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ダレン外伝 祖国⑩

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 『遺産分割』手続きは、王宮の財務省で手続きをする。宰相補佐なら、現男爵の代わりに手続きする事が出来るはずだ。

 長兄は友好関係も広いから、小飼の貴族……いや、従者でもいい、現男爵に接触させて『血統』の話を囁いてやれば、小心者は震え上がるはずた。
 ミアを排除する手軽で確実、自分の手は使わないやり方を吹き込めば、簡単に……。

 作戦はこうだろう……。
 長兄が男爵夫妻が亡くなった葬儀に『誰か』を潜り込ませたんだ。
 『血統』を盾にミアの子供、もしくは孫が後継者は自分だと言い掛かりをつけてくるだろう。貴族社会は『血統』を重視するから、そうなったら『成り上がり貴族』を排除したい勢力に叩き潰されるだろう。
 現男爵にそう囁いたはずだ。
 それと同時に、ミアを排除する方法を教えたはずだ。

 おそらく、長兄があらかじめ準備した金貨500枚を『弔慰金』として男爵に渡す。その際、絵画の売却証明書と遺産分割申請書にサインをさせる。

 あとはウィング商店で『現男爵の使い』として絵画を売り、現男爵が『遺産分割の金作で絵画を売った』と印象付けした。
 そして、金の出所を疑われないように『遺産分割』でミアに金を渡したと手続きをした。

 現男爵は指示通りミアに大金を渡し、『誰か』がディックス商会の関係者を酒場に呼び、現男爵と話をさせた。
 あとは金に目が眩んだディックス商会がミアを食い物にする。娼婦に向かない体つきだ。奴隷に堕として、他国で売られる。
 薬物実験か、魔法実験か……人間の尊厳を奪われ、死ぬよりも恐ろしい地獄を……。

 狡猾に相手を嵌める……。
 兄二人が手を組めば容易いだろう。
 俺の部屋に飾っていた絵画を使用したのも、兄達のメッセージの様に感じる。
 『弟にした仕打ちを忘れない。弟に代わって復讐してやる』
 そんな感じだろうか……。

 飾られた絵画を見ながら推理していて、不意に嫌な予感がした。
 こんな狡猾に先読みしていた兄達だ。計画が失敗しても、他の手を考えていたはずだ。
 
 俺は店を慌てて飛び出した。


×××


 家は、もぬけの殻だった。
 コップが割れている。
 おそらくミアが抵抗した跡だろう……。

 まずい……。
 強行手段に出たのか?
 いや、兄達の仕業なら雑過ぎる。

 コップが割れているくらいで、他は荒らされていない。ミアに渡していた財布もそのまま置いてある。
 ミアだけがいない。

 台所には朝食で使った皿が、洗って置いてあった。おそらくミアが洗ったものだ。食べかすが少し着いてる。
 昼に使ったであろう食器が無いことから、ミアは昼前に連れ出された可能性がある。
 
 かなり時間が経っているな……。
 何処に連れ去られた……。
 ダメだ、情報が無さすぎる!
 ……騎士団に協力を……いや、大事にすると兄さん達に捜査の目が向けられてしまう。

「……はぁ~……」
 長く息を吐き出し、自分の両頬を叩いた。
 実家に、レイザー侯爵家に行くことを決めた。


×××


「止まれ!」
 レイザー侯爵家の門番に止められた。
 本当はもっとマシな格好で訪れたかったが、時間が惜しかったので、あのまま来てしまった。
 不審者扱いされるだろうとは思っていたが、武器を向けられるとは思わなかった。
「アーサー様に取り次いでもらいたい。ダレンが来たと……」
「この無礼者!!」
 突然門番が大声を出した。
 兄の名前を出したことに激怒したのか?

「亡くなった弟様の名前を語るなど、不謹慎な!騎士団につまみ出してやる!!」

 はぁ?
 勘当されたときに死んだことにされたのか?

「弟様は三ヶ月前に亡くなっている!故人の名前を出すなど、貴様、何処の手の者だ!」

 ギルドに死亡届けを出された時か!

「あっ、あれは誤報だ」
「ぬけぬけと!」
「本当だ!総執事長のパペックを呼んでくれ。彼なら俺がダレンだとわかる」
「パペック様を呼び捨てに!この不埒ものが!」

 門番は頭に血が上っていて、全く話にならない。
 門番と押し問答をしていると、馬車がやって来た。

「邪魔だ、どけ!」
 門番に押し退けられたが、俺は馬車に向かって叫んだ。
「ミカエル兄さん!」
 馬車が敷地内に入ったとたん、急停車して馬車から男が降りてきた。
 分厚いメガネが特徴的な次男、ミカエル兄さんだった。

「ダ……レン?」
 驚愕したミカエル兄さんは、生まれたての子山羊の様にフラフラと歩み寄ってきた。
「ご無沙汰しております。ミカエル兄さん」
「ダレン……。ダ、レン」
 兄さんの瞳にはたくさんの涙が溜まっていた。
「し、死んだと、報告を、受けた」
「死にかけましたが、親切な家族に助けられました」
 震える手で腕や肩を触られた。
「ご心配をお掛けしてしまい、申し訳ありません」
「なっ、なっ、亡骸を、引き取りに、行ったが、崖下に落ちて回収できないと、言われて、それで……」
 兄さんの手に自分の手を重ねる。
「お手数をお掛けしてしまったんですね。すいません」
「生き……てる……」
「はい。運良く、五体満足に」
「……ダレン」
 震える体で兄に抱き締められた。
 レイザー侯爵家に、宰相補佐のミカエル兄さんに迷惑をかけた俺を、俺の生存を震えるほど喜んでくれるなんて……。

 兄さん、ごめんなさい。
 出来損ないの弟でごめんなさい。
 こんな俺を……心配してくれてありがとう。

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