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50.対抗策
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「そうおっしゃるということは、先程の中庭の件は既に耳に入っていらっしゃる、んですか?」
「もちろんよ。あのバカ息子のことで怖い思いをさせてしまったわね」
「あ、いいんです。あの後、散々フィルさん本人に謝ってもらったので。……でも、そのことで相談、というか、教えていただきたいことがいくつかありまして」
このタイミングで相談を持ちかけられるとしたら、怒りを撒き散らしたフィルが怖すぎて無理という話だろう、そう勝手に思い込んでいたレータが目を丸くした。
「その、フィルさんが、えぇと、イングリッド様、でしたっけ、あの人に怒ったときに、非常に情けない話なのですが、呼吸もしにくい状況になってしまいまして。――――あの、フィルさんの性格からすると、今後も同じようなことがあるかなぁ、と」
「本当に短気な息子でごめんなさいね。ただでさえ怒りの沸点が低いところに、番に関わることだと余計にキレやすくなってしまうようなの」
「あ、そういうものなんですか。あ……、でも、違うんです。フィルさんがそういう性格なのは分かってる部分もあるのでいいんですけど、また似たようなことがあったときに、平静を保つコツとかあれば教えていただけないかと、思いまして」
クレットさんに相談しようかと思ったんですけど、なんだかフィルさん以外の異性に頼むと、変に拗れそうで……と正直に告げるユーリの正面で、王妃は「あらあら」と微笑んだ。最初はどうなることかと思ったけれど、意外とフィルも頑張っているじゃない、と。
「レータ、チヤと侍女も似たような状態だったのかしら?」
「そうですね。と言ってもお察しの通り怒気のせいではありませんが」
その場にいなかった王妃の確認に頷いた王太子は、改めてユーリを『視』た。魔力を帯びた彼の瞳が青い光を帯びる。
「ん? ユーリさん、君、彷徨い人なのに、加護を持っているんだね。それも水と光の2種類?」
「カゴ、ですか?」
レータは、魔術を使うにはその属性の加護が必要であること、その加護は生まれ持った先天的なものと、後天的に身につけられるものがあることを説明した。ちなみに、それを聞いたユーリの感想は「まだ私の知らない常識が……」というそれだけだ。常識的なこと程、あまりに自然なこと過ぎて、誰も改めてユーリに説明してはくれないのだ。
「あの、どうしてその『加護』の話になったんでしょうか」
「それは、フィルの怒りに、あなたが怯えたわけでも気圧されたわけでもないからです。フィルが怒りのままに魔力を撒き散らしたせいで、呼吸を阻害されてしまったの」
「魔力で、呼吸が、阻害?」
また謎理論が出て来た、とユーリは心の中でため息をついた。もういっそ元の世界で学んだ物理的な話は全部忘れてしまった方が楽なのかもしれないとさえ思う。
「あなたが加護を持っているなら、訓練次第で他人の魔力の影響を防ぐことはできるかもしれないわ」
「本当ですか!?」
「ユーリさんが良ければ、チヤと一緒に訓練してみる?」
「是非お願いします! 本当に息苦しくてつらかったんです!」
頭を下げるユーリを見て、王妃は「本格的にフィルを絞ろうかしら」と考える。いや、このやり取りを教えるだけで十分な反省材料になるだろう。何しろ己の番を守るどころか苦しめたのだから。その事実だけでフィルの苦悩する姿が目に浮かぶ。
「それなら手配するわ。相談事はそれだけかしら?」
「あの、あと一つあるんですが、お時間大丈夫でしょうか」
「えぇ、もちろん」
ユーリはどう穏便に伝えようかと考え、言葉を選ぶ。だが、どう言っても角が立ちそうだと気付いて、直球で尋ねることにした。
「あのお客様――イングリッド様は、あとどれくらい滞在される予定なんでしょうか」
「もちろんよ。あのバカ息子のことで怖い思いをさせてしまったわね」
「あ、いいんです。あの後、散々フィルさん本人に謝ってもらったので。……でも、そのことで相談、というか、教えていただきたいことがいくつかありまして」
このタイミングで相談を持ちかけられるとしたら、怒りを撒き散らしたフィルが怖すぎて無理という話だろう、そう勝手に思い込んでいたレータが目を丸くした。
「その、フィルさんが、えぇと、イングリッド様、でしたっけ、あの人に怒ったときに、非常に情けない話なのですが、呼吸もしにくい状況になってしまいまして。――――あの、フィルさんの性格からすると、今後も同じようなことがあるかなぁ、と」
「本当に短気な息子でごめんなさいね。ただでさえ怒りの沸点が低いところに、番に関わることだと余計にキレやすくなってしまうようなの」
「あ、そういうものなんですか。あ……、でも、違うんです。フィルさんがそういう性格なのは分かってる部分もあるのでいいんですけど、また似たようなことがあったときに、平静を保つコツとかあれば教えていただけないかと、思いまして」
クレットさんに相談しようかと思ったんですけど、なんだかフィルさん以外の異性に頼むと、変に拗れそうで……と正直に告げるユーリの正面で、王妃は「あらあら」と微笑んだ。最初はどうなることかと思ったけれど、意外とフィルも頑張っているじゃない、と。
「レータ、チヤと侍女も似たような状態だったのかしら?」
「そうですね。と言ってもお察しの通り怒気のせいではありませんが」
その場にいなかった王妃の確認に頷いた王太子は、改めてユーリを『視』た。魔力を帯びた彼の瞳が青い光を帯びる。
「ん? ユーリさん、君、彷徨い人なのに、加護を持っているんだね。それも水と光の2種類?」
「カゴ、ですか?」
レータは、魔術を使うにはその属性の加護が必要であること、その加護は生まれ持った先天的なものと、後天的に身につけられるものがあることを説明した。ちなみに、それを聞いたユーリの感想は「まだ私の知らない常識が……」というそれだけだ。常識的なこと程、あまりに自然なこと過ぎて、誰も改めてユーリに説明してはくれないのだ。
「あの、どうしてその『加護』の話になったんでしょうか」
「それは、フィルの怒りに、あなたが怯えたわけでも気圧されたわけでもないからです。フィルが怒りのままに魔力を撒き散らしたせいで、呼吸を阻害されてしまったの」
「魔力で、呼吸が、阻害?」
また謎理論が出て来た、とユーリは心の中でため息をついた。もういっそ元の世界で学んだ物理的な話は全部忘れてしまった方が楽なのかもしれないとさえ思う。
「あなたが加護を持っているなら、訓練次第で他人の魔力の影響を防ぐことはできるかもしれないわ」
「本当ですか!?」
「ユーリさんが良ければ、チヤと一緒に訓練してみる?」
「是非お願いします! 本当に息苦しくてつらかったんです!」
頭を下げるユーリを見て、王妃は「本格的にフィルを絞ろうかしら」と考える。いや、このやり取りを教えるだけで十分な反省材料になるだろう。何しろ己の番を守るどころか苦しめたのだから。その事実だけでフィルの苦悩する姿が目に浮かぶ。
「それなら手配するわ。相談事はそれだけかしら?」
「あの、あと一つあるんですが、お時間大丈夫でしょうか」
「えぇ、もちろん」
ユーリはどう穏便に伝えようかと考え、言葉を選ぶ。だが、どう言っても角が立ちそうだと気付いて、直球で尋ねることにした。
「あのお客様――イングリッド様は、あとどれくらい滞在される予定なんでしょうか」
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