愛しい人へ~愛しているから私を捨てて下さい~

ともどーも

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9話 残酷な真実に立ち向かえ(前編)

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~ ノーランド視点 ~

 俺とシャティーが異母兄妹…。
 そんな…。
 そんな事…。

 信じられなくて、思わず伯爵夫人の日記を二つに引きちぎりそうになった。
 これは事実なのか?
 夫人の妄想ではないのか?!
 嫌だ!
 違う!!
 シャティーは妹ではない!俺の愛する、愛する…。

 伯爵夫人の日記や手紙、調査報告書を手に俺は祖国へと戻った。
 部下に命令して、シャティアナの部屋の荷物も、俺の屋敷に送るように命令しておいた。

 屋敷に戻ると、すぐに父上の書斎に駆け込んだ。
 俺が手にしていた日記を見て、父上は人払いをして静かに語り出した。

 仮面舞踏会は皆同じ仮面を着けて居たそうだ。
 偶然にも、母上と伯爵夫人のドレスの色が同じだった。
 当時父上と母上は仕事が忙しくてすれ違ってばかり居たようだ。仮面で顔を隠せば本音が話しやすいと思い参加したらしい。
 そして、母上と思っていた女性に酔ってしまったから休みたいと言われ、休憩室に向かい「貴方の子供が欲しい」と甘く囁かれ、酒の力もありその場で激しく抱いてしまった。
 気が付いたのは行為が終わった後だったと…。
 伯爵夫人の日記と証言は変わらなかった。

「何故教えてくれなかったんだ…」
「シャティアナ嬢との約束だった」

 シャティーは全て泥は自分が被ると父上に話をしに来たそうだ。
 『今回の不始末は、心が弱かった母の責任であり、罪は娘の私にある』と。兄妹で結婚は出来ないから、俺の名誉に傷がつかないように『伯爵夫人の遺言で婚約を白紙撤回』してほしいと願ったそうだ。
 父上も責任を取って侯爵の職を辞すると、母上に全て話すと言ったが、伯爵に事実が漏れる事を恐れて彼女は承諾しなかった。

 彼女の願いは俺の将来を傷つけない事と、父親である伯爵に真実を伝えない事だった。
 その為なら、自分の名誉がいくら傷つこうと構わないと…。

 愛しさで胸がいっぱいになる。
 優しくて愚かなシャティー。
 君が憎らしい…。
 真実を知って辛かっただろう、苦しかっただろう…。
 一人で抱えて胸が張り裂ける思いだっただろう。

 それでも、頼って欲しかった。
 教えて欲しかった。
 ちゃんと二人で考えたかった。
 


×××


 自室の窓から夕陽が差し込んでいる。俺はダラしなくソファーに寝そべり、片腕を額に乗せていた。

 頭の中が整理できない。
 俺達が兄妹であるのは間違いない。
 伯爵夫人の日記と父上の証言、そして夫人が調査した精子調査報告書が決定的だ。

 諦めるしかないのか…。
 彼女を手放し、俺ではない他の男がその手を掴み、愛らしいあの笑顔を向けられるのか。形の良いふっくらした口で男の名を呼び、あの柔らかい唇をその男に捧げるのか…。
 甘く、名酒にも負けない極上の味。一度味わえばもう一度、もう一度と思わない日はない。

 考えただけで胸が苦しい。
 諦める…。
 無理だ。
 諦められるなら、とっくにーーー

「ノーランド!」
 扉が突然開かれた。
 金髪青眼の貴公子が嬉々として部屋に入ってきた。
「殿下!」
 新しく入った従者のマッドの声がする。リックベルト殿下を追って、慌てて駆けてきたようだ。
「勝手に行かれては困ります!」
「ノーランドに会いに来たと言っただろう。何、こいつとは稚気の仲だ。突然訪問しても怒ったりせん」
 体を起こすのも億劫だ。
「マッド、大丈夫だ。下がっていい」
「かしこまりました」
 扉が閉まる音がする。
「で、何だ」
「何だではない。お前が帰国したのに、挨拶に来なかったから、わざわざ私が来たのだ。首尾はどうだ?シャティアナ嬢を口説き落とせそうか?」
 一人掛けのソファーに座り、弾んだ声で訪ねられた。
 男の癖に色恋の話が大好きな男だ。大方、強面堅物の俺がどんな恋をしてるのか覗きに来たんだろう。

 見た目は金髪青眼の見目麗しい、絵本に出てくるような貴公子だ。普段は聖人君主のように振る舞い、人々の支持も厚い。
 しかし、実質は腹黒で陰険。楽しそうな事はすぐに首を突っ込むから困りものだ。
 女達の恋の駆け引きも、スリリングで楽しいと、笑って傍観している。
 婚約者のレティーナ様がしっかり手綱を引いているから、この国は滅亡しないのだと常々思っている。

 まぁ、カルヴァンの第一王子がレティーナ様を襲った時は、魔神が降臨したのかと間違えるほど恐ろしかった。
 正直、あんなリックベルト殿下を見たことはなかった。
 カルヴァン王を城で拘束したときの顔を拝見したが、この人の前には立ちたくないと心底思ったものだ。

「何を項垂れておる。早く話せ」
 ニヤニヤ顔で聞かれて、正直ムカついた。リックベルト殿下でなければ八つ当たりに殴っていたかもしれない。
「お前の方が片付かねば、第三王女の処遇を決められないだろう。そろそろ大臣達が騒ぎだす。抑えるのもそろそろ限界だ」

 あぁ、そんな事をお願いしていたな。今となってはどうでも良いことだ。

「リックは王女をどうするつもりだ?」
 興味本位だった。
「どうとでも。王と王妃は処刑が決定したし、二人の王子は切り捨てた。第一王女は自害し、第二王女は反乱分子の炙り出し用に、名ばかりの俺の愛妾になった。カルヴァン王国を攻める際に「この責任は王族にある」と情報操作を行い、兵糧攻めも功を奏し、カルヴァン王国の民の心も王家から離れたからな。第三王女には使い道がないんだ」
 爽やかな顔して、えげつない事を平然と言いのけるから恐ろしい。
 今度は反乱分子を炙り出して遊ぶのが見えて辟易する。
「殺した方が後々面倒にならないが、『幼い少女すら殺す野蛮な国』と言われるのは癪だ。信頼できる臣下に預けたいんだがな~」

 あぁ、読めた…。
 シャティーと俺が結婚して、その養女として王女を俺に押し付ける気だな。
 シャティーと王女は今回の事でより絆が出来てる。俺がシャティーを口説き落とせれば、王女が反乱の旗印にならないようストッパーとしてシャティーを使う事が出来る。
 そして、俺の監視下であれば不穏な動きをしようものならすぐにわかるし、処断も容易い。
 また、今回戦果を上げた俺が監視役の方が、他の臣下が文句を言わないと言うことだ。

 腹黒め。
 リックベルト殿下の頭の中で、人は全て駒みたいな物だろう。
 より楽しく踊ってくれる駒を常に探している。

「リックの策は使えない。他をあたれ」
「何だ、シャティアナ嬢に恋人でも居たのか?そんな男、殺してしまえばいいだろう。それとも王家に伝わる惚れ薬をやろうか?朝から晩まで『男』を恋しがってくれる便利なやつだ」
 爽やかな挨拶をするような顔で、何て下劣な言葉を吐くんだ!
「そんなもの要らん!」
「なら何だ!惚れた女も口説けないほど腰抜けなのか?あんなに恋い焦がれていた女を、自分のものにしないでどうする!」
「ほっといてくれ!」
「ほう…。では別の者に秘薬を渡し、シャティアナ嬢に宛がうが、いいんだな」
 リックベルト殿下の挑発的な言葉に、思わず体が反応して、胸元を掴んでいた。
 勝ち誇ったやつの顔をぶん殴りたかったが、その後が面倒なので、何とか踏みとどまった。
 腕を離し、俺はドカッと再度ソファーに腰かけた。

「何が問題なんだ。話せ。友人のよしみだ解決してやる」
 自信満々な態度がムカつく。
 解決できるならやってみろ!
「誰にも言わないか」
「言わん。何なら『名に誓って』もいい」

 『名に誓う』とは、王族に伝わる契約魔法だ。もしも誓いを破れば腕に断罪の痣が浮かび上がり、王族の資格を剥奪される代物だ。

 正直、リックベルトがこんな事を言うとは思わなかった。
 やつの顔はいつになく真剣な目をして、俺を見ていた。やつなりに心配してくれていたんだな…。
 『本当に大切な時』を見極めるリックベルト殿下の慧眼はいつも驚かされる。

「『名に誓って』くれ。それから話す」
「わかった」
 
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