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その5

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取った……これが全ての正解だと感じた。
「こんな大物、誰が倒したんだろう」
首を傾げつつ、もう一度手を伸ばす。
今度はもう少し力を込めてみた。
「よしっ!!!!!!!」
手応えを感じた途端、熊の姿が掻き消える。
「ええええええええええええっ!?????????」
驚いた拍子に、後ろに尻餅をつく。
「いったああああぁっ……」
腰をさすっているうちに、手に違和感を覚えた。何かを握っているようだ。ゆっくりと右手を開くと、そこには小さな宝石のようなものがあった。大きさはビー玉くらいだろうか? 親指の爪ほどの透明な水晶の中に、赤い炎が見える。
「綺麗………………と思えるのかしら???????」
太陽の光が反射してキラキラ輝くそれに魅せられていると、突然声をかけられた。
「見つけたぞっ!!!!!!!!」
「ひゃああああああっ!!!!!」
慌てて振り返ると、そこに立っていたのは背の高い男性だった。
「お前がグリフォンの娘か?」
「違いますっ!!!!!」
「嘘をつけ。オリヴィエラが騒いでいた」
「オリヴィエラ?」
「オリヴィエラ・ベルリナー。俺の妻になるはずだった女の名だが?」
「……」
「まあいい。どちらにせよ、連れ帰る……これが私の意志なんですっ!!!!!!!」
「嫌です」
「なっ」
「私はこの国を出て行きます。だから、あなたとは一緒に行けません」
「この国を出る?」
「はい」
「……そうか」
男性は顎に手を当てて考え込んだ後、口を開いた。
「では、取引をしないか?」
「取引ですか?」
「そうだ。俺はこの国を出られない。だから、代わりにおまえを連れて行く」
「はあああああああっ????????」
「もちろん、ただでとは言わん。衣食住はもちろん、望むものがあればなんでも与えよう。その代わり、俺の子を産んでくれ」
「はああああっ!?」
「なんだ、不満なのか?」
「当たり前でしょう! そんなこと、できるわけありません」
「なぜだ????????」
「だって、私には婚約者がいるんです」
「そんなものは、こちらでなんとかする」
「無理ですよ」
「無理ではない」
「無理だってば」
「いいから、来い」
「きゃあ」
腕を掴まれ、引きずられる。
「離してよ」
必死に抵抗するものの、男の力に敵うはずもなく、ずるずると引っ張られていく。
「やめて! 誰か助けて!!」
「無駄だ」
男はニヤッと笑うと、わたしの耳元に唇を寄せた。
「誰も来ることはない」
「どうして?」
「ここは、結界の中だからな」
「え?」
「もうすぐ、日が暮れる。夜の森は危険だ。今夜はここで野宿するしかない」
「嫌」
「心配しなくても、明日には街に着く。それまで我慢しろ」
「……」
「さあ、行くぞ」
「……」
わたしは無言のまま、俯いた。
「どうした? 怖くなったのか?」
男が笑いながら、顔を覗き込んでくる。
わたしはキッと顔を上げると、思いっきり男の頬を引っ叩いた。
「痛っ」
「バカにするな!」
「何をする」
「あんたなんか、大嫌いだ」
「ふん。威勢がいいな。その方が調教のしがいがあるというものだ」
「え?」
「言っただろう。お前は、俺のものになると」
「まさか」
「お前は、俺に抱かれるんだ」
「い、嫌」
「安心しろ。すぐに気持ちよくなる」
「い、嫌だ」
「おとなしくついてこい」
「い、嫌だ」
「強情な娘だ。仕方ない。少し眠らせてやる」
「え? ちょっと待って。何、これ……」
急に身体が重くなる。
手足に力が入らない。
「大丈夫。命までとりはせん。だが、抵抗されると面倒なので、しばらく動けなくさせてもらおう」
「……」
「さあ、こっちへおいで」
「……」
「ああ、それから、お前の服は邪魔だから、脱がせておいたぞ」
「……」
「可愛い下着だ。よく似合っている」
「……」
「おやすみ、グリフォンの娘よ」
意識が遠ざかる中、最後に見たのは、満足そうに微笑む男の顔だった……。


「……さま」
「……」
「姫様」
「……」
「起きてくださいませ」
「……」
「姫様」
「……ん」
「やっと、目を覚まされましたね」
「……リリアナ?」
「はい」
「……あれ?」
「どうかなさいましたか?」
「……今、夢を見てた」
「どんな?」
「……忘れちゃった」「まあ」
リリアナはクスっと笑った。
「……リリアナ?」
「はい」
「……なんでここにいるの?」
「……覚えてらっしゃらないんですか?」
「……うん」
「昨晩、森で気を失って倒れていらしたので、ここまで連れてまいりました」
「……そうなんだ」
「気分はいかがですか?」
「……まだ、頭がボーッとする」
「では、もう少し休んでください」
「……でも」
「いいから、横になって」
「……わかったわ」……わたし、いつの間に寝たんだろう? 全然、記憶がないんだけど……。
それにしても、変な夢を見た気がする。
なんだっけ? 思い出せないけど、すごく怖い夢だったような……。
「……ねえ、リリアナ」
「はい」
「……わたし、どうして倒れたの?」
「それは……」
「……言いにくいこと?????????」
「いえ、そういうわけではありませんが」
「教えて」
「わかりました。実は、姫様に飲ませた薬には眠り薬が入っていたのです」
「ええええええええええええっ???????」
「ごめんなさい。こうするしかなかったの」
……どういうこと? わたしは混乱した頭で必死に考えた。そうだ! あの時! わたしは男に無理やり引っ張られて、森の中に連れて来られた。そして、いきなり口の中に何かを入れられたのだ。

その後の記憶はない。おそらく、そのまま眠ってしまったのだろう。
「……じゃあ、わたしは眠っていたの?」
「はい」
「……その間、誰か来たの?????????」
「いいえ。誰もです……」
「……」
「姫様??????????」
「……うそだああああっ!!!!!!!!」
「ええええええええええええっ????????」
「……嘘だ! だって、あいつは確かに……」
「どうなさったんですか?」
「……あいつは、確かにいたんだ。結界の中だとか言って、それで、わたしに……」
それを遮って……。
「落ち着いて下さい!!!!!」
「……落ち着けって言われても……困っちまうんだな……」
……どうしよう。困惑の嵐がやって来る……。
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