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7話 真実を求めて

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~ ノーランド視点 ~

 扉を閉めて、それを背にもたれ掛かった。
 中からすすり泣く声が聞こえる。

 彼女があんなに取り乱すところを、幼い頃を含めても見たことがなかった。
 それに俺の懇願に対して『嫌だ』ではなく『出来ない』と言っていた。
 彼女が何か隠しているのがわかる。しかし、問い詰めたとしても口を割らないのもわかった。
 『殺したいなら今すぐ殺して』と悲痛な叫びは、秘密を話すぐらいなら死ぬと暗に言っている様に感じた。
 
 愛しいシャティー。
 君は何を隠している。
 何がそこまで君を追い詰めているんだ。

「シャティーと話しは出来た?」
 ドキっとした。
 気配を感じなかった。
 声のした方を見ると、階段上に少女が座ってこちらを見ていた。
「貴方を待ってたの。ノーランド・マッケンジー侯爵令息様」
 ストレートに伸ばしたハニーピンクの髪にサファイアブルーの瞳を持つ、儚げな少女だ。そう、今王城で話題のメリダ王女。
「待っていた?」
 不穏な空気を感じとる。
「部屋でお話しましょ」
 感情を読み取らせない淡々とした言葉に、着いていくか迷う。
「シャティーの為に話を聞いて」
 シャティーの為と言われると、駄目だった。仕方なく、最上階に向かった。


×××


 メリダ王女はベッドに腰かけると、俺にベッド脇に置いてある椅子を勧めた。
「とりあえず、シャティーに手を出さないでくれてありがとう」
 ドキっとした。
 見ていたのか?
「あぁ、勘違いしないで!私は何も見てないわ。こうなることを夢で見ていたの」
「夢?」
「人の行動や選択によって、未来は様々なルートを通っているの。今夜の貴方の訪問は大きな分岐点だったのよ。シャティーと私の」
「どういう事だ」
「もしも今夜、貴方がシャティーを襲って、朝まで部屋から出てこなかったら、彼女は命を絶っていたわ。その延長で私の処刑か幽閉が確定するの」
 彼女は自分を『先見の姫』と称した。断片的な未来しか見ることが出来ないそうだが、何とも信じられない話だ。

「シャティーを幸せにするには、彼女の秘密を暴かなくてはいけないわ。でも、それが何なのか今はわからない。ヒントは『遺言』よ」
 『遺言』
 それは伯爵夫人が残したというものか?
「心当たりがあるのね?それなら急いだ方がいいわ。私の処遇が決まる前に真実にたどり着かなければ、彼女も私も死ぬしかない」

 メリダ王女の話しを全て信じた訳ではない。しかし、『伯爵夫人の遺言』によって俺たちの関係は大きく崩れて行った。そこに謎を解く答えがあるはずだ。


×××


 早朝。
 先触れも出さずにベンズブロー伯爵家に行った。無礼であるのはわかっていたが、伯爵に詫びて謁見していただいた。
 シャティーの処遇は俺に一任されているので、その件で来訪したと思っていたらしく、出会い頭土下座された。
「シャティアナを殺さないでくれ!妻を亡くし、娘までいなくなったら、私は生きていけない!お願いだ!!」
 額を床に擦り付けて、懇願された瞬間は何を言われているのかわからなかった。
 シャティアナの処罰は事態が収集するまで監査対象になるだけで、命を取るようなことはしないと散々説明したが、伯爵の取り乱し様は尋常ではなく、なかなか話が出来ずに困った。

 落ち着いたところで彼女との婚約の話を出した。俺の妻になって欲しいと口説いたが母親の遺言で拒否される。どんな遺言だったか教えて欲しいと。

 伯爵の話では、夫人は婚約発表した晩に、ナイフを持って現れた。
「愛している。今までもこれからも愛している」と涙を流しながら首を自ら切り裂いたそうだ。
 伯爵には遺言らしい事は言っていなかった。もしかしたら、伯爵の前に現れる前にシャティアナと話をしていたのかもしれないとの見解になった。

「そうだ!妻は日記を書いていたはずだ」
 使用人に伯爵夫人の日記を探させたが、見つからなかった。
 シャティアナの専属メイドをしていた者に当時の話を聞くと、日記の全てを彼女が隣国に持っていったという情報が手に入った。
 

×××


 隣国に行って帰ってくるのに一週間はかかる。その間にメリダ王女の処遇が決定されては不味い。
 リックベルト殿下に
「シャティアナ嬢の心を開かせるには隣国にある物が必要なんだ。彼女の心を手に入れてから王女の処遇を決めて欲しい。このままでは彼女は王女の後を追ってしまう」
と、決定を先伸ばしにするようにお願いした。

「一つ貸しな」
 意地悪い顔で言われた。
 この人の『貸し』は必ず厄介事を押し付けられるんだ。
 しかし、シャティーを手に入れることが出来るなら安いものだ。


×××


 はやる気持ちでカルヴァン城に入った。今はリックベルト殿下の弟フレデリック殿下と我が国の宰相殿がカルヴァン王国を統治修繕を行っていた。

 殿下への挨拶もそこそこに、急いでシャティーの使用していた部屋に向かおうと、使用人の休憩室に向かった。

「本当にいい気味よ!」
「あいつ、王女様と幽閉されてるんでしょ?」

 二人の女が話す声が聞こえる。

「あの黒騎士、凄い声で探してたでしょ。きっとあいつが噂の恋人だったのよ」
 俺が城に攻め込んだ時に、シャティアナの居場所を尋問した女だ。
「あんた、それが分かっててあんな事言ったの~」
「人の男に色目を使った罰よ。今頃愛想つかされてるはずよ。こじれて別れてたら最高なのに」
「あんたみたいに?」
「そうよ!『なびかない華』なんて言われていい気になってるからよ。」
「あんたの旦那、賭けであいつを部屋に連れ込もうとして、逆に拘束されて城から追い出されちゃったもんね」

 なんだと…。
 この女のせいだ…。
 彼女を甘く迎えに行けなかったのは、こいつがでまかせを言ったから…。

「おい」
「「ひっ!」」
 俺の顔を見た女達は顔を青ざめた。
「詳しく話せ」

 シャティーは何人もの男に告白をされたそうだが『祖国に恋人がいるから付き合えない』と断って居たそうだ。
 『なびかない華』と有名で、男達から彼女の心を奪える奴は誰だと賭け事の対象にもなっていたらしい。
 俺にでたらめを教えた女の旦那が、仲間と賭けて、彼女を襲おうとしたそうだが、逆に彼女に締め上げられ、兵につき出されて城を追い出された。

 くだらない女の嫉妬と逆恨みで、俺は彼女を誤解し、5年ぶりの再開を最悪なものにしたのだ。思わず絞め殺しそうになったのは仕方がない事だろう。

 他の使用人に命じて、シャティーが使用していた部屋に案内させた。
 そして、クローゼットの中に隠すよう日記と手紙、何かの調査報告書が置いてあった。

 そこにはーーーー。
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