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帰還・嬉野家
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しおりを挟む地元・兵庫県皇路に降り立って、駅ビルで買い物をして、あとは寄り道せず自宅へと戻る。
「ただいま」
小学生の次男はまだ帰っておらず、ひとり寝室にて仮眠を取った。
次男、長男、娘と順番に家族の帰宅する音と声が聞こえて、妻も帰ったところで夕飯にする。
前もって惣菜を買って帰ると伝えていたので、炊いていた米と共に食卓へと提供した。
食事中は当たり障りのない会話をして、子供たちがそれぞれ部屋に下がったり風呂に入ったりしているタイミングで妻に今回の旅の感想を告げた。
「葵を泣かせた奴をね、ぶっ飛ばして来たよ」
「はぁ⁉︎暴力したの⁉︎」
「違う違う、気分的に!捕まるかもしれないけど、させないように取引はして来たよ」
「ちょっと、夫が前科持ちとか私たち困るんだけど」
妻は浜田の顛末よりも、僕や家族の心配をしたらしい。
「……、……、みたいな、」
今日あったことを掻い摘んで教えて、自分がしたことは少しぼやかして表現した。
全て聞いた妻は「ふーん」と呟いて、
「ありがとう、葵のために」
と素早くハグして離れた。
「上がったよ~」
葵が風呂から出て、髪をタオルで拭きながら台所へ入って来る。
「……お邪魔だった?」
僕ら夫婦の雰囲気と距離感を察して、葵はそそくさとリビングへ逃げた。
「…葵、あのさ、その…困りごととか無いか?」
すれ違う割に親子仲は良い方だが、意識して少しわざとらしくなってしまう。
葵はキョトンとなって数秒、
「実は、初めての彼氏が出来たんだけどフラれてさぁ、しかもめっちゃ浮気されてたの」
とケラケラ笑う。
「…か、彼氏かぁ…知らなかったなぁ」
「わざわざ、お父さんに教えないよぉ…どしたの?」
家着のポケットの中には、浜田の名刺が入っている。
見せなくても良いのかな、葵が泣いたらどうしよう。
難しい顔でぐちゃぐちゃ考えていると、妻が
「葵が落ち込んでるって私が相談したから、お父さんがあれこれ気を揉んでたのよ」
と助けてくれた。
「そうなの?ありがとー」
「う、うん…その、なんか、元気無いって聞いてたから」
「それはもう大丈夫だよ、友達にも慰めてもらったし。ショックっていうか、今はむしろ腹立ってる」
「あ、そう……じゃあさ、その…気晴らしとか、どう?」
「うん?」とこちらへ振り返る葵に、ポケットから浜田の名刺を取り出して掲げる。
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