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49.お悩み相談
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ユーリは先導してくれる侍女の後について歩きながら、頭の中を整理していた。
今日一日だけで、色々なことがあり過ぎた。チヤ王女の勉強に付き合い、その後の茶会だけも失礼なことをしてしまわないかとヒヤヒヤするというのに、今日はフィルがそこに乱入して、何故か羞恥心耐久レースが強制的に開催され、さらなる乱入者によって、癒しの場であるはずの中庭がとんでもないことになってしまった。
(フィルさん、かなりしょげてたわよね……)
倒れる寸前だったユーリにずっと付き添うと言って聞かないフィルに、「一人でゆっくり休みたい」と告げて部屋を追い出したときの顔を思い出す。あれは取り返しのつかない失敗をしたと思っている顔だった。
ユーリは、その後しばらく一人で考えを巡らせ、王妃様に会えないかと部屋付きの侍女に話してみた。相手は王妃様だし、2、3日待たされるだろうからと思い立ってすぐに侍女に相談したのだが、なんとすぐに時間がとれるということで、こうして向かっている。
(うぅ……、もう少し考えを纏める時間が欲しかった)
より近くて話しやすいクレットや、フィルの片腕でもあるロシュではなく、王妃を選んだ理由はちゃんとある。あるのだが……。
(緊張する……っ!)
キリキリと痛む胃の辺りをそっと撫でながら、ユーリは長い廊下をひたすら歩く。
「失礼いたします。ユーリ様をお連れしました」
「入ってちょうだい」
侍女の後について入室すると、優しげな微笑みを浮かべる王妃が待っていた。何故かそこには王太子であるレータもいる。
(王妃様はともかく、王太子様もいらっしゃるとか聞いてないんですけど――――っ!)
心の中で大絶叫したユーリは元の世界では一般市民だ。ロイヤルな方々との接点などあるはずもなく、文字通り雲の上の人物が二人も揃ったこの状況に、ずん、と胃が重くなる。
「どうぞ、座ってちょうだい」
「はい、失礼します」
困った、と思いながらもユーリは勧められたソファに素直に腰掛ける。
「相談したいことがあるということだけど、レータも同席させて構わないかしら? もちろん、女性同士の秘密の話があるのなら、退席させるけれど」
気配りに満ちた提案に、ユーリは(本当にフィルの実のお母さんなのかな)と疑問を抱きながら、自分の相談内容を思い返す。
「いいえ、そういった類いの相談はありませんので……。お気遣いありがとうございます」
「そうなの。それで、相談内容はやっぱりフィルのことかしら? 今日のことで愛想尽かしてしまった? それなら安心してちょうだい。フィルを辺境に左遷して処理するから」
「母上!」
一瞬、何を言われたのか分からず、ユーリは目を瞬かせた。
「先走り過ぎです。ユーリさんがびっくりしているじゃありませんか」
「あら、ユーリさんとしても不安でしょう? だから先に言っておいた方が、気が楽かと思って」
ころころと笑う王妃に、ユーリは恐る恐る確認の言葉をぶつけてみることにした。
「あの、今、フィルさんを左遷させるとおっしゃいました?」
「そうよ。正直なところを言ってしまうとね。我が国にとって、力はともかく頭がいまいちな第三王子よりも、確実に富をもたらすと分かっているユーリさんの方が優先順位は高いのよ」
「でも、……実の息子さん、ですよね?」
「そうよ。でも、国益を考えたら仕方のないことだもの」
ユーリは「これが本物のノブリス・オブリージェってやつなのか」と震え上がった。特に家族仲が悪くもない平々凡々な家族しかしらない彼女にとって、家族より国を優先させるという考え方は奇異としか映らない。だが、それを否定する言葉を吐くほど若くもなかった。王妃の隣に座っている王太子がそこまで非難する様子もないということは、ここではそれが普通、ということなのだろうと自分の心を強引に納得させた。
今日一日だけで、色々なことがあり過ぎた。チヤ王女の勉強に付き合い、その後の茶会だけも失礼なことをしてしまわないかとヒヤヒヤするというのに、今日はフィルがそこに乱入して、何故か羞恥心耐久レースが強制的に開催され、さらなる乱入者によって、癒しの場であるはずの中庭がとんでもないことになってしまった。
(フィルさん、かなりしょげてたわよね……)
倒れる寸前だったユーリにずっと付き添うと言って聞かないフィルに、「一人でゆっくり休みたい」と告げて部屋を追い出したときの顔を思い出す。あれは取り返しのつかない失敗をしたと思っている顔だった。
ユーリは、その後しばらく一人で考えを巡らせ、王妃様に会えないかと部屋付きの侍女に話してみた。相手は王妃様だし、2、3日待たされるだろうからと思い立ってすぐに侍女に相談したのだが、なんとすぐに時間がとれるということで、こうして向かっている。
(うぅ……、もう少し考えを纏める時間が欲しかった)
より近くて話しやすいクレットや、フィルの片腕でもあるロシュではなく、王妃を選んだ理由はちゃんとある。あるのだが……。
(緊張する……っ!)
キリキリと痛む胃の辺りをそっと撫でながら、ユーリは長い廊下をひたすら歩く。
「失礼いたします。ユーリ様をお連れしました」
「入ってちょうだい」
侍女の後について入室すると、優しげな微笑みを浮かべる王妃が待っていた。何故かそこには王太子であるレータもいる。
(王妃様はともかく、王太子様もいらっしゃるとか聞いてないんですけど――――っ!)
心の中で大絶叫したユーリは元の世界では一般市民だ。ロイヤルな方々との接点などあるはずもなく、文字通り雲の上の人物が二人も揃ったこの状況に、ずん、と胃が重くなる。
「どうぞ、座ってちょうだい」
「はい、失礼します」
困った、と思いながらもユーリは勧められたソファに素直に腰掛ける。
「相談したいことがあるということだけど、レータも同席させて構わないかしら? もちろん、女性同士の秘密の話があるのなら、退席させるけれど」
気配りに満ちた提案に、ユーリは(本当にフィルの実のお母さんなのかな)と疑問を抱きながら、自分の相談内容を思い返す。
「いいえ、そういった類いの相談はありませんので……。お気遣いありがとうございます」
「そうなの。それで、相談内容はやっぱりフィルのことかしら? 今日のことで愛想尽かしてしまった? それなら安心してちょうだい。フィルを辺境に左遷して処理するから」
「母上!」
一瞬、何を言われたのか分からず、ユーリは目を瞬かせた。
「先走り過ぎです。ユーリさんがびっくりしているじゃありませんか」
「あら、ユーリさんとしても不安でしょう? だから先に言っておいた方が、気が楽かと思って」
ころころと笑う王妃に、ユーリは恐る恐る確認の言葉をぶつけてみることにした。
「あの、今、フィルさんを左遷させるとおっしゃいました?」
「そうよ。正直なところを言ってしまうとね。我が国にとって、力はともかく頭がいまいちな第三王子よりも、確実に富をもたらすと分かっているユーリさんの方が優先順位は高いのよ」
「でも、……実の息子さん、ですよね?」
「そうよ。でも、国益を考えたら仕方のないことだもの」
ユーリは「これが本物のノブリス・オブリージェってやつなのか」と震え上がった。特に家族仲が悪くもない平々凡々な家族しかしらない彼女にとって、家族より国を優先させるという考え方は奇異としか映らない。だが、それを否定する言葉を吐くほど若くもなかった。王妃の隣に座っている王太子がそこまで非難する様子もないということは、ここではそれが普通、ということなのだろうと自分の心を強引に納得させた。
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