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本編

第二十四話

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さて、夜会も国王が登場し、国王からの『建国祭』を祝うありがたい御言葉を拝聴した後は、挨拶回りに勤しんだ。
さすが侯爵家、挨拶に来る人全てが、貧乏伯爵家のカレンでも知っているような高貴な方ばかりだ。
事前に貴族名鑑などで名前と顔は確認しておいたのだが、そろそろカレンの記憶も忍耐も限界に近かった。

――ええ~っと、この方は誰だったかしら?

頭をフル回転させて、記憶の糸を手繰り寄せる。
唐突に思い出した名前と顔に、内心安堵しながら何事も無かったように笑顔を作って挨拶ができた。



「お疲れ様。大体の人達とは挨拶できたから、暫くは楽に出来ると思うよ。」

レオナルドは、侯爵夫人の勤めを見事やってのけたカレンに労いの声をかけながら、給仕から受け取ったグラスを差し出してきた。

――さすが、あれだけ恋人がいるだけあって、女性の扱いは上手ねぇ。

などと思いながら、グラスをありがたく受け取り一口飲むと、カレンはほっと一息ついた。
暫く休憩していると、レオナルドの同僚が彼を呼びに来た。
少々焦った様子の同僚の姿に気づき、カレンは「あちらで休んでいますね。」と気を利かせて離れる。
そんなカレンを名残惜しそうに見ていたレオナルドだったが、同僚が二、三言、彼に耳打ちすると表情を変えてホールから出て行ってしまった。

仕事かしら?とぼんやり思っていると、横から声がかけられた。

「おや、誰かと思えば”行き遅れのオーディンス伯爵令嬢”ではありませんか。」

今はオーディンスではないんだけど、と内心突っ込みを入れながら、にこやかに笑顔で振り向く。
そこには、苦々しい顔でこちらを睨みつけてくる青年二人――かつて、自分に婚約を申し込んできた、元婚約希望者殿達がいた。

――はて、名前は何だったかしら?

多分二人共、子爵かなにかの家柄だったと思う……と、カレンは朽ちかけた記憶を辿ってみたが、思い出せなかった。

「お久しぶりです。今はオーディンスではありませんわ。」

カレンは笑顔を崩す事無く、やんわりと間違いを嗜める。
その言葉に、元婚約希望者達は、嫌そうに鼻の頭に皺を作ると吐き捨てるように言ってきた。

「ふん、どんな手を使ったか知らんが、侯爵家に嫁入りできたからっていい気になるなよ!大方剣に見限られて、慌ててこじつけた婚姻だろう。」

「あんまりはっきり言っちゃ可哀相だろう。どうせ愛人だらけの侯爵のお飾りの妻なんだからさ。」

くすくすくすくす、どこかの意地悪令嬢のような台詞を吐く男達に、カレンは冷ややかな視線を向ける。

――まあ、お飾りの妻ってところは間違っていないわね。

唯一賞賛できるところを指摘しながら、カレンはにっこり笑みを作った。

「ほほほ、まだ剣は健在でしてよ。なんなら今すぐここへ呼びましょうか?」

カレンがそういった瞬間、元婚約希望者達はさっと顔を青褪め一目散に逃げてしまったのだった。

――相変わらず腑抜けですこと。

カレンは持っていた扇で口元を隠すと、「ふん」と小さく鼻を鳴らすのだった。
こんな所でまさか会うなんて、と内心溜息を吐いていたが、ふと気づいた。

そういえば、今日は『建国祭』だ。

この日は、国中の貴族が呼ばれているんだった。

その事実に気づき周りを見渡すと、奥の方でびくりと反応する人影がちらほら見えた。
良く見れば、過去に婚約を申し込んできた者たちだった。
彼らは各々、色々な反応をしていた。
目が合うと大げさな程びくりと反応する者、冷や汗を流しながら必死に視線を合わせないようにする者、先程の子爵令息のように憎々しげにこちらを睨みつけてくる者、反応は様々だったが誰も彼も、みな聖剣に追い出された者達だった。
そんな彼らは先程の子爵令息達の様に、声をかけてくる勇気はないらしい。
それは賢明な判断だわ、とカレンは内心で頷く。
彼らにとっても、あの縁談を申し込んだのは黒歴史だったらしく、詳細については頑なに口を閉ざしてくれている。
実に有難い事だと、カレンは歴代の婚約希望者たちに胸中でお礼を述べておいた。
そんな事を考えていると、レオナルドが戻って来た。
彼はカレンに待たせたことを謝罪しながら言ってきた。

「さてカレン、そろそろ国王陛下の周りも人が少なくなってきたから”挨拶”しに行こうか。」

と――。
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