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洗脳すれば良いじゃない。

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王城に攻め入ろうとする座天使メイドたちを慌てて止めたルシフェルは、落ち着いた頃合いを見計らって切り出す。

「ねぇみんな。ちょっといいかな?」
「はっ。なんなりと」

天使たちが拝礼する。

「えっとね、俺たちは人の信仰を集めにこうしてやって来た訳だけど、そもそも信仰ってどうやって集めたらいいと思う? 良ければ一緒に考えて欲しいんだ。」

ルシフェルは困ったように眉尻を下げた。
指で頬を掻く。

「情けない話なんだけどさ、実は俺、ノープランで……」

ここに至るまでの道中、ルシフェルは自分なりに信仰を集める方法を考えていた。
けれどもルシフェルの中身は、所詮一般的な日本人。
何かを信仰した経験もなければ、された経験もない。
そんなルシフェルには、信仰を集める良い方法などひとつも思い浮かばなかったのである。

グウェンドリエルが応える。

「プランなど必要ございませんわ。下等な人間がルシフェル様を信仰するなど、当然のこと。それこそ自然の摂理ですわ。貴方様はただ御坐おわすだけで崇拝され、謳われる御方なのですから」

ジズはうんうんと頷いている。
ルシフェルは即座に突っ込む。

「ないない! それはないから! 俺のこと過剰に持ち上げ過ぎだから! 大体いま俺が王都に来てること、街のみんなは知らないでしょ。それでどうやって崇拝するの」
「じゃあ街に出るの!」

元気に声を上げたのはジズだ。
薄い胸を張り、自信満々な態度で意見する。

「街に出れば、ルシフェル様がここにいるって人間たちに伝わるの! あとは信仰しろって命令するだけでいいの! 簡単なの!」
「はぁ⁉︎ 却下だよ、却下! 見知らぬ相手にいきなり『俺を信仰しろー』って、それじゃあただの変人じゃないか!」
「そうですわよ、ジズ」

グウェンドリエルはジズに渋い顔をした。
たしなめるような声色で言う。

「ルシフェル様おみずから尊き御言葉をお授けになるなんて、人間風情には分不相応ですことよ。勿体ないですわ」
「うー、そっか。ドリルの言う通りなの」

ルシフェルは白目を剥いた。
ダメだ。
この二人は頼りにならない。



ルシフェルは助けを求めるようにシェバトを見る。
するとシェバトはしかと頷いた。
いつもの丁寧な口調で応える。

わたくしに良き案がございます。人間どもを一ヶ所に集め、まとめて洗脳されてみては如何でしょう?」

ルシフェルはまた白目を剥いた。
けれどもすぐにハッとなる。

「……洗脳……」

案外良い手かもしれない。
洗脳と言うと聞こえは悪いが、ルシフェルは別に洗脳して悪さをしようと言う訳ではない。
ちょっと信仰してもらうだけである。

「……ふむ」

いけるかも知れない。
いや、いける。
ルシフェルの考え方は無自覚に天使的――というより悪魔的かもしれないが――思考に傾斜しつつあった。

「よし、それで行こう。でもそうだな、大規模に洗脳する前に、ちょっと何人かで試してみたいなぁ」
「畏まりました」

シェバトが座天使メイドに声を掛ける。

「リション、シェニー、シリシー。貴女たちに任せます。そうですね、五名ほど人間を手配しなさい。ただし荒事は禁止します」
「はいっ」

三人は嬉しそうに返事をする。
行って参りますとうやうやしくルシフェルに挨拶をして、退室していった。



部屋に沈黙が流れる。
座天使メイドが戻ってくるまで、これといってやることがない。
ルシフェルはテラスの向こうに見える王都の街並みを眺めた。

道ゆくひとは様々だ。
日本とはまるで違う。
武装した戦士風の者もいれば、数は少ないものの額から角を生やした鬼人や獣耳のある獣人、見目麗しいエルフなんかもいる。

ルシフェルはちょっと気分が高揚していた。
街に繰り出してみたいな、と思う。
そしてとあることを思い出した。

「ね、グウェンドリエル」

呼び掛けられたグウェンドリエルは背筋を伸ばして頭を下げる。

「何で御座いましょう、ルシフェル様」
「いや、そんな畏まらないで。大した話じゃないんだけどさ。グウェンドリエルって、たしか食べ歩きが趣味なんだよね?」
「……うっ。そ、それは……」

グウェンドリエルが返事に詰まった。
既にジズにバラされてしまってはいるものの、グウェンドリエルは食べ歩きの趣味をおおやけにはしていない。
はしたないと思われるかもしれないし、特にルシフェルには知られたくない。

しかし問われた以上は答える。
守護天使たるもの、ルシフェルに嘘はつけない。

「は、はい。仰られます通り、わたくしの趣味は、食べ歩き……ですわ……」
「だよね、だよね。じゃあさ、じゃあさ」

ルシフェルは目をキラキラさせて尋ねる。

「どこかおすすめのお店とかある? 案内してよ。俺、こっちの世界の料理とか食べてみたいなぁ。あとお酒とか飲みたい!」

こうして一行は天使メイドが戻るまで、食べ歩きで時間を潰すことにした。
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