愛しい人へ~愛しているから私を捨てて下さい~

ともどーも

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5話 彼の心 後編

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~ ノーランド視点 ~

 彼女が居なくなって、俺は仕事に明け暮れた。
 婚約白紙を聞き付けて、姿絵を送ってくる令嬢もいたが、誰にも心が動かない。
 リックベルト殿下の護衛で夜会に出たこともある。侯爵家嫡男で西の副騎士団長、王太子様とも懇意にしている男。婚約者がいないとなれば、虫が蜜に群がるように、色取り取りの令嬢が列をなして集まってきた。
 殿下に「恋の傷は、新しい恋で癒すのが一番だ」と言われて、令嬢の輪に放置されたこともある。

 でもダメなんだ。
 どの令嬢と語らっても、彼女を思い浮かべてしまう。
 令嬢達の反応を彼女に置き換え、違う反応をされると落胆する。
 笑い方が違う、彼女はそんな事言わない、彼女なら…。

 なんと女々しい男なんだ。
 自分を捨てた女をいつまでも思っているなんて、愚かにも程がある!

 25歳になり、そろそろ身を固めなければいけないと思っていた矢先、カルヴァン王国の使節団が問題を起こした。
 リックベルト殿下が大切にしている婚約者殿をパーティー会場から連れ出し、休憩室に連れ込んだのだ。
 抵抗したからと、頬を叩き、ドレスを切り刻んでいたそうだ。
 発見した殿下は持っていた剣で、護衛の制止を振り切り、痴れ者の首を撥ね飛ばしてしまった。

 それからが大変だった。
 痴れ者はカルヴァン王国の第一王子だったことから、戦争に発展してしまった。
 カルヴァン王国は彼女が向かった国だ。王城で侍女をしていると風の噂で知っている。

 彼女の事など、どうでも良いはずなのに、胸がざわめき落ち着かない。
 ヴィラン王国出身の彼女は捕らえられ、拷問や投獄されているのではないか、もしかしたら辱しめられているのではないか。
 そう考えると、居ても立っても居られない。
 殿下に進言して、最前線の指揮官に任命された。急いで彼女を迎えに行かなければ!

 ベンズブロー伯爵に連絡をとり、彼女の現在の状況を詳しく聞くことが出来た。
 彼女は第三王女の専属侍女に出世しており、数々の男から結婚の申込みが来ていたと言うではないか。
 彼女の可憐さ、聡明さに男どもが目をつけないわけがない!
 もう恋人が居るかもしれない。

 そんなこと、知るものか!
 恋人がいたとして、なぎ払ってしまえばいい。
 カルヴァン王国の男と言うだけで、生殺与奪権はこちらにある。
 彼女の心が欲しい。でも、手に入らないなら体たけでも構わない。彼女のいない時間は地獄だった。
 今度は殿下に婚約の許しをもらい、決して覆させないように彼女を捕まえるんだ。

 彼女を手に入れる為なら、いくらでも屍の山を作ってやる。


×××


 半年という異例の早さで王城に攻め込む事に成功した。
 必死に彼女を探すが見つからない。
 捕らえた使用人を尋問すると、彼女はたくさんの男から言い寄られ、男癖が悪く、誘われれば誰とでも夜を共にしたと口汚く言っていた。新参者の癖に王女様に気に入られていい気になっていたのだと。

 信じられなかった。
 彼女はそんな人ではない。
 でも、俺と別れた反動で男と遊ぶのが楽しくなったのかも知れない。まともな結婚は出来ないからと、自棄になってしまったのかも知れない。

 隠し脱出道の出口を聞き出し、急いで向かった。

「剣を引きなさい!私はシャティアナ・ベンズブロー。魔動車を開発したベンズブロー伯爵の娘です」

 遠くの方で彼女の声が聞こえた。
 少し高めの声質は変わっていない。
 凛とした声が懐かしい。

「同じ祖国の者を殺すのがヴィラン王国のやり方ですか!私達は抵抗しません。司令官の所に連れていってください。みんな、剣を捨てなさい」

 騎士達に向ける目に怒りを覚えた。
 柔らかな、慈愛に満ちた表情だ。
 あの中に恋人がいるのか?
 誰だ!

「ずいぶん勇ましくなったじゃないか。シャティアナ・ベンズブロー伯爵令嬢」

 俺の声に反応した?
 兜で顔はわからないはずだ。

「後ろに居るのは第三王女のメリダ王女だな。王族は殺すように言われている。庇い立てするな」
「まだ8歳の幼い少女です!崇高なヴィラン国王は幼い少女ですら、その首をハネるように命じているのですか?!陛下は慈悲深い方です。そのような酷い命令をなさるはずはありません!」

 実に彼女らしい言い方だ。
 あんな風に言われては、この場で王女を殺せばヴィラン王国は野蛮な国だと肯定してしまう。
 陛下に慈悲を乞いたいと願われては、引くしか有るまい。

「ククク。よく頭が回るじゃないか。よかろう、ヴィラン王国に連行して、処罰は陛下に委ねるとしよう。ただし、お前が王女を事も報告する。敵国の少女を庇った罰を受けるんだな。売国奴め、拘束しろ!」

 もっと甘く彼女を迎えに来たかった。しかし、状況と俺の心情はそれを許さず、彼女に厳しい言葉を投げつけてしまう。


×××



 ヴィラン王国の城に着いても、やることが多く、なかなか彼女に会いに行けない。
 捕らえた王女の件は大臣内で大きな論争に成っている。
 火種を残すのはよくないから殺すとか、幼い王女を殺すのは野蛮だと非難する声、殺さず使い道が有るのではないかと議論は尽きない。
 シャティアナ・ベンズブロー伯爵令嬢の件は『職務に忠実だった』として、しばらく監視したのち釈放する事になったが、殿下が『シャティアナ嬢の件は戦果をあげたマッケンジー侯爵令息に一任する』と俺に委ねてくれた。
 俺が彼女に心を残しているのを知って「今度は逃がすなよ」と機会を与えてくれた。

 流行る気持ちを抑えつつ、彼女が幽閉された塔に向かった。
 何と声を掛ければ良いだろうか…。
 いきなり求婚することは出来ないし、彼女の状況を確認しなければ。
 恋人が居たとしても、彼女を口説き落さなければ。

 彼女はベッドに座り、窓から外を眺めていた。
 月明かりが彼女の白い肌を照らし、ふわふわな髪と華奢な体から妖精を連想させた。
 5年経って、体の膨らみを感じられるが、それ以上に凛とした大人の女性の色香を感じた。
 髪の分目から白いうなじが見える。
 匂い立つその肌に触れたい衝動に駆られるが両腕で己を制する。
「何をしている」
 驚いた彼女が振り向いた。
 泣いている。
 その意味を図りかねる。

 恋人を思っているのか?
 幽閉されて怯えているのか?
 裁かれるのを恐れているのか?
 わからない。

「お前の処罰は全て俺に委ねられた」
 彼女の肩が少し強ばった。
 それを拒否の反応だと思った。
 胸が苦しい。

「よかったな、元婚約者だ。いつものように男に媚を売れば助かるかも知れないぞ。恋人がいたそうじゃないか。それも何人も。取っ替え引っ替えして遊んでいたのだろう?その瞳を潤ませ、頬を染めて、男を篭絡してきたのだろう」
 自分で言っていて、怒りが込み上げる。
「俺にもやってみろ。篭絡できたら刑を軽くしてやることも出来る」

 こんな言葉をかけたい訳じゃない!
 しかし、思うように言葉が出ない。
 嫉妬心が邪魔をして、甘い言葉を紡ぐ事が出来ない。

「減刑を求めることはしません。貴方様の御随意にして下さい」
 彼女の淡々とした言葉が癪に触る。
 何故頼ってくれないんだ!
「そんなに俺が嫌か。命乞いよりも俺にすがることが、そんなに嫌だと言うのか!何人と寝たんだ。一緒に捕まった騎士の中に恋人はいるのか?どうなんだ!!」
 乱暴に彼女を組敷いてしまう。
 嫉妬心でどうにかなりそうだ。
「止めてください!触らないで!」
 そんなに俺に触れられたくないのか、彼女の必死の抵抗に心が沈んでいく。
 彼女を自分のものにしたい。
 心が伴わなくても…。
「お前に罰を与えてやろう。その体に」
 構わない!
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