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手をのばせば、きっと… 3 ♯ルート:Sf

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IFストーリーです。


シファルルートになります。

シファル=Sifarと書くらしいので、ルート:Sfという表記にしました。

抱えられるもの、抱えられないこと1及び、カルナークの閑話以降の話です。



******


~シファル視点~


まさかの王族な上に、9代前とか不思議なことをいうシューヤという名の男。

「不思議だろうけど、転移したのは15年前だよ。そっちと時間軸がどういう扱いになってるかわからない部分はまだあるけど、この体が3歳の時に転移している」

9代前ならば、一回の召喚の間隔がおおよそ100年おきだったはずだ。本来ならば、それだけの間が空いているはずなのに。

「さ、質問は?」

でも、過去の王族の名前に目の前の男と同じ名前があった記憶がない。

「いくつかあるが、まず最初に聞きたい。俺が知る範囲内で、召喚をするようになって以降の王族に同じ名はなかったはずだ。…さっき名乗った名は、真名まなか?」

王族が本当の名前=真名を名乗ることには、意味がある。

権限を使う場合や、何かを護る時。そして、相手からの信頼を得たい時もそうだと聞いたことがあった。

「…真名だよ。そっちが俺の情報を知らないのには理由がある。俺の情報に関しては、母親が消したはずだ。そのこと自体が、俺がここに転移したことにつながる。……その話については、後で話そうかな。ちょっと長くなっちゃうから。…他に質問は?」

王族がその情報というか存在を削除したということか。それは…犯罪にあたるはず。よほどの事情でもなきゃ、そんなことが可能なはずがないのに。

(一体…どうして? どうやって…消せた?)

魔力やスキルの関係か、王族の家系図にあたるものは子どもが産まれた時点で、秘匿の方法にて王族だけが知る文献へと記載されると聞いたことがある。

俺が過去の王族について知っていたのは、アレク経由だ。

ある日、突然部屋にやってきて、召喚に関係する…それまで読んだことがなかった本を持ってきて、お前も読んでおけと置いていかれたからだ。

その中の一冊にあった、王族絡みの一冊の本。姿絵に家系図。そして、その中で聖女と添い遂げた者には特記事項が含まれていた。

禁書庫扱いなんじゃないかと、アレクを訪ねたことがあったっけな。

思い出そうとしても、さっき聞いた名前が記憶の中にない。姿絵にも目の前の顔はなかった気がするんだ。

それでも今すぐには、答えが聞けない。

(ほかの質問、か。……ならば)

「では、二つ目の質問を。…ひなは俺がいた世界にいるはずなのに、さっきここに来た…ひなの兄貴だという人物の中では、この世界にいて金髪になりカラコンを買ってくることになっている。ひなは現時点でどういう扱いになっているんだ? ひなが心配していたようなことにはなっていないのか?」

ひなは、自分は転移したんだと思うと言った。転生じゃなく、と。

さっきの会話から感じたのは、ひなはあの兄貴だという人物の中では生きている扱いだ。死んでいない。

なら、ひなが思った通りで転移なんだろう。そして、どうしてか…多分、ひなが転移したその日に俺はこっちに呼ばれたんだ。彼の何らかの方法によって。

「そうだね。ひなは元気に出かけていき、髪色を変えて、カラコンで目の色を変えて、新しく入学するはずだった高校という場所に行くための準備をしていた。――そして、召喚された。聖女の色を纏ったままで」

その言葉に、さっき二人がしていた会話の最中に感じた違和感を言葉にしてみる。

「聖女の色を纏った…と言ったが、偶然過ぎないか? 金髪に、ピンクのカラコンなど」

あえて言葉にしてみると、ジークによく似た彼がふわりと笑う。

「偶然じゃないよ、その色で揃えたのは」

そして、さも当然だよと言わんばかりな顔で、彼が知る事実を語る。

「ひなを聖女の色で彩るように仕向けたのは、俺だよ」

と。

「…何故」

「必要だったから」

「何のために」

「ひなが変わるために」

ひなが変わるためにと彼は言った。だが、おかしいだろう? 元々ひなは、高校という場所で新しい場所で新しい自分になって過ごすために、金髪にしてカラコンも入れようと思ったのだろう?

「それは誰の都合だ。…ひなは、高校という場所でやり直すためにそうしたんじゃないのか? ひなが進んで俺たちの世界に来るために、その色を纏ったわけじゃないだろう?」

ひなの二人目の兄貴扱いだというこの男は、ひなのためだと言いつつひなの気持ちを無視しているんじゃないのか?

憤りを隠せない俺に、彼が「ふ…っ」と短く息を吐くように笑い、ゆるく首を振って見せた。

「確かにひなは高校で新しい自分になろうとしていた。新生活を始めようとしていた。…でもね、ダメなんだよ。ひなは、高校で新しい自分にはなれない。……傷を増やすだけ。そして俺は知っていたから、“そうなるように”仕向けた。条件が整うように、と」

「知って…いた?」

顔がこわばる。

「仕向けた、だと?」

口元が歪んでしまうのを、抑えられない。

「それのどこがひなのためになると?」

ひなのように人との関わりに不安を抱えている人間が、それまで過ごしていた場所も知り合いも何もかもをなくして、ゼロから居場所を作るということ。

その大変さや不安の大きさは、あの世界にいた誰にも理解しきれないものだったはずだ。

いつも笑っていたひなが、限界を迎えて熱を出した時にも無理に笑っていたことを思い出す。

「何様だ」

こぶしを強く握りすぎて、爪が皮膚に食い込む。

「ひながどれだけ……」

そう言いかけた時、「知ってるよ。見てたからね、俺は」と言葉を被せてきた。

「…は? 見て…?」

なんて不可思議なことを、と思った。

だが彼の目は真剣で、俺から目をそらさないままだ。

「その話をするついでに、最初の質問にも答えるよ。……俺は、さっき話した通りで過去の王族で、そして……全属性持ちだった。母親は、闇属性持ちで、隠蔽などのスキルを持っていたんだ」

「全属性…! まさか! 過去の王族にそんな人物の表記など……。ん? ……まさか、それを隠したのが母親で王妃か?」

と問いかければ、「ちょっとだけ違う」と言いながらイスに腰かける。

「母親は、側妃。それとその代の国王…つまりは俺の父親は、過去の国王の中で一番暴君といわれた人物だ。俺の母親は、元は国王付きのメイドで、手を出して妊娠した後に側近の中から養女になる貴族を探してから、側妃として迎えたんだ。王妃との間に生まれた王子は、いわゆる頭があまりいい方ではなく、周りの大人の言葉を疑うことなく傀儡の王になるだろうと言われていたんだ。しかも魔力も少なく、スキルも役に立つものもなく。…そんな中で成長していった先で明らかになった、俺の全属性持ち。母親は国王に使い潰される可能性を考えて、俺を生かすために手段を選ばなかった。……まぁ、その時に飛ばしてくれて大正解なんだけどね。こっちに来てから、新たにスキルが現れたからね」

側妃だった母親が、自分の子どもを暴君たる夫から護るために…この世界に飛ばした?

(でも普通だったなら、異世界へと飛ばすなど…条件が整っていなきゃ無理のはずだ。もしもその条件がわかれば……ひなをこの場所に…)

と考えてから、眉間にしわを寄せる。

考えたくないことを、一瞬考えたからだ。

――ひなをここに戻す方法があるんじゃないのか?

ということを。

が、考えたくない気持ちもある。ひなと一緒にいたい。あの場所で、ずっと…ずっと…。

だけど、ひなが元いた世界に帰りたがっていたのも事実で、もしもその方法を知ってて教えないのは罪だ。

(その条件を見つけた方がいいと思えるのに、探すのが怖くもある)

複雑な気持ちを抱えながら、彼への視線を強めた。

「先見っていうの? 未来が見えるスキルが発現しちゃってね」

困ったなぁと言っていそうな顔つきだ。

「確かにそれがあると、暴君だっただろう国王に便利だと思われただろうな」

俺がそう言えば「それねー」と苦笑いをしてうなずく。

「でもね、そのおかげなんだよね。……ひなの未来が俺だけに見えたから、準備を整えてやることが出来たんだ」

そう呟く彼に「それは…」と聞き返せば、机の引き出しから紙を一枚取り出して俺に手渡してきた。

「俺の先見は、俺が大事にしている人間についてだけ。そして、こうやっていきなり便せんに現れるんだ。ただ、未来を変えない方がいい場合もあるから、何か起きた後のフォローをしたりして、本当に起きるべきその日に向けての準備を進めていく。……ひなが過去に、こっちの世界で胸を傷めるような出来事があるとわかっていた時も、俺はその出来事はひなの未来に必要なことだと知っていたから、可哀想だと思っても放っておいた。でも、ひなが先に進むために、ひなのそばにいた。ひなの願いを叶えた。俺が出来ることは叶えてやった」

紙に書かれていたことは、この世界の日付らしいものの後に、ひなが召喚されることとあっちの世界で何が起きるかが事細かく書かれている。しかも、この紙に書かれている文字は。

「元の世界の言語だから、コッチの世界の誰かに見られてもバレない仕様。…便利だよね」

ひなが浄化をする時の言語は、こっちの世界の言葉。そして手の中にある未来の話は、あっちの言語。

(誰が決めた仕組みなんだ、これは)

どこか不思議な気持ちになりながら、俺はその便せんに書かれている内容を読み続ける。

そして、たどり着く。

後半の方に、ひなが浄化をする時に起きることが書かれている場所に。

『浄化のタイミングで、シファルへの攻撃あり※教会より。その後の浄化に使用出来うる樹木へと、変貌を遂げる。聖女=ひなは、死ぬまで独身のまま国に留まった』

最後の一文から、目が離せない。

その一文を指でなぞって、唇を噛む。

うつむきがちになった俺の頭上から、親友に似た声がする。

「未来は、確定じゃない。…変えられる。俺はそう信じてるし、俺は変えられる力を持っている。……だから、聞かせてよ。シファル」

俺の名を呼ぶ声に、心臓がぎゅっとなる。

「君は、ひなを愛している? この世界に戻せなくても、あの子を独りにはしないことを…誓える?」

さっきの一文を思い出し、寂しがり屋で頑張り屋のひなのそばにいたいと思った。

「独りにする気など…ない!」

何度も見たひなの笑顔を思い出し、胸の奥のあたたかさを確かめて。

「俺は…………ひなを、愛している」

まっすぐに彼と視線を合わせて、ハッキリと告げた。


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