「俺の子じゃない」と言われました

ともどーも

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六話 兄として(ブライアン視点)

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「なんだと!?」
 早馬で届いた部下からの知らせに、俺は怒鳴るしかなかった。

 俺はブライアン・ブロリーン(25)
 リリーシアの兄だ。
 現在はサンブラノ王国の隣の国、オンディーヌ王国の植物研究所に短期間所属している。
 ブロリーン男爵領で自生しているコルダータ草という薬草の研究のためだ。

 繁殖力が高くて、根こそぎ駆除してもいつの間にか育っている雑草だ。しかも、触ると独特の悪臭を放ち、農家にとって厄介者だった。
 ただ、ニワトリや山羊など、家畜たちが好んで食べていた。更に、馬番たちが馬の調子が悪いときにコルダータ草を食べさせていたのを見て、何か領地の特産品になればと研究所に依頼したのがきっかけだった。
 調べると、多くの効能があることが判明し、現在はより詳しい調査を進めている。
 乾燥させてお茶にしてみたり、アルコールに漬けて虫除け薬にしてみたり、女性化粧品も開発中だ。
 開発関係は妻のマディヤ(23)に任せている。

「ブライアン……」
 手紙を持ってきてくれたマディヤが困惑した顔で呼んできた。
「何かあったの?」
「……リリーシアが浮気を理由に離婚されるかもしれない」
「え?!リリーちゃんが?!そんな馬鹿な……」
 リリーシアとマディヤは、本当の姉妹のように仲が良い。リリーシアの浮気と聞いて、信じられないと驚いている。
 俺だって信じられない。

「伯爵家に潜り込ませていた部下から連絡だ。伯爵が産まれた子との親子鑑定を秘密裏に行っているそうだ。伯爵はずいぶん前からリリーシアの浮気を疑っていたらしい。黒髪の赤子が産まれたことで確信し、浮気の証拠として鑑定を手配していると報告があった」
 リリーシアが結婚する前に、テイラー(50)と言う掃除婦を潜り込ませていた。
 スパイをしろとか、そんな命令ではなく、ただ、リリーシアが伯爵家で幸せに暮らしていることを確認するために潜り込ませた女性だった。

 リリーシアとエドワードが婚約したとき、エドワードの母親イザベラ・ローゼンタール前伯爵夫人が、二人の結婚を反対していたので、心配だったのだ。
 エドワードにも、俺が前伯爵夫人の事を心配していると伝えていた。
 彼は――
『義兄上、心配には及びません。母は領地で休養することになっています。婚約当初は反対してましたが、今は口出ししてきません。それに、何かあれば俺がリリーシアを守ります。安心して下さい』
――そう言って笑っていた。

 それなのに……。

 俺は拳を握り込んだ。
 そんな手を、マディヤはそっと両手で包み、自身の胸に押しあてた。
「迎えに行きましょう」
 彼女はまっすぐ俺を見た。
「リリーちゃんが浮気なんて、不義理なことをするはずはないわ。何かの間違いか、誰かにハメられたんだわ」
 彼女の言葉に胸が熱くなる。
 不甲斐ない自分が情けない。
 感傷に浸っている暇はない。
「所長に話してくる。マディヤは急いで荷造りを頼む」
「わかったわ。あと、私の実家にも連絡を入れておくわ。いったい何が起こっているのか調べないと。ブライアン、部下からの手紙、私も読んで良いかしら?」
「もちろん」
 マディヤの実家は大きくはないが、名の知れた商会だ。
 情報収集も得意としている。
 マディヤも情報処理能力が高く、必要な情報を取りまとめるのが上手い。リリーシアの現状を打開する策が見つかればいいのだが……。
 とにかく、王都で何が起こっているのか、把握する必要がある。

「……オーウェン・シャンドリー?」
 部屋を出るとき、マディヤの呟きが聞こえたが、俺は祖国に帰る許可を研究所の所長に申請するため、そのまま走り出した。



 ◇◇◇


 所長に事情を話すと、すぐに休暇申請を許可された。
 マディヤのいる自分の部屋に戻ると、彼女は荷造りそっちのけで、手紙を見ていた。
「あっ、早かったのね」
「所長に事情を話したら、すぐに休暇許可がおりたんだ。マディヤは何を?」
「気になることがあって、ちょっと頭を整理していたところ」
「気になること?」
「手紙には、伯爵が出産前からリリーちゃんの浮気を疑っていたそうじゃない?」
「あぁ、そうだな」
「何で浮気の疑惑が出たときに、伯爵はリリーちゃんに詰め寄らなかったのかしら?私なら、すぐに問いただしてしまうわ」
「確かに……」
 そう言われると、おかしなことだ。
 伯爵が離縁を望んでいたのなら、子供が産まれる前に行動していてもいいはずだ。
 子供が産まれるまで待っていた?
 何故?
「それに、いつの段階で浮気相手が護衛騎士のオーウェン・シャンドリーだと判明したのかが気になるわ。この手紙にはリリーちゃんの出産直後に彼を捕まえて、牢屋で拷問していると書いてあるわ。ということは、産まれる前からオーウェン・シャンドリーが浮気相手だと調べがついていたってことよね」
「そういうことになるな……。ん?」
 何か引っ掛かるぞ。
「何故、オーウェン・シャンドリーだったのかしら?彼、黒髪でしょ?お腹の子の父親に仕立て上げようとするなら、銀髪の相手を探すのが妥当じゃない?」
「そうだ。そこがおかしいんだ。おばあ様が黒髪だったから、黒髪の赤子が産まれる可能性はあるが、確率としては低いはずだ。むしろ金髪か銀髪の相手を準備するはずだ。それなのに、黒髪のオーウェン・シャンドリーを選んだ。そして、黒髪の赤子が産まれた」
「怪しいわね」
「あぁ。調べる必要がある」

 その後、二人で荷造りしていると、父上から緊急魔法メッセージが届いた。費用が高額なわりに短い文字しか送れないが、即座に届く連絡手段の一つだ。
 
『リリー、カケコミキョウカイ。ミハリキケン。ウゴケナイ。テガミダメ』
「これは……」
「リリーシアは伯爵家を追い出されて、王都の外れにある教会に身を寄せているようだな。父上も見張りがいて動けない。連絡手段の手紙は使えないようだ」
「このまま帰るのは得策じゃないわね」
「……」
 このまま馬鹿正直に帰れば、きっと俺たちにも見張りを付けられ、調査の妨害をされるだろう。
 マディヤの実家に調査をお願いするしか方法がない。しかし、俺たちが考えるよりも危険な状況なのかもしれない。下手をすれば商会に被害が及ぶ可能性もある。
 友人に助けを……いや、家同士のいざこざに他家が介入するのは良くない。現状はリリーシアが不利だから、こちらの足をすくわれる可能性がある。
 こちらの国で人を雇って、サンブラノ王国に送り込むか?いや、外国人がウロウロしていては目立ってしまう。スパイのプロを頼むにも、この国でそこまでのツテはない。
 どうすれば……。

「ブライアン」
 また握りしめていた手を、マディヤの手が優しく包んだ。
「リリーちゃんの無実の証拠は、ハーバイン商会の名にかけて見つけるわ」
「ダメだ。商会に危険が――」
「大丈夫」
 マディヤの力強い声に、言葉を飲み込んだ。
「父さんも、兄さんもそんな柔じゃない。商人にとって情報集めは生命線よ。貴族とは違う情報網だってある。それに、情報戦で危ない目に遭うことはよくある話。対処法も抜け道も心得ているわ。だから、安心して任せて」
 マディヤの真っ直ぐな瞳を見て
「よろしく頼む」
 と、頭を下げた。

 持つべきものは、一緒に戦ってくれる、愛しい妻だな。
 
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