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プロローグ
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オギャア!オギャア!
朝日が昇る頃、私は心待ちにしていた愛しい声を聞いた。
「奥様、おめでとうございます。元気な女の子ですよ」
「あぁ……やっと……会えた」
その子はまだ羊水から出たばかりで、顔や体に血が着いていたけれど、紛れもない私の可愛い赤ちゃん。
「すぐに整えますね」
そう言って、産婆の女性は赤ちゃんを軽く沐浴させ、清潔な布で包み、私の枕元に連れてきてくれた。
軽いけど確かな重み。
産まれたばかりだから、皮膚はシワシワで赤黒い。友人達に見せてもらった生後3ヶ月の赤ちゃんとは全く違う。この子を、とても愛しいと魂が震えるようだ。
祖母に似た黒髪と、一見黒目に見えるが、光加減で深い海を思わせるダークブルーの瞳。
なんて愛らしい。
彼との赤ちゃん。
私は今、世界一幸せだわ。
私はリリーシア・ローゼンタール(19)
現在はローゼンタール伯爵家の伯爵夫人だが、結婚する前はブロリーン男爵家の娘として生きてきた。
男爵家ではあるが、マルティンソン侯爵家の分家なので、悪しざまに侮られたことはない。容姿もそれなりに整っているし、少しウェーブが入った金髪は周りからの評判もよかった。
実家の財政は、贅沢をしなければ困らない程度に恵まれている。
私の夫、エドワード・ローゼンタール(21)とは貴族学院の武術大会で知り合った。
さらさらの銀髪に、少し切れ長の青い瞳の男性だ。線が細くて、女性と間違われそうな容姿をしている。
貴族の男性は幼少期から剣術を嗜むのが常識で、学院では必ず武術大会に参加する風習があった。
上位入賞者は皆に讃えられ、王宮騎士団への入隊推薦も貰うことができる。また、意中の女性に告白する絶好の機会にもなっていた。
そんな男性達の真剣勝負の大会に、彼は腹痛を理由に参加せず、保健室でお菓子を頬張っていた。
傷薬や包帯の補充のため、当時保健係だった私は、保健室でお菓子を頬張る彼に遭遇した。
『君もお菓子を食べないか?』
──と、悪びれる様子もなく私を誘うから、あの時は思わず笑ってしまった。
『俺、剣術より弓の方が得意なんだ。武術大会も剣の模擬戦だけじゃなくて、弓の遠的とか精密射があるなら喜んで参加するんだけどな。そもそも、剣の模擬戦だと体格が良い奴が有利だと思わないか?俺みたいに、ヒョロイ奴は力負けして、怪我して終わりだよ。出るだけ損だと、ずっと思ってたんだ』
『フフフ。そうですね。剣術のことはあまりわかりませんが、歴代の優勝者は体格が良い人が多かったと言われてますよね』
『そうだろ!騎士を目指してる奴だけが参加すれば良いんだよ。実に無駄な行事だ』
私は補充作業も忘れて彼と話し込み、同じ保健係の子が来るまで、彼との交流を楽しんでしまっていた。
彼も私との会話が楽しかったのか、それからは廊下や登下校時に会えば挨拶をする仲になり、城下町に一緒に遊びに行ったり、誕生日や、季節のお祭りで贈り物をしあったりと、交流を深めて行った。
そして、彼の卒業式の日、告白されたのだ。
『君が好きだ。その……俺は男らしいとは言えない。君はそんな俺を笑うでも、男らしくあれと言うこともなく、ありのままの俺を見てくれる。俺は君とこの先の人生を歩みたい。君となら、楽しく温かい家庭を作れると思うんだ。俺と結婚してくれ!』
『はい。喜んで』
私は彼の告白に喜び、すぐに婚約をした。
そして、私の卒業を待って結婚。
新婚旅行が終わるとすぐに妊娠。そして今日、私は愛しい赤ちゃんを出産したのだ。
「リリーシア……」
愛しい彼がゆっくりと近づいてきた。
産婆の女性が招き入れてくれたのだろう。
「エドワード……」
私は彼に笑いかけた。
「……」
緊張しているのだろう。
赤ちゃんを見た彼は複雑な顔をしている。
そういえば、友人が『旦那様が子供が産まれたことに感激して号泣した』と言っていた。もしかしたら、エドワードは泣くのを我慢しているのかも知れない。
「エドワード」
優しく語りかけた。
泣きたいなら泣いて欲しい。喜んで欲しい。
そう思ったのに──。
「黒髪……。やっぱり……」
そう言って背を向けられた。
「え?」
彼は足早に部屋を出ていった。
祖母が黒髪だったのは、彼も知っているのに、あんな苦しそうな顔をするなんて、どうしたのかしら?
もしかして、黒髪が嫌いだったのかしら?
いいえ、彼はそんな見かけで判断するような人ではないわ。
きっと、驚いただけよ。きっと……。
そして、出産から一週間もたったある日。
「君には失望したよ」
「え?」
「それは俺の子じゃない」
冷たい視線を私の腕に抱かれた娘に向けた。
仕事が忙しいと見舞いにも来なかった愛する彼は、赤ちゃんとの親子鑑定書を持って現れた。
そこに『二人の親子関係は認められない』と記載があった。
朝日が昇る頃、私は心待ちにしていた愛しい声を聞いた。
「奥様、おめでとうございます。元気な女の子ですよ」
「あぁ……やっと……会えた」
その子はまだ羊水から出たばかりで、顔や体に血が着いていたけれど、紛れもない私の可愛い赤ちゃん。
「すぐに整えますね」
そう言って、産婆の女性は赤ちゃんを軽く沐浴させ、清潔な布で包み、私の枕元に連れてきてくれた。
軽いけど確かな重み。
産まれたばかりだから、皮膚はシワシワで赤黒い。友人達に見せてもらった生後3ヶ月の赤ちゃんとは全く違う。この子を、とても愛しいと魂が震えるようだ。
祖母に似た黒髪と、一見黒目に見えるが、光加減で深い海を思わせるダークブルーの瞳。
なんて愛らしい。
彼との赤ちゃん。
私は今、世界一幸せだわ。
私はリリーシア・ローゼンタール(19)
現在はローゼンタール伯爵家の伯爵夫人だが、結婚する前はブロリーン男爵家の娘として生きてきた。
男爵家ではあるが、マルティンソン侯爵家の分家なので、悪しざまに侮られたことはない。容姿もそれなりに整っているし、少しウェーブが入った金髪は周りからの評判もよかった。
実家の財政は、贅沢をしなければ困らない程度に恵まれている。
私の夫、エドワード・ローゼンタール(21)とは貴族学院の武術大会で知り合った。
さらさらの銀髪に、少し切れ長の青い瞳の男性だ。線が細くて、女性と間違われそうな容姿をしている。
貴族の男性は幼少期から剣術を嗜むのが常識で、学院では必ず武術大会に参加する風習があった。
上位入賞者は皆に讃えられ、王宮騎士団への入隊推薦も貰うことができる。また、意中の女性に告白する絶好の機会にもなっていた。
そんな男性達の真剣勝負の大会に、彼は腹痛を理由に参加せず、保健室でお菓子を頬張っていた。
傷薬や包帯の補充のため、当時保健係だった私は、保健室でお菓子を頬張る彼に遭遇した。
『君もお菓子を食べないか?』
──と、悪びれる様子もなく私を誘うから、あの時は思わず笑ってしまった。
『俺、剣術より弓の方が得意なんだ。武術大会も剣の模擬戦だけじゃなくて、弓の遠的とか精密射があるなら喜んで参加するんだけどな。そもそも、剣の模擬戦だと体格が良い奴が有利だと思わないか?俺みたいに、ヒョロイ奴は力負けして、怪我して終わりだよ。出るだけ損だと、ずっと思ってたんだ』
『フフフ。そうですね。剣術のことはあまりわかりませんが、歴代の優勝者は体格が良い人が多かったと言われてますよね』
『そうだろ!騎士を目指してる奴だけが参加すれば良いんだよ。実に無駄な行事だ』
私は補充作業も忘れて彼と話し込み、同じ保健係の子が来るまで、彼との交流を楽しんでしまっていた。
彼も私との会話が楽しかったのか、それからは廊下や登下校時に会えば挨拶をする仲になり、城下町に一緒に遊びに行ったり、誕生日や、季節のお祭りで贈り物をしあったりと、交流を深めて行った。
そして、彼の卒業式の日、告白されたのだ。
『君が好きだ。その……俺は男らしいとは言えない。君はそんな俺を笑うでも、男らしくあれと言うこともなく、ありのままの俺を見てくれる。俺は君とこの先の人生を歩みたい。君となら、楽しく温かい家庭を作れると思うんだ。俺と結婚してくれ!』
『はい。喜んで』
私は彼の告白に喜び、すぐに婚約をした。
そして、私の卒業を待って結婚。
新婚旅行が終わるとすぐに妊娠。そして今日、私は愛しい赤ちゃんを出産したのだ。
「リリーシア……」
愛しい彼がゆっくりと近づいてきた。
産婆の女性が招き入れてくれたのだろう。
「エドワード……」
私は彼に笑いかけた。
「……」
緊張しているのだろう。
赤ちゃんを見た彼は複雑な顔をしている。
そういえば、友人が『旦那様が子供が産まれたことに感激して号泣した』と言っていた。もしかしたら、エドワードは泣くのを我慢しているのかも知れない。
「エドワード」
優しく語りかけた。
泣きたいなら泣いて欲しい。喜んで欲しい。
そう思ったのに──。
「黒髪……。やっぱり……」
そう言って背を向けられた。
「え?」
彼は足早に部屋を出ていった。
祖母が黒髪だったのは、彼も知っているのに、あんな苦しそうな顔をするなんて、どうしたのかしら?
もしかして、黒髪が嫌いだったのかしら?
いいえ、彼はそんな見かけで判断するような人ではないわ。
きっと、驚いただけよ。きっと……。
そして、出産から一週間もたったある日。
「君には失望したよ」
「え?」
「それは俺の子じゃない」
冷たい視線を私の腕に抱かれた娘に向けた。
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