いたが、その頃にはもう夜になっていた。

 私だけ別行動をとらせてもらえたのは目元が赤かったからかしら。着替えや夕食をとらせてもらった後、皆の元に行き会話に混ざる。

(何だか皆の雰囲気が変わったように思えるのだけれど)

 それぞれが距離が開いたような違和感を覚えたが、今指摘をする事ではないだろう。
 後でリヴィオに聞けばいい、彼は私に嘘はつかない。

 お父様とお兄様に改めて何があったのかを聞かれた為、事前に決めていた言葉を告げた。

「学園でタリフィル子爵の従者というものに脅されて、馬車に乗せられたのです。見知らぬ場所に連れて行かれた後は眠らされまして……起きたらリヴィオやカルロス様達に助けられておりました。気づいたら全てが終わっていたのです」

 そう言うのが私に任せられた役割だ。

 これは後で裁判の席で聞かれた時もそう答えて欲しいと、カルロス様より頼まれている。

 家族に嘘をつくのは心苦しいが、ローシュを殺そうとした事を蒸し返され、私のせいでブルックリン侯爵家の地位が脅かされるわけにはいかないと、条件をのんだ。

 お父様は始終苦い顔をしていたが、これ以上の追及はこの場ではなかった。また改めてカルロス様と話をするとし、無理矢理納得したようだった。

「話をありがとう、エカテリーナ嬢。大変な一日だったね、後はゆっくりと休んでくれ」

 カルロス様から優しい微笑を向けられたが、本心かはわからなかった。

 馬車の中で色々な話をリヴィオに聞かされ、今は猜疑心が出て来てしまう。

(カルロス様は何故リヴィオを脅してまで忠誠を得ようとしたの? そんなものに何の意味があったかしら?)

 表向きは自分の私兵を出す為との事だったが、苦しい言い訳だ。

 リヴィオが欲しいのか私の力が欲しかったのか。けれど彼は私が魔法を使えるとは、世間に言わない方がいいと言っている。

 ならば私の魔法をあてにしているとは言いづらい。どちらかというと、世間には秘密にして欲しいという素振りである。

(目的はリヴィオ?)

 偽りの誓いをさせるなんて警戒を持った方がいいわね。もちろんそのような所は表に出さず、利用できるところは利用させてもらうつもりだけど。

(万が一の時には、私には侯爵家という後ろ盾があるわ……)

 けれど胸には新たな不安が過ぎっていた。

 ぜひともこの勘が当たらない事を願うばかりだ。





 カルロス様が帰った後は家族会議として徹夜で話をしていたようだ。

 その頃には私は久々に魔法を使った反動で夢の中である。

 翌朝憔悴した顔のリヴィオを見て心配になるが、「後でまとめてお伝えします」と
 言われたためにその場では聞かずゆっくりと休ませる。

 その後数日に渡り、お父様やお兄様、リヴィオはそれぞれ出かけていた。

 その間私は学園に通うことはなく、安全のために侯爵家にて待機となり、おかげでリヴィオと会うのは朝食と夕食の席だけ。正直もっと側に居たくて仕方ないのだが、この件が解決するまではと我慢をする。

(一緒に連れて行ってくれてもいいと思うのだけれど)

 そうして待つこと数日、カルロス様に呼ばれ王城へと行く時が来た。





「待たせて済まなかったな、エカテリーナ嬢」

「えぇ。だいぶ待ちました」
 不躾ではあるもののわざと不遜な言い方をする。

(これくらいいいと思うのわ)

 リヴィオの話を聞くに、カルロス様は色々と秘密にしたがる癖があり、圧倒的に言葉が足りない人というのがわかった。

 その事で振り回されたこちらとしては怒りを覚えるが、リヴィオの宥めで何とか抑える。本当に教えてくれる気はあるのだろうか。

(全てが終われば何でも答えるというものの、そんな日は来るのかしら)

 まぁ少なくとも今日は記念すべき日だわ。いよいよ長い因縁との決着がつくのだもの。

「本当にすまなかった」

 カルロス様の表情は少し会わない間に疲労の色が濃くなり、荒んでいた。

 世間に公表した王家のスキャンダルの対応やタリフィル子爵につけこんだ教団への制裁、そしてこの事により数多くの非難が王家に寄せられたから仕方ない。

 いろいろな後始末に追われ休む暇もなかったというのは容易に想像がつく。

 国王様や王妃様はこの状況で心労で倒れてしまったそうだ。恐らくこのまま表舞台には出ないおつもりだろう。

 こうまでしてカルロス様に全てを背負わせたというのは、つまり、このまま現国王陛下は責任を取って……否、責任逃れの為に退位するのであろう。

 父王と弟によって残された茨の道を歩むのがカルロス様の責務となるわけね。

(ブルックリン侯爵家は、どう判断しているのかしら)

 このまま王家に仕えるかどうか・

 もしかしたらここ数日のお出掛けはその為だったのかも。行先は自分の派閥の貴族であった可能性もある。

(どうなるかは、私が考える事ではないわ)

 家の決定に私が口を出しても聞き入れては貰えないだろう。

 今はその事よりも彼の処罰を聞かなくては。その為に来たのだから。

「謝罪は充分です。それよりも本当に立ち会わせてもらえるとは思ってませんでしたわ」

「だいぶ強く望んでいたじゃないか。エカテリーナ嬢もポエットも、リヴィオだって」

 カルロス様は苦笑している。

「皆に会って欲しいのは、それだけの事をしたのだと、最後にあいつにわかって欲しいという思いもある。まぁそう思い至るかという望みは薄いが」

 遠くを見つめるその瞳に光はない。

 どれだけ葛藤し、そしてどういう思いをしているのだろう。

「いいのですね?」

「気遣いは無用だ。もう弟の事は、血縁とは思っていない」

 その言葉に嘘はなさそうだ。

「では、よろしくお願いします」

 案内されるままにカルロス様の後ろをついて歩く。

 その私達の後ろからは黒髪の大柄な男性と、白髪の華奢な女性がついてきた。女性の方は何度か話したことがあるわ、同じ魔女として。

 皆特に口を開くことなく、歩き続けた。

 罪人となったローシュの元を目指して。






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