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待ち合わせ中
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「好き」と言われたら好きになる心理が働くらしい。
自分の心の変化に戸惑い調べた結果、そう答えが出てきた。
人の心は案外単純なもののようだ。
だからといって「ああそうか」と受け入れられられるほど簡単ではないけれど。
「まあ、私は単純ですよ……」
佐藤に告白されてからずっと意識している。
きっと、好きになってしまう。それがわかるほどに。
けれど、それは心理が働いたからそうなってしまったのか、それとも、私の心からの気持ちなのか判別なんてつくはずがない。
そんな理由で佐藤を好きになってしまうのは、とても失礼な気がするのだ。
ただ、その心理というものは、恐ろしいほどに当たっている気がした。
私のことを好きな両親や友人の事を私は大好きだし。
私を「好きだ」という桐生の事を友達として大好きだと思っている。初対面の印象は最悪だったけれど。
つまり、そういう事なのだ。私は単純。
悶々としながら日々を過ごしていた。
二人きりで顔を合わせるのは気まずい。素の佐藤が見たい。相反する気持ちで何度も頭を抱えた。
そして、約束の日を迎えた。
土曜日は、佐藤と遊びに行く日だった。
佐藤は、わざわざ私のアパートまで迎えにきてくれた。
彼がやってくるまで私はソワソワとしていて、財布があるか何度も鞄をひっくり返して中身を確認していた。
「待ちましたか?」
「いえ、全然」
佐藤の質問に取り繕って微笑む。
余裕がないなんて知られたくなかった。
急いで詰め込んだカバンの中は私の心のようにぐしゃぐしゃだ。
「楽しみですね」
佐藤は車に乗り込むなりそう言った。
よくよく考えてみると、プラネタリウムを遊びに行く場所として見るにはあまりにも好みが偏っている気がした。
星に興味がなければ行かないだろうし。
私も童話の上映会がなければ、プラネタリウムには行かない。
「プラネタリウムにはよく行くんですか?」
「子供の時に何度か、ほとんど覚えていないんですよね」
「そうなんですね。実は私も、童話の上映会がある時以外は行かないんですよ」
私もあまり行かないとだけ佐藤に伝えた。
佐藤は「そんな気がしていました」と微笑んだ。
「童話を読みました」
私に誘われたから読んだのだろうか。もし、そうだとしたら申し訳ない。
「わざわざそんな事しなくても」
「甘乃さんが好きだって知ったら読みたくなったんです。子供の頃に読んだきりだったんですけど、大人になるとまた別の視点で見れて楽しかったです」
佐藤はいいものを読めたと言わんばかりだ。
「子供の時は、小難しい本だと思っていました。今読むと全く違いますね。深いなって」
「……」
「素敵な本と出会えて感謝しています。甘乃さんが好きな理由がわかりました」
佐藤の険のない柔らかな表情。
不意にキュウッと胸が締め付けられるような感覚がした。それと同時に、血液が沸騰したように身体が熱くなってきた。
「甘乃さんどうしましたか?顔が赤いけど」
佐藤はすぐに私の変化に気がついたようだ。
「な、何でもないです」
顔が赤い事を言い当てられて、私は何もないと返す。
それにしても、よく、彼は私の事を見ているような気がする。
「佐藤さんって私の事をよく見てるんですか?」
「そりゃあね。好きな人だから」
「……!」
深く考えずに質問すると、あまりにもまっすぐな答えが返ってきて目を見開く。
いや、わかっていた。わかっていたけれど、はっきりと好意を示されるとこちらの方が心臓がもたない。
……そうだ。ずっと気になっていたことを佐藤に聞こう。
彼がどう思うのか知りたい。
「佐藤さんに、聞きたいことがあるんです」
「なんでしょう?」
「好きって言われたら、好きになる心理が働くそうなんです」
「それは、わかる気がします」
佐藤は私の説明を肯定した相槌を打つ。
「もしも、その心理が働いてその相手が好きになったらどう思いますか?単純な人だと軽蔑しますか?」
「……」
私の質問に、佐藤はしばらく考える素振りを見せた。
やはり、軽蔑するのだろうか。それがとても気になる。
「僕は、そうですね。その人のことを『単純』だとは思いませんが、その言葉を使って返すと『単純』で良かったと思います」
「え」
『単純』ではない。というのはどういう意味なのだろうか。
佐藤が再び口を開いたので、私は続きの言葉に集中する。
「だって、真っ直ぐに物を考えるからこそ、好きになってくれたんでしょう?好きだと言葉と態度で示して振り向いてくれるなんて……とても、嬉しいです」
佐藤がとても肯定的な事に驚いた。
「ただ気になることも」と付け加えられる。
「真っ直ぐに人を好きになる人だから、僕だけじゃない人にも同じだと思うんです。だから、嫉妬しそうです」
「し、嫉妬すんですか?」
佐藤の口から出た嫉妬に私は驚く。
彼がそんな事をするとはとても思えないからだ。
「そりゃ、僕も人ですから。甘乃さんはどうです?好きって言った相手が自分のことを好きになってくれたら嫌ですか?」
今度は佐藤に聞き返されてその場面を想像する。
答えはすぐに出た。
「舞い上がるほど嬉しいですね。それと、佐藤さんと同じように嫉妬するかもしれません」
私の答えに佐藤は「同じですね」と言う。
その柔らかな表情に、気分が高揚していくのを覚える。
それは、初恋の人と目が合った瞬間によく似ていた。
お読みくださりありがとうございます
なんか、忙しくて、更新遅くてすみません
感想、エールもらえたら嬉しいです
自分の心の変化に戸惑い調べた結果、そう答えが出てきた。
人の心は案外単純なもののようだ。
だからといって「ああそうか」と受け入れられられるほど簡単ではないけれど。
「まあ、私は単純ですよ……」
佐藤に告白されてからずっと意識している。
きっと、好きになってしまう。それがわかるほどに。
けれど、それは心理が働いたからそうなってしまったのか、それとも、私の心からの気持ちなのか判別なんてつくはずがない。
そんな理由で佐藤を好きになってしまうのは、とても失礼な気がするのだ。
ただ、その心理というものは、恐ろしいほどに当たっている気がした。
私のことを好きな両親や友人の事を私は大好きだし。
私を「好きだ」という桐生の事を友達として大好きだと思っている。初対面の印象は最悪だったけれど。
つまり、そういう事なのだ。私は単純。
悶々としながら日々を過ごしていた。
二人きりで顔を合わせるのは気まずい。素の佐藤が見たい。相反する気持ちで何度も頭を抱えた。
そして、約束の日を迎えた。
土曜日は、佐藤と遊びに行く日だった。
佐藤は、わざわざ私のアパートまで迎えにきてくれた。
彼がやってくるまで私はソワソワとしていて、財布があるか何度も鞄をひっくり返して中身を確認していた。
「待ちましたか?」
「いえ、全然」
佐藤の質問に取り繕って微笑む。
余裕がないなんて知られたくなかった。
急いで詰め込んだカバンの中は私の心のようにぐしゃぐしゃだ。
「楽しみですね」
佐藤は車に乗り込むなりそう言った。
よくよく考えてみると、プラネタリウムを遊びに行く場所として見るにはあまりにも好みが偏っている気がした。
星に興味がなければ行かないだろうし。
私も童話の上映会がなければ、プラネタリウムには行かない。
「プラネタリウムにはよく行くんですか?」
「子供の時に何度か、ほとんど覚えていないんですよね」
「そうなんですね。実は私も、童話の上映会がある時以外は行かないんですよ」
私もあまり行かないとだけ佐藤に伝えた。
佐藤は「そんな気がしていました」と微笑んだ。
「童話を読みました」
私に誘われたから読んだのだろうか。もし、そうだとしたら申し訳ない。
「わざわざそんな事しなくても」
「甘乃さんが好きだって知ったら読みたくなったんです。子供の頃に読んだきりだったんですけど、大人になるとまた別の視点で見れて楽しかったです」
佐藤はいいものを読めたと言わんばかりだ。
「子供の時は、小難しい本だと思っていました。今読むと全く違いますね。深いなって」
「……」
「素敵な本と出会えて感謝しています。甘乃さんが好きな理由がわかりました」
佐藤の険のない柔らかな表情。
不意にキュウッと胸が締め付けられるような感覚がした。それと同時に、血液が沸騰したように身体が熱くなってきた。
「甘乃さんどうしましたか?顔が赤いけど」
佐藤はすぐに私の変化に気がついたようだ。
「な、何でもないです」
顔が赤い事を言い当てられて、私は何もないと返す。
それにしても、よく、彼は私の事を見ているような気がする。
「佐藤さんって私の事をよく見てるんですか?」
「そりゃあね。好きな人だから」
「……!」
深く考えずに質問すると、あまりにもまっすぐな答えが返ってきて目を見開く。
いや、わかっていた。わかっていたけれど、はっきりと好意を示されるとこちらの方が心臓がもたない。
……そうだ。ずっと気になっていたことを佐藤に聞こう。
彼がどう思うのか知りたい。
「佐藤さんに、聞きたいことがあるんです」
「なんでしょう?」
「好きって言われたら、好きになる心理が働くそうなんです」
「それは、わかる気がします」
佐藤は私の説明を肯定した相槌を打つ。
「もしも、その心理が働いてその相手が好きになったらどう思いますか?単純な人だと軽蔑しますか?」
「……」
私の質問に、佐藤はしばらく考える素振りを見せた。
やはり、軽蔑するのだろうか。それがとても気になる。
「僕は、そうですね。その人のことを『単純』だとは思いませんが、その言葉を使って返すと『単純』で良かったと思います」
「え」
『単純』ではない。というのはどういう意味なのだろうか。
佐藤が再び口を開いたので、私は続きの言葉に集中する。
「だって、真っ直ぐに物を考えるからこそ、好きになってくれたんでしょう?好きだと言葉と態度で示して振り向いてくれるなんて……とても、嬉しいです」
佐藤がとても肯定的な事に驚いた。
「ただ気になることも」と付け加えられる。
「真っ直ぐに人を好きになる人だから、僕だけじゃない人にも同じだと思うんです。だから、嫉妬しそうです」
「し、嫉妬すんですか?」
佐藤の口から出た嫉妬に私は驚く。
彼がそんな事をするとはとても思えないからだ。
「そりゃ、僕も人ですから。甘乃さんはどうです?好きって言った相手が自分のことを好きになってくれたら嫌ですか?」
今度は佐藤に聞き返されてその場面を想像する。
答えはすぐに出た。
「舞い上がるほど嬉しいですね。それと、佐藤さんと同じように嫉妬するかもしれません」
私の答えに佐藤は「同じですね」と言う。
その柔らかな表情に、気分が高揚していくのを覚える。
それは、初恋の人と目が合った瞬間によく似ていた。
お読みくださりありがとうございます
なんか、忙しくて、更新遅くてすみません
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