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3章 続く日常と続かない平穏

9話 そういえば…

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「そういえばオーリ、あなた学校は?」
ある休みの日、何か書いているオーリの隣で魔法陣の勉強を教えて貰っていた時である。ふと思い出した。今まで忘れていたが、オーリは今15歳。つまり学園に通っている年齢である。
「…今さら?」
「だって、ほら、色々忙しかったじゃない…?」
呆れ顔のオーリにしどろもどろに答える。
「確かに、エル様は忙しそうだったけどさ。もう俺が学校に入ってからだいぶ経つよ?入学式の日もエル様仕事だったけどさぁ。」
「うっごめんなさい。だって、あなたと会う頻度がほとんど変わらなかったから、つい。」
「まぁ、エル様が魔導院休みの日にはこっちに来てるからしょうがないっていったらそうなんだけど。
ちゃんと通ってるよ。休日にはマシュー様に勉強教えに来たりしてたから、エル様と会う頻度がほとんど変わらなくてもおかしくないけど。それに、今は長期休暇中だしね。
今やってるこれも、学園の休暇課題だよ。」
さすがに気づこうよ、とまた呆れ顔。
「あはは…。が、学園はどう?楽しい?」
無理矢理話題を変えてみる。
「楽しいよ。元から学ぶのは嫌いじゃなかったし、マシュー様とエル様に教えられることが増えるのが嬉しい。」
「あなた、ほんとに教師向いてると思うわ。」
心からそう思う。教えるのもすごい上手いし分かりやすい。
「友達にも同じこと言われたよ。」
「どうせ家を出なきゃいけないのでしょう?ちょうど良かったじゃない。」
オーリは三男だからいつかは家を出てどうにかしなきゃいけなくなる。まぁ貴族だから色々なりやすいけどね。
「そうだね。俺を家庭教師にしてくれたエル様達に感謝だよ。」
「推してくれたのはあなたの父のハルト様よ。ハルト様にもちゃんと感謝するのよ。」
「ハルト様って…エル様、父上に会ったの?」
「え?ええ。あいさつしたのはだいぶ前だけどね。そのあとは何回かすれ違ったりしたくらいかしら?」
「変なこと言われてない?」
「言われてないわよ。何を心配してるの?」
「いや、あの人のことだから…。」
「ふふ、大丈夫よ。たまにオーリの様子を聞かれるくらいよ。」
「…変なこと言ってないよね?」
「まさか。わたくしにはもったいないくらい良い先生ですもの。」
ふふっと笑うと、一瞬目を丸くしてそのあとさっと顔を赤くする。めずらしくオーリがかわいい。
「ッゴホ。何でエル様は時々こうストレートに…!」
「あら、いいじゃない。けなすより褒めたほうが、わたくしもあなたも気持ちがいいし、何より思ってるだけじゃ伝わらないじゃない。」
これは前世含めずっと思っていること。思っているだけじゃ伝わらない。察することも大切だと思うが、何でもかもんでも黙ってたらいけないと思うのよ。特に、感情はね。
「そうだけどさぁ…。」
「何よ?」
「はぁ、何でもないよ。強いて言うなら勘違いさせることもあるからやたらめったら言ったら駄目だよ。」
「それくらい分かってるわ。
それより、あなた課題はいいの?」
「ほんとに分かってるのかなぁ…。とりあえず今のとこは大丈夫そうだし、いいか…。
課題ね、ちょっとつまりぎみ。」
ぶつぶつと何か呟いたあと、質問に答えるオーリに首をかしげながら彼の手元を覗きこむ。
「今やっているのは何の課題?」
「これ?これは魔法学のだよ。どうすればこの古代魔法陣をより強力に出きるかっていうの。古代語の解読も入ってるね。」
古代魔法陣とはその名の通り、昔使われていた魔法陣で、今とは文法などが違い、まだ発展途上の魔法陣も多い。
「結構めんどくさいものが出るのね。」
素直な感想を伝える。
「ああ、これは魔法学の特講っていう、より専門的なものを学ぶ方のだからね。
魔法陣をいじってもいいし、何か媒介させてもいい、呪文で変わるならそれでもいいらしい。」
「ずいぶん曖昧ね。」
強力なものにしろ、手段は問わないって。どれくらい、とかないし。
「ねぇ、これって他の人のアドバイス貰ったりとか一緒に考えるってありなのかしら?」
「ありだよ。貴族や研究者、教師も人脈が大切だからね。…エル様、まさか?」
「そのまさか、よ。あなたには良い人脈が、ここにあるじゃない。なんなら神童と呼ばれている、とある男の子も呼べるわよ。研究好きだから手伝ってくれるんじゃないかしら?完璧な人脈よ。」
にやり、と笑えば苦笑される。
「はは…すごい人脈だね。1人でやりたいからいい、と言いたいところなんだけどね…。手伝って貰えるかな?」
「もちろんよ!」
さっそく次の出勤の時に話してみよう。わたくしが1人計画を立てていると、オーリが何かぽつりと呟く。
「これを貸しとしてもっとエル様が頼ってくれるようになればいいんだけど、ね。」
「何か言ったかしら?」
聞こえなかったので聞き返すと、首を振られる。
「何でもないよ。じゃあ都合のいいときに手伝ってね。」
そして、この話は終わりとばかりにオーリはペンを持ち直し本と紙に向き直ってしまった。
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