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「…あおい?」

高ぶる気持ちを抑え切れずにベッドの中に潜り込んで泣いていたら、
部屋に戻ってきた柚くんに掛け布団をまくり上げられた。

いいいやあああ――――っ
全裸だから! 全裸だから―――っ!

「…なに泣いてんの?」

布団ごと柚くんに包まれる。

…柚くん。

どうして柚くんの腕の中は、こんなに心地いいんだろう。
どうして柚くんに包まれるとこんなに安心するんだろう。

「どこにも行くなよ」

柚くんが、私の頭のてっぺんに口づけた。

…柚くん。
胸の奥がきゅっとつかまれる。切なくて愛しい。

「…うん」

柚くん。どこにも行かないよ。
ずっと柚くんのそばにいる。

…置いて行ってごめんね。



朝のオフィス街を柚くんと手を繋いで歩いた。

恋人繋ぎ。

どうしよう。
私、浮いてる? 浮いてる? 
地に足が付かな―――いっ

通り過ぎる人がみんな私たちを見ている気がする。

皆さん、すみません。
この隣の超絶カッコいい男の人、私と結婚の約束してくれたんです―――っ

空が高い。
木漏れ日が眩しい。
排気ガスだらけの空気さえ爽やか。

柚くんの綺麗な指が私の指と繋がって、
優しく先をうながしてくれる。

幸せすぎて死ぬ。

「じゃ、後で」

これから警察に行くために、お父さんと待ち合わせしている柚くんと、会社の前で別れた。

遠ざかる背中を見つめる。
背高い。脚長い。スーツ似合う。
髪が揺れる。光が射す。天使。

カッコ良過ぎて目が離せないーーーっ

通りの向こうで柚くんが振り向いて手を上げてくれた。

ああ。
幸せすぎて腰が抜ける。

「男の価値は顔じゃないわよ」

背後から可愛らしいのに毒のある声が聞こえた。

「あ、結子さん。おはようございます」
「男は愛嬌よ。ま、その点トシくんは完璧なんだけど」

トシくん。…誰やねん。
しかも、男は度胸では。

「顔がイイと周りが放っとかないからね。泥沼になるがいいわ」

結子さんは言いたいことだけ言ってスタスタと先にエントランスをくぐる。

えー、完全に素が出てるー。

「まあ、でも」

おっとー、エレベータ前で結子さんが待っていた。

「好きな人に好きになってもらえるって奇跡だから。頑張ったら?」

なぜか、目の前で扉を閉められて乗り損ねたエレベータを見送る。

奇跡。

うん。柚くんは私の奇跡。
神様。柚くんに会わせてくれてありがとう。
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