それはダメだよ秋斗くん!

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 名を呼ばれ、身を強張らせる。低めの声が突き刺さり、背中に汗が滲む。振り返ると、大男がこちらを見ていた。彼をまじまじと見る。もう一度、その大男の口から八雲くん、と自身の名が溢れた。
 こんな知り合い、いたかな。記憶を探るが手掛かりが掴めない。地元に残った就職組かな、と首を捻った。

「えっと……」
「八雲くんだよね。俺だよ、俺」

 新手の詐欺かと思い、顔を顰める。そんな僕の気配を察したのか、大男が慌てたような表情になる。

「秋斗だよ、隣に住んでる、木下秋斗!」

 彼がそう叫ぶ。僕は目を見開き、ポカンとする。秋斗くん? と聞き返すと、彼が静かに頷いた。ジィとこちらを見つめる瞳はどこかで見覚えがあるものに似ている。しかし、あまりの変わりようになんと言い返して良いか分からず、頬を引き攣らせた。

「あ……あぁ、秋斗くん……秋斗くん……?」

 記憶にある少年と、目の前にいる大男が一致せず乖離したまま宙を漂う。母が言っていたことは間違ってなかったのだな、と脳の隅でぼんやり考えた。

「八雲くん、帰ってきてたんだね」
「う……ん、夏休みで……」
「へぇ」

 日焼けした頬を緩ませ、秋斗と思わしき人物が微笑む。(僕は未だに、彼が秋斗だと信じきれないのだ)面影に幼い頃の秋斗がちらつくが、その太い首と勇ましい体格に眩暈がした。

「プリン買うの?」
「あ、そう。うん。秋斗くんも食べたいの? 奢ってあげようか?」
「え、本当?」

 目を細めると、幼く見えた。じゃあ、これ食べたいな。と棚からプリンの容器を取り、強請るように見つめる。未だに信じられない気持ちのままそれを受け取り、会計へ向かった。





「ありがとう、スッゲー嬉しい」

 帰路を共に歩む秋斗が、大袈裟に喜ぶ。プリン如きでそんな……と思いながら、隣にいる秋斗へ視線を投げる。
 並んだ彼は、大きかった。母が言っていた、倍の大きさというのは流石に盛りすぎであったが、しかし。見上げるほどには成長しているし、何より。
 ────体、大きいな。
 背の高さ云々ではなく、体が大きかった。ガッチリとした体型は、過去の秋斗とは比べものにならないし、僕とも比べ物にならない。
 自転車を押しながら、僕は無意識に彼の頭部を見つめていた。

「……秋斗くん、すごくおっきくなったね?」
「うん、中学に上がったらぐんぐん伸びた」

 そうなんだ、と相槌を打つと秋斗が八雲くんは変わらないね、と微笑む。指を伸ばし、毛先を摘んだ。
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