忘れられた妻

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「おかえりなさい。あなた」

セインの顔を久しぶりに見たローディンはなんとも言えない気分のまま家に帰った。
チネロは、ローディンの複雑な気持ちを気遣うような微笑みを浮かべて迎えてくれた。

「ただいま」

「どうだった?」

ローディンはセインとのやり取りをチネロには、言わないようにした。
ローディンは、セインと完全な絶縁をするために会いにいったが、チネロはそんな目的のために会うように背中を押してくれたわけではなかった。
チネロはされた事が許さなくても、その相手や家族が不幸になって欲しいとは思わない性質だ。

「うん、身体は大丈夫そうだったよ。今、幸せだから大丈夫だよ。ってセインは話していたよ」

「そう、よかった」

チネロはローディンの話を聞いて安堵したように息を吐いた。
された事は許せないけれど、だからといって、セインとローディンがそのせいで仲違いしたままなのが申し訳ない。と、チネロはいつもこぼしていた。

彼女は本質的に誰よりも優しくて寛容だ。

だからこそ、母は、彼女のことが心配で仕方なかったのかもしれない。メリッサは、娘同然にチネロの事を可愛がったのだろう。
親になったローディンは、チネロの二人の、いや、ローディンの母を含めて三人の母の気持ちが痛いほどよくわかった。
血を吐くような頼み事をしたセインの気持ちもよく分かった。

だけど、手を貸さない事にしたのは、人のいいチネロの代わりの仕返しだ。ローディンは自分が狭量だと分かっていてもどうしてもできなかった。
罪を償いもしない奴らが、のうのうと幸せそうに生活しているのがどうしても許せなかった。二人は受けるべき報いを受けるべきだ。と、ローディンは思っていた。それが身勝手な自己満足だったとしても、チネロが望まなくても。
無関係のマリーを巻き込んだ事は申し訳ないと思っているけれど、きっかけがあれば彼女を助けるつもりでいる。

ローディンは、きっといつかセインにしたことの報いを受けるのかもしれない。
しかし、それは覚悟していた。

「貴方、食事の準備ができたら食べましょう?」

優しいチネロ。今日のことを知ったら彼女は心を痛めるだろう。しかし、ローディンは絶対にこのことを伝えるつもりはなかった。

これから、穏やかな日々をチネロと過ごすだろう。幸せの影に隠れて、ふとした拍子に砂粒を噛みつぶすような後悔を思い出すのだろう。

けれど、それを含めてローディンは今の生活が幸せだった。
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