「俺の子じゃない」と言われました

ともどーも

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十七話 駆け込み教会の秘密(後編)

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「支援する理由……ですか?」
「えぇ」

 確かにおかしい気がする。
 王家が支援するなら、貴族街の大聖堂ではないだろうか。後ろ暗い話だが、大聖堂の支持を得られれば、王の権力維持に大きく貢献するはずだ。
 王妃様が支援している……。
 女性を助けるため?

「駆け込み教会だから……」
「フフッ。表向きはね。女性や子供を守りたいって善良な気持ちで支援を受けているわ。でも本当は、秘密の脱出ルートの“出口”だからよ」
「「えっ!?」」

 背筋に悪寒が走った。
 そっ……そんな重要事項を……知って……。

「安心して。危害を加えるつもりはないわ。この件は王妃様も了承しているの。ソフィアさんには驚かされっぱなしよ。彼女の師匠、リーガル公爵も切れ者だけど、ソフィアさんも凄腕ね。この教会の秘密を見抜いて、王妃様に交渉を持ちかけるなんて、本当、豪胆」

 おっ、王妃様に?!
 どういう経緯でそうなったの……。
 怖くて想像できないわ。本当、ソフィア、凄すぎる。

「これから二人には王城に行ってもらうわ。ただ、二人の命を守るために、秘密ルートを通っているときは、目隠しと耳栓。それから睡眠薬を飲んで寝てもらうわ」
「王城?!」
「そう。王城で親子鑑定を受けてもらうの。研究所の所長がその場で鑑定してくれるから安心して。その後、リリーちゃんは王城の一室で審議会まで身を隠してもらうわ」

 えっ!?
 王城で身を隠す?

「あのっ!」
 混乱しながら、私は声を上げた。
「どういうことですか……」
 エドワードと離婚するだけなのに、王城で身を隠す必要があるの?
 そもそも、彼の嫌がらせが酷いので、教会から出られないはずじゃないの?
「ただの離婚騒動なのに、王城で匿ってもらうのはおかしいです。しかも、王家が秘匿にする脱出ルートを使うなんて、怪しすぎます。何か裏取引なり、面倒事に巻き込まれているのでは?」
「……そうね。これは単純な離婚騒動ではなくなってしまったわ」

 説明が欲しくて、私はじっとシスター・ハンナの目を見た。彼女も、じっと私の目を見ている。

「……はぁ……。伯爵とアリアちゃんとの親子鑑定書が不正に作成されたことは聞いてる?」
「はい」
「親子鑑定は王家が総力を挙げて取り組んでいる重要な事業よ。それに泥が塗られたの。国王様も王妃様もカンカンよ。犯人を見つけ出して厳罰に処すつもりみたい」

 ソフィアも『公的鑑定書偽造罪』で、犯人は貴族であっても禁固刑が適用される重罪だと言っていた。

「犯人の立場になって考えてみて。伯爵が行っている婚姻無効申請の手続きなら、文官を買収すれば簡単に受理は可能。でも、異議申立をされたら?」
「っ!!」
 審議会が執り行われる。
 そこで各々の証拠を開示し、互いの主張を競いあう。その時、親子鑑定書のことを調べられたらまずいことになるわ。
 ソフィアが『私の同意書は偽造されたもの』と言っていたから、同意書の偽造が証明されてしまうと、親子鑑定を執り行った検査員が不正をしたと露見することになる。
 そうなれば、王宮騎士団が調査に乗り出し、検査員に犯行を依頼した犯人に行き着くのは時間の問題だ。

 では、犯人はどうするか。
 考えるまでもない。

 審議会に私を参加させないよう、拉致監禁するだろう。いや、そんな面倒なことをせず、人目の無いところに連れ込んで――。

「っっ!!」
 背筋が凍る。

 殺される……。
 
 死体さえ見つからなければ、生きていようが死んでいようが結果は変わらない。審議会から逃げたと思われて婚姻無効が成立する。
 犯人が親子鑑定書を不正に作成したことは明るみに出ない。

「大丈夫です。俺が必ず守ります」
 オーウェンさんは私を安心させようと、膝をつき、目線を合わせて告げた。
 力強い声に安心する。

「王城なら守りも堅いし、王妃様の御好意で王宮騎士団から一人護衛を出してくださるわ。カイン・フィート。この上ない護衛でしょ?」
「えっ、カインが?」
 オーウェンさんが驚いた声を出した。

 カイン・フィート……。
 そんなに有名な方なのか……し……らない……。
 フィート……。
 フィート!?
  
『ソフィア・フィートです。平民街で探偵兼弁護士をしています』

 ソフィアの家族だ!

「こちらから護衛を出す代わりに、オーウェン君にお願いがあるの。ソフィアさんからは貴方の判断に任せると言われてるわ」
「何でしょう」
「親子鑑定が済んだら、貴方だけこちらに戻ってきて欲しいの。リリーちゃんがこの教会に居ると偽装するために。そして、審議会が開かれる日、ここから馬車に乗って王城に行ってもらうわ」

 シスター・ハンナの真剣な表情に、オーウェンさんが息を飲むのがわかった。

「……わかりました。リリーシアさん。カインは俺が最も信頼する男です。腕っぷしも申し分ありません。貴女やお嬢様が危険になることはないです」

 オーウェンさんがそこまで言う人なら問題無いだろうし、ソフィアの家族なのだから安心できるわ。
 でも、何か……胸騒ぎがする。

 私が教会に居ると偽装する。
 それによって、私とアリアの安全は保たれる。

 あれ?
 じゃぁ、教会はどうなるの?
 審議会の日、教会から王城に馬車で移動するオーウェンさんは……。

「おっ、オーウェンさん!」
「大丈夫です」

 襲撃されるのをわかって、馬車に乗ると言うことだ。いくら腕が立つとしても、多勢に無勢では危険だ。それをわかった上で『大丈夫』と、彼は笑って答えている。

「っ……」

 危険だ。
 そんなことしないでいい。
 自分の安全を考えて。
 ……そう言いたいのに、その言葉は喉に詰まって出てこない。

 無力感、卑劣な自己愛、罪悪感。
 彼を危険に晒す、迷惑をかけてしまう。そう思うのに、我が身可愛さで『止めて』と言えない卑劣な自分が憎らしい。
 そして、現状を打破する力も、知恵も、人脈も持ち合わせていない無力感に、憤りもある。

「ごめんなさい……」
 何の意味もない謝罪しかできなかった。

「リリーシアさん」
 オーウェンさんが優しく話しかけてきた。
「どうか謝らないでくれ。俺が好きで行うことで、貴女が気に病むことはないんだ。むしろ頼ってもらう方が嬉しい。俺たちは運命共同体のような状況じゃないか。貴女の無実が証明されれば、俺の濡れ衣もはれる。そのために証拠集めとして囮になり、敵を捕縛する必要があるんだ」
「オーウェンさん……」
「心配してくれてありがとう。大丈夫。俺は貴女の護衛騎士だ。主人を残して死ねない。それが騎士としての俺の誇りだ」

 彼はまっすぐ答えた。
 迷いのない目だ。
 あぁ……もう。
 失礼なことをしてしまったわ。
 心配に思っても、顔に出してはダメだった。だってそれでは、彼の強さを、誇りを信用してないと同義だからだ。

「俺を信じて」
「はい。貴方を信じます!」
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