愛? 不要です。私が欲しいのは『慰謝料』と『商機』だけ!

桃瀬ももな

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「では、新郎新婦による『ケーキ入刀』……ならぬ、『ドーナツ・マウンテン入刀』です!」

司会者のアナウンスと共に、会場が沸き立つ。
ルアーノとギルバートの前には、ミーナが精魂込めて積み上げた高さ3メートルのドーナツタワーがそびえ立っていた。

「……これ、崩れませんか?」

「魔法で固定してある。俺が支えている間に切れ」

ギルバートが小声で囁き、二人は長いナイフを握りしめた。

「せーの!」

ザクッ!
入刀と同時に、ミーナの合図でタワーの頂上からキラキラした飴細工が弾け飛ぶ。
完璧な演出だ。
ゲストから割れんばかりの拍手が送られる。

「素晴らしい!」
「なんと独創的な!」
「そして美味そうだ!」

平和で、幸せで、そして最高に「美味しい」結婚式。
誰もがそう思った、その時だった。

「――待ったぁぁぁ!!」

空気を読まない野太い声が、会場の入り口から響いた。
バン! と扉が開かれ、数人の男たちが乱入してくる。

先頭に立つのは、小太りで脂ぎった男。
ミーナの父親、男爵だ。
その後ろには、かつてアレクセイに取り入っていた「腰巾着」の貴族たちが続いている。

「おのれ、ルアーノ! よくも王太子殿下を騙し、辺境へ追放したな! この悪女め!」

「そうだ! 殿下を返せ! そして我が娘ミーナを返せ!」

男爵が鼻息荒く叫ぶ。
会場がざわめいた。
警備の騎士たちが動こうとするが、ルアーノは片手でそれを制した。

「……やれやれ。招待状を送っていない『招かれざる客(ノイズ)』が紛れ込んだようですね」

ルアーノはナイフを置き、懐からいつもの電卓を取り出した。
ウェディングドレス(パンツスーツ)姿でも、その所作は変わらない。

「お父様……?」

ミーナがドーナツトングを持ったまま、呆然と立ち尽くす。

「おお、ミーナ! 可哀想に、こんな田舎でこき使われて! さあ、父の元へ戻りなさい! お前をどこかの金持ち商人に嫁がせて、結納金を……いや、幸せにしてやるから!」

男爵の本音がダダ漏れである。
ミーナの眉がピクリと動いた。

「……へぇ。お父様、私を売る気満々ね?」

「何を言う! 家のための『有効活用』だ!」

「ふざけないでよ!」

ミーナが激昂し、手に持っていたトングをカチカチと鳴らした。

「私は今、ここの『食品開発部長』よ! 自分の稼ぎで好きなドレスを買って、好きなものを作って、毎日最高に充実してるの! 今さら『お飾り人形』に戻る気なんてないわ!」

「な、なんだと!? 親に向かって!」

「黙りなさい! これ以上お姉様たちの式を邪魔するなら、この『揚げたて激熱ドーナツ』を口にねじ込むわよ!」

ミーナの迫力に、男爵がたじろぐ。
かつての弱気な娘の面影はない。

「くっ……! だが、許さんぞルアーノ! 貴様が殿下をたぶらかした証拠はあるんだ!」

腰巾着の一人が、怪しげな書類を掲げた。

「これを見ろ! 貴様が殿下の予算を横領し、私腹を肥やしていたという『内部告発状』だ!」

「……ほう」

ルアーノは冷ややかにそれを見やった。

「その告発状、日付が3年前になっていますね。当時はまだ、私が財務権限を持っていませんでしたが?」

「うっ……! こ、細かいことはいいんだ!」

「細かくありません。致命的なミス(捏造)です」

ルアーノは溜息をつき、パチンと指を鳴らした。

「セバス。例のモノを」

「はっ」

執事のセバスが、ワゴンに乗せて運んできたのは、巨大なスクリーンと映写機(魔導プロジェクター)だった。

「せっかくですので、披露宴の余興として『決算報告会』を行いましょう」

ルアーノがニヤリと笑う。

「タイトルは『王都における使途不明金、および不正蓄財に関する調査報告書』です」

スクリーンに映し出されたのは、男爵や腰巾着たちが、アレクセイの名を語って裏金を懐に入れていた証拠の数々だった。
領収書の写し、裏帳簿のコピー、そして愛人への貢ぎ物のリストまで。

「な、ななな……!?」

「男爵。貴方は娘の教育費と称して、王家から支援金を騙し取り、それをカジノで使い込んでいますね? 横領罪です」

「腰巾着A様。貴方は公共事業の水増し請求で、金貨3000枚を着服。詐欺罪です」

「腰巾着B様。……これは酷い。架空の『王太子ファンクラブ』を設立し、会費を集めてドロン? セコすぎます」

ルアーノが次々と悪事を暴露していく。
会場のゲスト(各国の要人や国王陛下含む)は、ドン引きしつつも、「なんて詳細なデータだ……」「ヴァレンティ商会の情報網、恐るべし」と戦慄していた。

「陛下」

ルアーノがVIP席の国王に声をかける。

「これらは全て、私が王都の財務整理をした際に発掘した『不良債権』です。いかがなさいますか?」

国王は優雅に紅茶(ドーナツに合う濃いめ)を飲み干し、静かに告げた。

「……連れて行け。結婚式の空気が汚れる」

「はっ!」

待機していた近衛兵たちが、一斉に男爵たちを取り囲む。

「ひぃっ!? へ、陛下!? 誤解です!」
「我々は殿下のために……!」

「往生際が悪いですね。……あ、そうだ」

ルアーノは連行されていく男爵たちに、笑顔で追い討ちをかけた。

「貴方たちの全財産は没収となりますが、それでも返済額には足りません。ですので、彼らも『北の鉱山』へ送ってください。人手不足だと聞いていますので」

「い、嫌だぁぁぁ! あそこは地獄だぁぁぁ!」
「娘よ! 助けてくれぇぇぇ!」

「知らないわよ、バカ親父! 自業自得よ!」

ミーナがアッカンベーをする。
こうして、招かれざる客たちは、披露宴の『スパイス(笑いの種)』として処理され、退場していった。

「……ふぅ。お騒がせしました。では、余興の後半に移ります」

ルアーノが空気を入れ替えるように手を叩く。

「北の鉱山から、祝電が届いております」

「えっ、祝電?」

ざわつく会場。
ルアーノは一通の、泥と涙で汚れた手紙を取り出した。

『ルアーノ、そしてギルバート。結婚おめでとう(血涙)』

読み上げられたのは、アレクセイからの手紙だった。

『私は今、極寒の地でツルハシを振るっている。最初は死ぬかと思ったが、最近は石を割る音に癒しを感じるようになってきた。……筋肉もついてきた気がする』

会場から失笑が漏れる。

『ここで働くうちに気づいたことがある。労働の後の一杯の水が、王宮の高級ワインより美味いということを。……ルアーノ、お前が言っていた「労働の尊さ」とは、このことだったのだな』

「……少しはマシになったようだな」

ギルバートがポツリと言う。

『ところで、この鉱山の奥深くで、奇妙な苔(コケ)を発見した。食べると体が温まり、妙に元気になる。……これを送るから、借金の返済に充ててくれないか? 頼む、減額してくれ。死んでしまう』

手紙と一緒に、小包から取り出されたのは、発光する不思議な苔だった。

ルアーノはそれをじっと見つめ、そして――。

カッ!!

目がドルマークになった。

「……これ、『ヒート・モス』ですわ! 絶滅したはずの、超・高級漢方薬の原料!」

ルアーノは震える手で電卓を叩く。

「市場価格、グラムあたり金貨10枚……。アレクセイ殿下、やってくれました! これは莫大な利益になります!」

「……結局、金か」

ギルバートが呆れる。

「当然です! これなら、新商品『王太子の発熱サプリ』が作れます! 冷え性の貴族女性にバカ売れ間違いなしです!」

ルアーノは手紙に向かって叫んだ。

「アレクセイ殿下! この苔の採取をノルマに追加します! これなら、あと50年で完済できる計算です! 頑張ってください!」

遠く北の空で、何かが「くしゃん!」とする音が聞こえた気がした。

「……というわけで」

ルアーノはゲストに向き直り、満面の笑みで締めくくった。

「過去の清算(断罪)は完了し、新たな収益源も確保できました。これにて、ヴァレンティ商会の決算報告……いいえ、結婚披露宴の余興を終了とさせていただきます!」

ワァァァァァ!!
会場から、今日一番の拍手喝采が巻き起こった。
悪を裁き、利益を生み出し、全てをエンターテイメントに変える。
それこそが、ルアーノ・ヴァレンティという女の流儀だった。

「……最高だ、君は」

ギルバートは、誇らしげに妻の肩を抱いた。

「退屈しない人生になりそうだ」

「ええ。貴方を飽きさせませんよ。死ぬまでね」

二人はドーナツタワーの前で、甘い口づけを交わした。
その味は、勝利の美酒(ミントティー)の味がした。

こうして、波乱万丈の結婚式は幕を閉じ、二人の新婚生活(ビジネス・パートナーシップ)が本格的にスタートするのだった。
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