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抱えられるもの、抱えられないこと 5 ♯ルート:Sf
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IFストーリーです。
シファルルートになります。
シファル=Sifarと書くらしいので、ルート:Sfという表記にしました。
抱えられるもの、抱えられないこと1及び、カルナークの閑話以降の話です。
******
二人が並ぶ姿を見比べながら、心の中で、そっと呟く。
(ごめんね、カルナーク)
なんて。
まっすぐ向けられすぎな彼からの愛情には、きっとずっとあたしは応えられない。
自分が悪いわけじゃないってわかっていても、なんだか悪い気がしてしまう。あたしの悪い癖だ。
恋は、誰にでも平等じゃない気がする。
カルナークからの気持ちにあたしが応えられないのと同じように、きっとあたしの気持ちもシファルから受け入れられないはずだ。
愛されないのはツラいってわかってて、カルナークに応えないあたし。
好きって言ってくれる誰かに寄りかかれば楽だよってこともわかっているのに、理解したくない。
(だって、嘘は少ない方がいい…でしょ?)
どこかに嘘を吐いてでも生きなきゃいけない時があるとしたって、カルナークにこの部分は素直に伝えなきゃね。いつか。
嫌いじゃないけど好きでもない人、だって。それ以上でも以下でもない、あたしたちの関係について。
それに嘘ばかり積み重ねていたら、本音が出せなくなりそう。
嘘の自分が本当になってしまいそうで怖くもある。
それでなくても、この場所に来てから聖女じゃないと明かせたのが数人だけなのだから。
嘘つきの自分。正直者な自分。
目の前の彼が好意を抱いてくれるのは、どっちのあたしかな。
バスルームでしっとりと濡れた髪をかき上げた彼は、今まで見たことがない大人な表情をしていて、心臓がどうにかなりそうだった。
男の人なんだって、改めて知らされたと感じたほどに。
異性だと意識すればするほどに、シファルが遠ざかりそうで怖い。
気づかせちゃダメって思うのに、心と行動が一致してくれなくて混乱する。
意識されたい。
でも、こんなに恥ずかしいことを誰にでも出来る女の子だなんて思われたくない。
どう伝えれば近づいてもらえるかわからないから、強引にでも女の子だって思わせたい。
でも…もし、こんな大人になり切れていない体を見せたことで、逆に嫌われたら?
(こんなにわずかな期間で、あたしの心の中がシファルでいっぱいだ)
勇気を出したあたしを見てほしいのに、彼は目かくしをしてあたしを着替えさせようとする。
誠実といえば誠実だ。
こっちの思惑外れといえば、そういうわけで。
「……着るよ、自分で」
目かくしをしてバスローブを手にした彼の手から、そっとそれを取り上げる。
まだ心臓はバクバクいっているけど、どうにか着替えられそう。
下着のことまでは頼めないから、あとでどうにかすることにして。
「……う」
バスローブに着替えた後、はあはあいいながら四つん這いになって元いた場所に移動して、体を起こし気味にベッドに寝る。
「い…よ、シファル」
着替えたよと教えると、結んだタオルを外してゆっくりと目を開けた。
見慣れたメガネ姿じゃなく、いつもより眼光が鋭めの大人な男性の目になっている。
(あぁ、ダメだ。シファルはいつも自分に自信がなさそうだけど、実は知的系のイケメンなんだよね。今日は新しいシファルばかりで、心臓がもたないよ)
あたしと目が合ったなと思ったら、自分の分のバスローブを手にしてバスルームの方へと消えていき、すぐに戻ってきた。
不謹慎だってわかってる!
わかってるけど、それでも嬉しいんだもん。
(バスローブ。おそろいだ…)
素直にへらりと笑ってみせると、シファルから目をそらされちゃう。
ベッドに戻ってくる前に、テーブルの上からなにかを手にしてベッド横のサイドテーブルに置いた。
「…シファル?」
ひとつは薬だってわかるのに、もうひとつがよくわからないや。
首をかしげて彼の言葉を待つあたしに、彼の大きな手のひらが触れた。
「気分は? 吐き気は? 頭痛はまだするか? 水もう少し飲むか?」
一気に答えられないのに、思いついた順にか聞いてくる彼。
「頭は、まだ…。水、飲む」
それだけ返すと、水と薬を渡された。
「鎮痛剤、とりあえず飲んどこうよ」
薬を飲むついでに、水も多めに飲んでおく。
空になったグラスを片付けてくれた彼が、あたしの横に腰かけてくる。
並んだ格好になった状況に、意識しないわけにはいかない。
(でもきっとあたしだけだよね、こんなに意識してるの)
浮かれたり、落ち込んだり。ほんと、忙しいや。
「……話、しても大丈夫?」
真横からあたしの様子を伺うように、すこしだけ身をかがめて覗きこむ格好で目を合わせてくる。
「う…ん」
ドキドキしつつも、なんとかそれだけ返すとヒンヤリしたものが手に触れた。
「心配、した」
いいながら、シファルの手がベッドに置かれたあたしの手に重なっていて。
「心配……した」
同じ言葉を繰り返されているだけなのに、彼の本音なんだと伝わってきてまた不謹慎なことを思ってしまう。
心配されて嬉しい、だなんて。
重ねられた手にキュッと力を込めてきて、彼が言葉を続ける。
「嫌だからな、俺は」
意味不明な言葉を。
「…ん?」
よくわからず、それだけ返すと「嫌だから」ってところだけ繰り返し、ベッドがギシ…と鳴って。
重なった手はそのままに、彼が体を反転させてあたしを抱きしめていた。
「ひなが、あんな風に目の前からいなくなるの…俺は嫌だ」
ギュッと、強く。
「死にたかったわけじゃないよな? そんなこと、選ばないよな?」
不安な心を抱きしめているみたいに、繰り返し…繰り返し…「嫌だ」と囁いた。
「死なないよ? そんな風に」
小さな声でそう返すと、両肩をつかんだまま腕を伸ばしただけの距離になる。
「ひなは、そんなことしないって信じてても、人間…ツラかったら何をするかわからないもんだから。…心配した」
念押しするように繰り返された言葉に、胸があたたかくなった。
肩にある彼の手に自分の手を重ねようとした次の瞬間、あるものが視界に入った。
右手首に、うっすら残る数本の傷痕。
それが視界に入った時、さっき彼があたしに話したことが彼の経験談へと形を変えた。
“人間ツラかったらなにをするかわからない”
……シファルは、いつかの過去に何かがあってナニカをした。
溺れる気満々で入浴したわけじゃなかったけど、意図したわけじゃないのに彼の過去を思い出させてしまったよう。
抱えているナニカがある彼。
(彼になら、打ち明けても……許されるだろうか)
元いた世界で抱えていたこと。こっちに来てから、上手く消化できていないこと。
笑ってごまかしてきたたくさんのことや、変えようとして変えられずにきたことも……。
彼の傷痕を見ないふりして、その傷から勇気を勝手にもらう。
「――シファル。話、聞いてほしいこと…ある。他の誰でもなく、シファルだから……聞いて、ほしい」
秘密を明かすのは、怖い。
嘘で武装しないで進むのも、ホントは怖い。
(でも、それでも……聞いてほしい)
柊也兄ちゃんにも話せなかったこと。
ジークがもしかしたら見透かしているかもしれないこと。
カルナークに聞こえちゃう独り言にもしないできたこと。
「俺でいいのか?」
あたしの気持ちを確かめてくれる優しい彼に、目をそらすことなく伝える。
「シファルじゃなきゃ、話せない。シファルが、いいの」
抱えられる思いの限界を超えてしまう前に、彼だけに荷物を預けようと口を開いた。
シファルルートになります。
シファル=Sifarと書くらしいので、ルート:Sfという表記にしました。
抱えられるもの、抱えられないこと1及び、カルナークの閑話以降の話です。
******
二人が並ぶ姿を見比べながら、心の中で、そっと呟く。
(ごめんね、カルナーク)
なんて。
まっすぐ向けられすぎな彼からの愛情には、きっとずっとあたしは応えられない。
自分が悪いわけじゃないってわかっていても、なんだか悪い気がしてしまう。あたしの悪い癖だ。
恋は、誰にでも平等じゃない気がする。
カルナークからの気持ちにあたしが応えられないのと同じように、きっとあたしの気持ちもシファルから受け入れられないはずだ。
愛されないのはツラいってわかってて、カルナークに応えないあたし。
好きって言ってくれる誰かに寄りかかれば楽だよってこともわかっているのに、理解したくない。
(だって、嘘は少ない方がいい…でしょ?)
どこかに嘘を吐いてでも生きなきゃいけない時があるとしたって、カルナークにこの部分は素直に伝えなきゃね。いつか。
嫌いじゃないけど好きでもない人、だって。それ以上でも以下でもない、あたしたちの関係について。
それに嘘ばかり積み重ねていたら、本音が出せなくなりそう。
嘘の自分が本当になってしまいそうで怖くもある。
それでなくても、この場所に来てから聖女じゃないと明かせたのが数人だけなのだから。
嘘つきの自分。正直者な自分。
目の前の彼が好意を抱いてくれるのは、どっちのあたしかな。
バスルームでしっとりと濡れた髪をかき上げた彼は、今まで見たことがない大人な表情をしていて、心臓がどうにかなりそうだった。
男の人なんだって、改めて知らされたと感じたほどに。
異性だと意識すればするほどに、シファルが遠ざかりそうで怖い。
気づかせちゃダメって思うのに、心と行動が一致してくれなくて混乱する。
意識されたい。
でも、こんなに恥ずかしいことを誰にでも出来る女の子だなんて思われたくない。
どう伝えれば近づいてもらえるかわからないから、強引にでも女の子だって思わせたい。
でも…もし、こんな大人になり切れていない体を見せたことで、逆に嫌われたら?
(こんなにわずかな期間で、あたしの心の中がシファルでいっぱいだ)
勇気を出したあたしを見てほしいのに、彼は目かくしをしてあたしを着替えさせようとする。
誠実といえば誠実だ。
こっちの思惑外れといえば、そういうわけで。
「……着るよ、自分で」
目かくしをしてバスローブを手にした彼の手から、そっとそれを取り上げる。
まだ心臓はバクバクいっているけど、どうにか着替えられそう。
下着のことまでは頼めないから、あとでどうにかすることにして。
「……う」
バスローブに着替えた後、はあはあいいながら四つん這いになって元いた場所に移動して、体を起こし気味にベッドに寝る。
「い…よ、シファル」
着替えたよと教えると、結んだタオルを外してゆっくりと目を開けた。
見慣れたメガネ姿じゃなく、いつもより眼光が鋭めの大人な男性の目になっている。
(あぁ、ダメだ。シファルはいつも自分に自信がなさそうだけど、実は知的系のイケメンなんだよね。今日は新しいシファルばかりで、心臓がもたないよ)
あたしと目が合ったなと思ったら、自分の分のバスローブを手にしてバスルームの方へと消えていき、すぐに戻ってきた。
不謹慎だってわかってる!
わかってるけど、それでも嬉しいんだもん。
(バスローブ。おそろいだ…)
素直にへらりと笑ってみせると、シファルから目をそらされちゃう。
ベッドに戻ってくる前に、テーブルの上からなにかを手にしてベッド横のサイドテーブルに置いた。
「…シファル?」
ひとつは薬だってわかるのに、もうひとつがよくわからないや。
首をかしげて彼の言葉を待つあたしに、彼の大きな手のひらが触れた。
「気分は? 吐き気は? 頭痛はまだするか? 水もう少し飲むか?」
一気に答えられないのに、思いついた順にか聞いてくる彼。
「頭は、まだ…。水、飲む」
それだけ返すと、水と薬を渡された。
「鎮痛剤、とりあえず飲んどこうよ」
薬を飲むついでに、水も多めに飲んでおく。
空になったグラスを片付けてくれた彼が、あたしの横に腰かけてくる。
並んだ格好になった状況に、意識しないわけにはいかない。
(でもきっとあたしだけだよね、こんなに意識してるの)
浮かれたり、落ち込んだり。ほんと、忙しいや。
「……話、しても大丈夫?」
真横からあたしの様子を伺うように、すこしだけ身をかがめて覗きこむ格好で目を合わせてくる。
「う…ん」
ドキドキしつつも、なんとかそれだけ返すとヒンヤリしたものが手に触れた。
「心配、した」
いいながら、シファルの手がベッドに置かれたあたしの手に重なっていて。
「心配……した」
同じ言葉を繰り返されているだけなのに、彼の本音なんだと伝わってきてまた不謹慎なことを思ってしまう。
心配されて嬉しい、だなんて。
重ねられた手にキュッと力を込めてきて、彼が言葉を続ける。
「嫌だからな、俺は」
意味不明な言葉を。
「…ん?」
よくわからず、それだけ返すと「嫌だから」ってところだけ繰り返し、ベッドがギシ…と鳴って。
重なった手はそのままに、彼が体を反転させてあたしを抱きしめていた。
「ひなが、あんな風に目の前からいなくなるの…俺は嫌だ」
ギュッと、強く。
「死にたかったわけじゃないよな? そんなこと、選ばないよな?」
不安な心を抱きしめているみたいに、繰り返し…繰り返し…「嫌だ」と囁いた。
「死なないよ? そんな風に」
小さな声でそう返すと、両肩をつかんだまま腕を伸ばしただけの距離になる。
「ひなは、そんなことしないって信じてても、人間…ツラかったら何をするかわからないもんだから。…心配した」
念押しするように繰り返された言葉に、胸があたたかくなった。
肩にある彼の手に自分の手を重ねようとした次の瞬間、あるものが視界に入った。
右手首に、うっすら残る数本の傷痕。
それが視界に入った時、さっき彼があたしに話したことが彼の経験談へと形を変えた。
“人間ツラかったらなにをするかわからない”
……シファルは、いつかの過去に何かがあってナニカをした。
溺れる気満々で入浴したわけじゃなかったけど、意図したわけじゃないのに彼の過去を思い出させてしまったよう。
抱えているナニカがある彼。
(彼になら、打ち明けても……許されるだろうか)
元いた世界で抱えていたこと。こっちに来てから、上手く消化できていないこと。
笑ってごまかしてきたたくさんのことや、変えようとして変えられずにきたことも……。
彼の傷痕を見ないふりして、その傷から勇気を勝手にもらう。
「――シファル。話、聞いてほしいこと…ある。他の誰でもなく、シファルだから……聞いて、ほしい」
秘密を明かすのは、怖い。
嘘で武装しないで進むのも、ホントは怖い。
(でも、それでも……聞いてほしい)
柊也兄ちゃんにも話せなかったこと。
ジークがもしかしたら見透かしているかもしれないこと。
カルナークに聞こえちゃう独り言にもしないできたこと。
「俺でいいのか?」
あたしの気持ちを確かめてくれる優しい彼に、目をそらすことなく伝える。
「シファルじゃなきゃ、話せない。シファルが、いいの」
抱えられる思いの限界を超えてしまう前に、彼だけに荷物を預けようと口を開いた。
応援ありがとうございます!
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