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満期(20歳)に首と胴が離れます

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「こんな田舎者と不満はありませんか?」

 フェリクスとの婚約に不満なんてない。
 どちらかというと、不安と時期(満期)が来たら魂を奪われる恐怖しかない。
 ここで、田舎者と少しでもディスったら、満期(20歳)を迎える前に魂を奪われそうだ。

「いいえっ!お父様が、話していました。誠実で真面目でとても優秀で素晴らしい人だと」

「そう、でも、貴女は僕のことを知らないですよね」

 私は必死になって、父からの評価をフェリクスに話した。
 フェリクスはというと、私からの評価ではないだろう。と、疑いの目を向けてきた。
 確かにそうだが、知りもしない相手をどう評価すべきか。適当な事を言ったところでこの男は騙されないだろうし。褒めようにも詰んでいる。

「え、ええ。そうですね。でも、貴方の事何も知らないですし、出身なんてどうしようもないじゃないですか、生まれもそうですし、私の事の方が、その、よろしいんですか?」

「はい?」

 だから、私は必死になって話を逸らす事にした。

「わ、私、令嬢にあるまじきおっちょこちょいですし、じゃじゃ馬ですし、お淑やかさの欠片もないのよ。使用人のお手伝いとかついついしてしまうし、不器用だから失敗ばかりだし」

「……」

「そ、それに、ポンコツだし、腹の探り合いとか全然できないし、だから、王都では暮らしていけないから、貴方のところで厄介になるしかないの」

 言いながら、自分にはいいところが全くない事に気がつく。
 呆れていないかとフェリクスの方を見るが、彼はポカンとした顔をして今度は笑い出した。

「ふふふ、ははは、そうだね。確かに、そういうのは向かないよね。見ててわかるよ」

 いつのまにか言葉がくずれていて、気安く話してくれているのだと気がつく。

「でしょう?だ、だからね。気軽に付き合って欲しいの。私、貴族の友達もいないから、仲良くしてね」

「うん。よろしく、そうだね。まずは友達から」

 フェリクスは、そう言って手を差し出してきたので私はそれを握った。
 握手だ。握手。
 これで、友達としてうまくやっていけるような気がした。
 しかし、一つだけちゃんと決めておかないといけないことがある。
 それは、マリアベルとの事だ。

「あ、あのね。それと、もう一つ」

「うん」

 フェリクスがマリアベルと出会って恋に落ちたら、身を引く事を伝えなくてはならない。
 そうしないと私と首と胴体は永久にグッバイしてしまうからだ。

「もしも、好きな人ができたら言ってね。その時は婚約を解消しましょう」

「……は?」

 身を引くと伝えた瞬間だった。
 フェリクスの顔から表情が抜け落ちた。
 その顔は、ヒヤシンスの首と胴体が永久にグッバイした時と同じものだった。

「ひっ、」

 ああ、だめだ。
 きっと満期(20歳)を迎える前に命を奪われてしまう。
 そんな気がした。

 人生、それまでだ。

 私は恐怖で泡を吹いてそのまま気絶してしまった。
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