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41 俺VS坊主のおじさん
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「そうか、お前、昨日の破廉恥小僧だなっ⁉」
「そ、それは夢だよっ!!」
指を差されて、俺はとっさに否定した。
「夢だと? そんな訳あるかっ、俺はしっかり覚えとるわっ!」
「だから、それは夢なんだってばっ!」
「嘘をつくな」
「嘘じゃないってば! だっておじさん、あのときベッドから落ちて頭をゴチンってぶつけてたじゃない。だからきっと記憶が混乱してるんだ!」
「あ、バカッ、藤守…」
美濃が手に顔をうずめた。
「お前は馬鹿な奴だな、語るに落ちとるわ。いま、自分で昨夜ここに居たことを白状したじゃないか」
おじさんは、寝間着をたくし上げて、腹を見せてきた。
「これを見ろ。お前に乗っかかれてできた痣だ。よくもまぁ人の腹のうえで尻を丸出しに、ドッタンバッタン、あんな変態行為を~~」
おじさんのお腹がちょっとないくらいに赤黒く変色していて、俺はびっくりする。
「あなた、ちょっと落ち着いてっ」
ベッドを降りてこっちに来ようとするおじさんを、慌てておばさんが引きとめた。
「こらっ、離せ! なんだ、お前、もう帰ってきたのか? 飯はどうした?」
「それが、財布を忘れてしまって――」
「相変わらず鈍くさい。いいからさっさと買ってこい」
出入り口を指差して命じたおじさんは、そのまま今度はベッドで眠る哲也くんを指差した。
「相手はその男か? お前も男だろうが、それなのに――、おなじ男同士で、ああっ、気色の悪い」
「斉藤さん! お腹の痣のことは謝ります。でも、もうそのぐらいにしておいてください。それにここは病院ですよ? 騒ぐとほかのかたに迷惑がかかりますっ」
そうだぞ、そうだぞ! おじさんのバカッ! ここにはコワーイ看護師がいるんだぞ! 怒られるぞ、先生みたいに! 黙れってんだ! これ以上俺に失礼なこと云うんじゃないっ。俺、傷ついちゃったじゃないかっ。
「ほらっ、藤守、あやまりなさい」
美濃にぐっと頭を押さえつけられ、「ごめんなさい」と素直にあやまりはしたが、それと、ひどいことを云われたことはまた別だ。下唇をぐっと噛みしめておじさんを睨んだ俺は、「でも――」、とつけくわえた。
「……相手は哲也くんじゃないぞ」
「やかましいわっ。云い訳をするんじゃない! どこの男を呼びこんだとか、そんなもんどうでもいいわ、そもそも男同士で励むなと云っておるんだ。確かに結婚も大切だが、男同士で乳繰り合っておって子どもができんでどうする? そんな愚かなことをしていないで、まずは学生は学生らしくしっかり学校で勉強してしかるべき大人にならないと駄目じゃないか⁉ それからだ、あんなことをしていいのは! ちゃんと女性とだぞ! 子孫を繁栄させないとならないんだからな!」
「さ、斉藤さんっ!」
「あなたっ!」
美濃や奥さんが止めても一顧だにせず、おじさんのお小言はグチグチグチグチ、グチグチグチグチ……、とにかく長かった。さらにおじさんは美濃にも説教をし、奥さんに日ごろの駄目だしまでしはじめて――。
でも我慢して聞き流していられたのはそこまでだった。
「その子もだらしなのない。朝からずっと寝てばかりで。昨日の晩もふたりして遅くまで遊んでいたんだろう? なんだ? お前たちは高校生か? 最近のやつらは体だけが大きくなって、中身はホントにしょうもない」
おじさんに哲也くんのことを云われて、俺はカッとなる。
「おじさん! 哲也くんのこと悪く云うなっ! それ以上云ったら許さないからな!」
「なんの病気で入院してるかは知らんがな、そんなもん、どうせ不摂生が祟ってるんだ」
「こらっ、藤守!」
立ちあがった俺の腕を、美濃が掴んで揺さぶった。
「もう、先生邪魔するなよっ!」
俺は美濃の腕を叩き落としてつづけた。
「哲也くんはね、しょうもなくなんかないよ! 頭はいいし、運動だってできるんだ。ピアノもうまいし、みんなにやさしいんだぞっ! おじさんなんかよりもすっごくすっごく良いヤツなんだから! おじさん、なんにも知らないじゃん! だったら勝手なこと云う――もがっ、ふがっ」
「藤守、声がでかいから」
美濃に口を塞がれた。
(美濃~~っ、この手を放せ~~っ!)
「斉藤さん、違いますよ、この子は、――氏家くんは事故にあって手術をしたんですが、もう一週間以上も意識が戻らないんです。昨日までのあなたとおなじなんです」
力いっぱい引っ掻いても、美濃の大きな手は離れない。おじさんのほうも奥さんになだめられている。
「ほら、あなた、ご飯が冷めますよ? さっさと食べましょう? 私、いまからすぐ売店に行ってくるから、ねっ?」
「氏家くんは、決してあなたが云うようなだらしのない子じゃありませんから。それにこっちの藤守も生真面目ないい子です」
「そうよ? あなたも見てたでしょ? その子、ここでずっと真面目に勉強してばかりよ? 憶測でものを云っていてはいけないわよ」
「フンッ! あぁあぁ、甘いのっ。だいたい俺はお前たちのことまだ許していないぞ。明日帰ったらお前にも佳通にも話があるからな」
云われたおばさんの顔が蒼ざめた。
「そ、それは夢だよっ!!」
指を差されて、俺はとっさに否定した。
「夢だと? そんな訳あるかっ、俺はしっかり覚えとるわっ!」
「だから、それは夢なんだってばっ!」
「嘘をつくな」
「嘘じゃないってば! だっておじさん、あのときベッドから落ちて頭をゴチンってぶつけてたじゃない。だからきっと記憶が混乱してるんだ!」
「あ、バカッ、藤守…」
美濃が手に顔をうずめた。
「お前は馬鹿な奴だな、語るに落ちとるわ。いま、自分で昨夜ここに居たことを白状したじゃないか」
おじさんは、寝間着をたくし上げて、腹を見せてきた。
「これを見ろ。お前に乗っかかれてできた痣だ。よくもまぁ人の腹のうえで尻を丸出しに、ドッタンバッタン、あんな変態行為を~~」
おじさんのお腹がちょっとないくらいに赤黒く変色していて、俺はびっくりする。
「あなた、ちょっと落ち着いてっ」
ベッドを降りてこっちに来ようとするおじさんを、慌てておばさんが引きとめた。
「こらっ、離せ! なんだ、お前、もう帰ってきたのか? 飯はどうした?」
「それが、財布を忘れてしまって――」
「相変わらず鈍くさい。いいからさっさと買ってこい」
出入り口を指差して命じたおじさんは、そのまま今度はベッドで眠る哲也くんを指差した。
「相手はその男か? お前も男だろうが、それなのに――、おなじ男同士で、ああっ、気色の悪い」
「斉藤さん! お腹の痣のことは謝ります。でも、もうそのぐらいにしておいてください。それにここは病院ですよ? 騒ぐとほかのかたに迷惑がかかりますっ」
そうだぞ、そうだぞ! おじさんのバカッ! ここにはコワーイ看護師がいるんだぞ! 怒られるぞ、先生みたいに! 黙れってんだ! これ以上俺に失礼なこと云うんじゃないっ。俺、傷ついちゃったじゃないかっ。
「ほらっ、藤守、あやまりなさい」
美濃にぐっと頭を押さえつけられ、「ごめんなさい」と素直にあやまりはしたが、それと、ひどいことを云われたことはまた別だ。下唇をぐっと噛みしめておじさんを睨んだ俺は、「でも――」、とつけくわえた。
「……相手は哲也くんじゃないぞ」
「やかましいわっ。云い訳をするんじゃない! どこの男を呼びこんだとか、そんなもんどうでもいいわ、そもそも男同士で励むなと云っておるんだ。確かに結婚も大切だが、男同士で乳繰り合っておって子どもができんでどうする? そんな愚かなことをしていないで、まずは学生は学生らしくしっかり学校で勉強してしかるべき大人にならないと駄目じゃないか⁉ それからだ、あんなことをしていいのは! ちゃんと女性とだぞ! 子孫を繁栄させないとならないんだからな!」
「さ、斉藤さんっ!」
「あなたっ!」
美濃や奥さんが止めても一顧だにせず、おじさんのお小言はグチグチグチグチ、グチグチグチグチ……、とにかく長かった。さらにおじさんは美濃にも説教をし、奥さんに日ごろの駄目だしまでしはじめて――。
でも我慢して聞き流していられたのはそこまでだった。
「その子もだらしなのない。朝からずっと寝てばかりで。昨日の晩もふたりして遅くまで遊んでいたんだろう? なんだ? お前たちは高校生か? 最近のやつらは体だけが大きくなって、中身はホントにしょうもない」
おじさんに哲也くんのことを云われて、俺はカッとなる。
「おじさん! 哲也くんのこと悪く云うなっ! それ以上云ったら許さないからな!」
「なんの病気で入院してるかは知らんがな、そんなもん、どうせ不摂生が祟ってるんだ」
「こらっ、藤守!」
立ちあがった俺の腕を、美濃が掴んで揺さぶった。
「もう、先生邪魔するなよっ!」
俺は美濃の腕を叩き落としてつづけた。
「哲也くんはね、しょうもなくなんかないよ! 頭はいいし、運動だってできるんだ。ピアノもうまいし、みんなにやさしいんだぞっ! おじさんなんかよりもすっごくすっごく良いヤツなんだから! おじさん、なんにも知らないじゃん! だったら勝手なこと云う――もがっ、ふがっ」
「藤守、声がでかいから」
美濃に口を塞がれた。
(美濃~~っ、この手を放せ~~っ!)
「斉藤さん、違いますよ、この子は、――氏家くんは事故にあって手術をしたんですが、もう一週間以上も意識が戻らないんです。昨日までのあなたとおなじなんです」
力いっぱい引っ掻いても、美濃の大きな手は離れない。おじさんのほうも奥さんになだめられている。
「ほら、あなた、ご飯が冷めますよ? さっさと食べましょう? 私、いまからすぐ売店に行ってくるから、ねっ?」
「氏家くんは、決してあなたが云うようなだらしのない子じゃありませんから。それにこっちの藤守も生真面目ないい子です」
「そうよ? あなたも見てたでしょ? その子、ここでずっと真面目に勉強してばかりよ? 憶測でものを云っていてはいけないわよ」
「フンッ! あぁあぁ、甘いのっ。だいたい俺はお前たちのことまだ許していないぞ。明日帰ったらお前にも佳通にも話があるからな」
云われたおばさんの顔が蒼ざめた。
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