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第一話 まずはプレイしてみましょう。
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「本千葉さん。今日飲み会やるんだけど、来ない?」
授業が終わると、同じ教室の女子学生が声をかけてきた。
大学生。春。二年目の春だ。一年前はドキドキしながら入った教室も、今は慣れてしまって新鮮味はない。
「飲み会?」
わたしは声をかけてくれた女子学生に聞き返す。
「そ。飲み会」
もじゃもじゃと長い髪を伸ばし放題にした彼女は、にこっと笑って頷いた。
金曜日。華金というやつか。
「いいよ。わたし、お酒飲めないし」
友達、というほどの間柄ではない。わたしは部活やサークルに入っていないので、この大学で友達と呼べる人物は皆無だ。話しかけてきた彼女も、たまたま選択した授業が同じで、一年生の時に何度か話をした事があるという程度だ。
「あたしだって飲めないよ~。大丈夫、今は飲めない子には無理に飲ませないし。先輩らが多めに出してくれるから財布にも痛くないよ~」
「いいって。わたし今日、用事あるし」
言いながら、わたしは立ち上がった。
そう。今日は大事な用事がある。他人には関係ないが、わたしにとっては大事な用事が。
「え~頼むよ~。あたし、本千葉さんともっと仲良くなりたいんだよ~。何か頭良さそうだし」
彼女は拝むように両手を合わせ、お願い! と頭を下げた。格好は男の子のようで、化粧もしていないが、肌はつやつやで顔は卵型。目はぱっちりしていて可愛い顔立ち。名前は、確か……。
「ごめん、蘇我さん。本当に大事な用事なんだ」
何とか名前を思い出して、わたしは断りを入れる。
蘇我さんはちょっと寂しそうな顔をした。
「……まあ、それなら仕方ないね。でもさ、次は来られたら来てよ。絶対楽しいからさ」
「うん。わかった。また今度ね」
「ホント? まじ期待しているからね!」
わたしの返事に蘇我さんはまたにこっと笑った。
「蘇我っち~。そろそろ行こうぜ~」
蘇我さんの友人らしい女子学生が、教室の出口から彼女を呼んだ。
「今、行く~! それじゃあ本千葉さん、次回ね! 絶対だよ、絶対!」
言いながら、蘇我さんは勢いよく立ち上がる。
その拍子に、少し開いていた彼女の鞄から何かが落ちた。中でがさっとした音がしたが、物は無事だった。縦長の、がっしりした箱だ。高さ十センチほど、横幅七センチほど。
「あ、大丈夫?」
わたしはその箱を拾い上げる。真っ赤なフェイクレザーの箱。蓋に商品名のロゴが刻まれている。ちょっとだけ重い。
「これ……」
「ああ!? ごめん! ありがとう!」
蘇我さんはわたしの手から箱を受け取る。
「じゃあ、本千葉さん! 次は飲み会でね!」
言って、蘇我さんは箱を鞄に仕舞うと、今度はしっかりチャックを閉めて、教室の外へとかけて行った。
何だか知らないうちに気に入られていたらしいが、身に覚えがない。飲み会は……全く行く気がないとは言わないが、最初は大人しいのがいい。お酒飲んだ事ないし。
そんな事より、今の箱――
「デッキケース……」
そうだ。恐らく、間違いない。カードゲームのデッキケースだ。
授業が終わると、同じ教室の女子学生が声をかけてきた。
大学生。春。二年目の春だ。一年前はドキドキしながら入った教室も、今は慣れてしまって新鮮味はない。
「飲み会?」
わたしは声をかけてくれた女子学生に聞き返す。
「そ。飲み会」
もじゃもじゃと長い髪を伸ばし放題にした彼女は、にこっと笑って頷いた。
金曜日。華金というやつか。
「いいよ。わたし、お酒飲めないし」
友達、というほどの間柄ではない。わたしは部活やサークルに入っていないので、この大学で友達と呼べる人物は皆無だ。話しかけてきた彼女も、たまたま選択した授業が同じで、一年生の時に何度か話をした事があるという程度だ。
「あたしだって飲めないよ~。大丈夫、今は飲めない子には無理に飲ませないし。先輩らが多めに出してくれるから財布にも痛くないよ~」
「いいって。わたし今日、用事あるし」
言いながら、わたしは立ち上がった。
そう。今日は大事な用事がある。他人には関係ないが、わたしにとっては大事な用事が。
「え~頼むよ~。あたし、本千葉さんともっと仲良くなりたいんだよ~。何か頭良さそうだし」
彼女は拝むように両手を合わせ、お願い! と頭を下げた。格好は男の子のようで、化粧もしていないが、肌はつやつやで顔は卵型。目はぱっちりしていて可愛い顔立ち。名前は、確か……。
「ごめん、蘇我さん。本当に大事な用事なんだ」
何とか名前を思い出して、わたしは断りを入れる。
蘇我さんはちょっと寂しそうな顔をした。
「……まあ、それなら仕方ないね。でもさ、次は来られたら来てよ。絶対楽しいからさ」
「うん。わかった。また今度ね」
「ホント? まじ期待しているからね!」
わたしの返事に蘇我さんはまたにこっと笑った。
「蘇我っち~。そろそろ行こうぜ~」
蘇我さんの友人らしい女子学生が、教室の出口から彼女を呼んだ。
「今、行く~! それじゃあ本千葉さん、次回ね! 絶対だよ、絶対!」
言いながら、蘇我さんは勢いよく立ち上がる。
その拍子に、少し開いていた彼女の鞄から何かが落ちた。中でがさっとした音がしたが、物は無事だった。縦長の、がっしりした箱だ。高さ十センチほど、横幅七センチほど。
「あ、大丈夫?」
わたしはその箱を拾い上げる。真っ赤なフェイクレザーの箱。蓋に商品名のロゴが刻まれている。ちょっとだけ重い。
「これ……」
「ああ!? ごめん! ありがとう!」
蘇我さんはわたしの手から箱を受け取る。
「じゃあ、本千葉さん! 次は飲み会でね!」
言って、蘇我さんは箱を鞄に仕舞うと、今度はしっかりチャックを閉めて、教室の外へとかけて行った。
何だか知らないうちに気に入られていたらしいが、身に覚えがない。飲み会は……全く行く気がないとは言わないが、最初は大人しいのがいい。お酒飲んだ事ないし。
そんな事より、今の箱――
「デッキケース……」
そうだ。恐らく、間違いない。カードゲームのデッキケースだ。
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