忘れられた妻

毛蟹葵葉

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離縁届の受理は問題なくできた。
3年間の地獄のような結婚生活が呆気なく終わったのを目の当たりにしたチネロは、なんとも言えない気分になった。

結婚したその日は、きっと、自分は幸せになって今頃は子供を抱きしめていた姿を想像していた。

しかし、現実は全く違う。

痩せ細った身体、ようやく回復してきたけれど、いまだに杖を使わないと歩くのが困難だ。ローディンは話してはくれないけれど、どのくらい後遺症が残るかわからない。

「行きましょうか、ほら、手に力が入りすぎてる」

サラに声をかけられて、チネロは、ずっと手を握りしめていた事に気がつく。
付き添ってくれたローディンは、何か言いたげにチネロを見ていた。

「終わりましたね。しばらくは治安のいい所で生活しましょう。宿を用意してあります」

ローディンに肩を叩かれて、チネロはようやく肩の荷が降りたような気がした。
力が抜けたようにその場に座り込みそうになって、二人が慌てて彼女を支えた。

力の抜けたチネロを抱き抱えるように馬車に戻ると、ユイはいつのまにか、メイド服を脱いで仕立てのいい平民の男性が着るような服を着ていた。
メイド服は全体的に異様に盛り上がっていたけれど、女装をやめたらその鍛えられた身体つきがよくわかる。

「俺は、どうやら女装が似合わないようだ」

ユイはそう言って悲しそうに俯く。
何か、大好きな女装をしていた彼の心を折るような切っ掛けがあったのだろうか。
チネロはそう考えると、ユイが可哀想に思えた。

「チネロさんの側にいるには、女装した方がしっくりくると思ったんだけどな」

「僕は止めたよ。だけど、敵を欺くにはって言って聞かなかっただろう!」

女装メイドの護衛のはユイが考えてやったようだ。
違和感は少しだけあったけれど、見慣れればそうでもなかったのに。と、チネロは思った。それを言ってもなんの励ましにもならないので何も言わないことにした。

「だって!女の護衛だったら問題ないと思ったんだもん!」

「どうやら、男か女かわからない奴と言われたのがショックだったようで……、賊も優しいですよね。言葉を選んでくれたんだから」

そういえばそんな事を賊が話していたような気がすると、チネロは思い出した。

あれから、何度も考え直したけれど、彼女の気持ちは変わらなかった。
たとえ、家族やメリッサが悲しんだとしても、助けてくれたローディンの好意に甘え続ける事はもうできない。
逃げ回った結果が、今日の襲撃だ。大きな怪我人は出なかったけれど、これが続いたらきっと被害が出る。
もし、そうなったらチネロは自分の事が許せなくなるだろう。

「ローディンさん。話がしたいです」

チネロが声をかけると、ユイに苦笑いを浮かべていたローディンは、いつになく真剣な表情に変わった。

「わかりました。落ち着いて良さそうな内容のようですね。宿に着いたらにしましょうか」
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