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grace 3  #ルート:S

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IFストーリーです。

※ジークムントルートになります。
ジークムント=Sigmundと書くらしいので、ルート:Sという表記にしました。

抱えられるもの、抱えられないこと1及び、カルナークとシファルの閑話以降の話です。


******


また、だ。

凪いだ湖の中に、トプンと沈んでいく感覚。

でもあれは魔力の練習中のことで、今のあたしはただ眠っているだけのはずなのに。

――禁書庫から戻ってきて、一気に入ってきた情報量のせいか起き上がれなくなったみたいだと、ジークが誰かと話しているのが遠くで聞こえた。

多分、あの話し方はシファだろうな。

途切れ途切れにカルナークの名前が聞こえたりしたけど、ハッキリした話がわからない。

起きたらちゃんと話が聞けらたいいなと思いつつ、また抗えない睡魔に引き込まれていった。

(……はずなのに、どうして? この感覚は魔力がらみの時じゃなきゃ感じなかったモノなのに)

目が開かない。

体は眠っているけど、意識だけ目覚めたとかその手かな。

物音がしていないと思うんだけど、妙な感じがする。

(なんだろう。ちょっと怖いんだけど、この感じだと誰もいないのかな)

気のせいだったらと願いつつ、自分なりに何か探れたらと集中する。

この体の状態だから、どの程度のことが出来るか不安だけど、怖いからって何もしないのはもっと怖いって知ったから。

静かなことは静かだ。…でも、あたしが眠っているだろうベッドに誰かが腰かけている? もしかして。

背中を伝って、わずかな軋みを感じられた。

違和感の後に、いつもの頭痛が起きる場所にいつもとは違う感覚があった。

いつもは中からの痛みなのに、今日は外部から何かに刺されているような痛みが同時だ。

瘴気の影響? それともあたしのストレス? もしくは、闇属性の等級が上がったとか?

どれかか、どれもなのか。どっちにしても、嬉しいことではないな。

内心ため息を吐きつつ、痛みに小さく唸りつつ耐えるしか出来ない。

体は相変わらずで目覚めてくれないんだけどね。

湖の中に沈んだ感覚の様子に変化が起きたのは、そのすぐ後。

体の末端という末端から何かがその痛みへと一気に上っていく…みたいな。

しかも、流れに逆らって勢いもかなり速くだから、あたしの体が悲鳴をあげている。

声をあげたいのに、あげられない。

「うぅ…」

なんとか唸り声だけあげたものの、さっきの感覚はまだ続いている。

それが一気に逆流し終えたのか、いきなりブツンと電源をOFFったように何もなかったみたいに静かになった。

代わりに体に起きた異変は、瘴気が集まっているだろう頭痛の場所が、今までにない痛みと熱を発しはじめたことだ。

痛い!

痛いよ! 熱い! なに? これ。

勝手に涙が出てきてしまう。

息もあがってきて、苦しくてたまらない。

そう思った瞬間、体がすこし起こされて、いつものように体を半身起こした格好にしてくれた。

――――“誰”が?

ジークやシファなら、きっと眠っているあたし相手にでも話しかけているか、大丈夫か声をかけていたはず。

アレックスだったら、体を起こした時の体の逞しさでなんとなくわかりそうだ。

ナーヴくんは、絶対に…ない!

(だったら、答えはひとつしかない)

答えが決まった刹那、まるで何かから解放されたように体が楽になる。

目を開け、気配がする方へ顔を向けた。

「カル…ナァ……ク」

声がかすれてしまう。

ベッドに腰かけて、手を伸ばせば届くだろう距離なのに。

「カル…」

上手く名前を呼べずにいるあたしに微笑むカルナークは、いつもみたいな幼さを感じる笑顔じゃなくって。

「ダメでしょ? ひな」

すこしだけ、大人びていて。

「俺なしで、浄化が出来ると思っていたの? 俺が教えたんだよ? 魔力の感知の仕方も操作も」

笑っているのに、どこか怖くもあって。

「あのね、ひな」

そういいながら、固まったまま動けずにいるあたしの頬を手のひらで撫でて。

「忘れないでいてね。俺は、いつも、ひなの中にいるってこと。たとえ邪魔者がいたって、俺は負けないって」

静かに、ゆっくりと呟かれるその言葉の意味をわかりたくない。

「……ひな」

目を見開き、カルナークを視線だけで追うあたしの唇に、触れるだけのキスをして。

「大好きだよ、出逢った時から……ずっと」

告白をした。

(……え。消えた?)

そして、目の前から消えた。姿かたち、声も匂いもなにもなく。魔力の残滓も、あたしにはわからない。

恐怖で動けなくなるって本当にあるんだなと思った。

カルナークがいなくなって、静かな部屋で目だけがきょろきょろと動く。

楽になったはずの体が、さっきのカルナークの気配を思い出して緊張感で動けない。

誰か来て! と思うのに、呼び鈴すら手を伸ばせない。

怖すぎたら、涙も出なくなるのだろうか。

カタカタと体はふるえてしょうがないのに、放心したように涙は一つも出てこない。

遠くから誰かが走ってくる足音がしたかと思えば、勢いよくドアが開けられる。

「陽向っ! 無事か!」

来たのはアレックス。その後に少し遅れてジークも来たけれど。

視線を彷徨わせ、体を小さく震わせているあたしのおかしさに気づいたのに。

「……アレク。ちょっと待って……」

ジークはステータスを見たんだろう、きっと。

そしてあたしが知りたかったことへの答えをくれた。

「闇属性が、特級まで上がってる。それと……死亡予定までまだ時間があったのに一気に減ってる」

「は? こんな短時間でか?」

アレックスが、今までになく声を荒らげた。

「ね。どうなってるの? アレク。カルナーク、幽閉してくれたんじゃないの?」

ゆう、へい? ってなんだろう。

「こんなこと出来るの、アイツのほかにいるわけないだろ!」

え? どういうこと? カルナークが、あたしの体に何かをしたの?

「今まで散々ひなの体を弄っといて、これ以上何してんだよ! アイツ」

そうなんだ。

こっちに来てからのあたしの体に起きている状態変化に、一番の影響を与えたのはきっとカルナークだろうって話になっていて。

その対策ということで、訓練の中止と今後は接近禁止としたらいうことを聞かずに、今の話から行けば強制的に会わせない方法を取った…のかな? 多分、幽閉ってそういうアレだよね。

「ひな。カルが来たんだよね? ここに」

早口で質問してきたジークに、さっきここで起きたことを説明しようと口を開いた。

(……嘘でしょ)

「声……どうしたの?」

って言ってから、もう一度ステータスを確かめて。

「アレク……権限、使ってもいいよな? これは流石に…ねぇわ」

聞いたことがないような低い声で、アレクにそう告げた。

「ステータスには何と書いてあるんだ、ジーク」

アレクがそう聞き返せば、ジークは一度大きく息を吐き出してから。

『ステータス異常:声封じ・魔力操作の上書き・瘴気吸収速度最速』

一気にステータスを読み上げた。

「ということは……」

アレクが戸惑うあたしに視線を向けて、ごくりと息を飲んだのがわかった。

「残された時間が、すごく…短い。この国の瘴気を浄化するよりも先に、ひなが瘴気に飲み込まれるかもしれない…ということ」

右目の目尻から一筋の涙を流しながら、ジークが静かに告げたその内容は、みんなと一緒に未来を生きたいと希望を抱きはじめたあたしに重たい宣告だった。



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