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金獅子姫ってなんですか。

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ルシフェルたちは王都の雑踏を歩く。

日本育ちのルシフェルは、おのぼりさんよろしく行き交う人々の服装なんかを眺める。
武器や鎧を装備した通行人なんてファンタジー感満載だ。
たとえばモンハン世界にでも迷い込んだ気分になって、見ているだけでも楽しい。
それに獣人やエルフみたいな亜人種ともすれ違う。

ところでこのような亜人種は、ルシフェルが『情報』アプリで調べたかつての千年王国ミレニアム時代には存在していなかった。
当時は神と天使と人間と悪魔がいただけ。
では亜人種は、いつどうやって誕生したんだろう。
ルシフェルは歩きながら、ふとそんなことを考えた。



一行は目的地に到着した。
目的地とはグウェンドリエルが贔屓にしている冒険者酒場である。

「さあルシフェル様、着きました。このお店ですわ」
「ここがグウェンドリエルの行きつけの……。へぇ、思ったより庶民的な感じなんだねぇ」

グウェンドリエルはお嬢様風の容姿をしているが、見た目に反してB級グルメマニアだ。
であるからには必然として馴染みの店も大衆店や屋台になる。

「それではお店に入ると致しましょう。ごめんくださいまし」
「たのもー、なの!」

一行はグウェンドリエルに続いて店に入る。
すぐに肉の焼ける匂いが漂って来た。
ルシフェルは途端に食欲を刺激される。

店内は大勢の客で賑わっていた。
店は石造りで中二階ちゅうにかいがあり、調度品など店内の飾り付けは質素。
丸テーブルや椅子、食器類なんかは素朴な風味の木材で拵えられている。
いかにも冒険者酒場という風情だ。

「うわぁ……」

ルシフェルは自然と感嘆した。
否応なくテンションが上がっていく。

時刻はまだお昼過ぎではあるものの、酒場にはすでに足もとがおぼつかなくなった酔客なんかも多くいた。
けれども誰もそれを咎める様子はなく、ルシフェルなどは日本との文化の違いに感心する。

酒場のホール給仕が、入店してきたグウェンドリエルの姿を認める。

「いらっしゃいま――はうあッ⁉︎」

素っ頓狂な声があがった。
かと思うと給仕は揉み手をしながら早歩きで一行を出迎える。

「こ、これはこれは、グウェンドリエル様! ようこそおいで下さいました!」

ルシフェルはグウェンドリエルに尋ねる。

「顔馴染みなの?」
「はいですわ。恥ずかしながら、通っている内に顔を覚えられてしまいまして……」

店内を見渡すと、あれほど騒いでいた冒険者たちは一斉に鎮まっていた。
様子がおかしい。
チラチラとグウェンドリエルを眺めて何かを囁きあっている。
ルシフェルは耳に意識を集中した。
聴覚を鋭くして冒険者たちの小声を拾う。

「……うわっ! み、見ろよあれ。『金獅子姫レオ・レグルス』だぜ?」
「え⁉︎ 『金色こんじき戦お嬢様ヴァルキュリア』⁉︎ あの特S級冒険者の中でも、ダントツ飛び抜けて最強の⁉︎」
「俺、ちょっと声掛けてみようかな……」
「待て、やめとけって。知らんのか? あのお嬢様は、綺麗なツラしてめちゃくちゃおっかないんだぜ?」
「前にしつこく勧誘していた身の程知らずのパーティーが、最後には金獅子姫を怒らせて指一本でぶちのめされてたもんなぁ」

ルシフェルは、拾った情報のうちのいくつかのワードが気になった。
同じく聞き耳を立てていたシェバトが、ルシフェルに代わって尋ねる。

「……グウェンドリエル様。『金獅子姫レオ・レグルス』とは何で御座いましょうか。それに特S級冒険者などと言われておいでのようですが……」

グウェンドリエルは冷や汗を掻く。

「お、おほほ。そ、それはですわね。わたくし、実は冒険者登録をしておりますの。それで二、三クエストをこなしまして、そしたらいつの間にやら、幾つか二つ名をつけられて……」
「え? グウェンドリエルって冒険者なの?」

グウェンドリエルはルシフェルから顔を背けた。
やましい気持ちを誤魔化すように早口で言う。

「でも悪いことはしてませんのよ! アレでございますわ! 人間社会では何をするにもお金が必要。食べ歩きもタダではありません。だからといって天の宝物を尊きルシフェル様のご許可もなく売り捌く訳にはいきませんし、だから私、冒険者をして飲食代を稼いでいたのですわ!」

新たな事実の発覚である。

グウェンドリエルは、たまに天空城を抜け出してパクパクと食べ歩きするだけでなく、冒険者ごっこまで楽しんでいた。

そういうことである。
つまりは隠れて人間社会を満喫していたのだ。

「……ふぅ。貴女様は守護天使という重要なお立場に置かれながら、何をしていらっしゃるのですか」

シェバトが呆れた。
ジズが追い討ちを掛ける。

「むー。ドリル、不真面目すぎるの! ジズ、空のお城に帰ったらみんなにチクッておくの」
「そ、そんな! 御無体ですわ!」

グウェンドリエルは釈明に必死になった。
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