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会計事務所でのシーリアは働く女性の間で流行りだした膝丈のタイトスカートのツーピースで髪をアップにまとめて『出来る女』風を装っていた。
「格好だけは一人前だな」
「同じ中身でもパッケージが良いだけで商品は売れるんですよ。知らないんですか?所長」
所長の嫌味にも屈せぬ強さ。
最近では税務相談よりも学園時代の人脈を駆使して会社や個人事業者に銀行からの融資を取り付けるコンサルティング業務で顧客を増やしているシーリア。
口では貶しながらも所長は思わぬ拾い物をしたと内心はホクホクしている。
「でもさ、オマエ結婚すんだろ?
辞める時は顧客置いていけよ」
「嫌なこと思い出させないでくださいよ」
「大体その誰も幸せにならない結婚なんなの?!
皆さん馬鹿なの?」
セイラさんも御立腹の様子。
「ホントそれですよ」
「爺さん達、異常だよな。
そこまで家同士の繋がりにこだわるって怪しくないか?
なんか犯罪めいた秘密でも隠してんじゃねえの?」
「それね、私も思ったんですよ。
でも、今のところ何も見つからないんです」
「その相手の坊っちゃんも、好きな娘がいるんなら そっちと結婚すれば良くない?
そこまでして貴族にしがみつきたい気持ちがオレには全く理解できねぇ」
「そのとーり!
なんですけど、既得権益を手放したくないんでしょうね。
伯爵ってだけでそこそこ威張れるし」
「そもそも今時そんな人権侵害な遺言なんて無効にできないのかしら?」
セイラさんが心配そうに眉をしかめる。
「相手の母親が私のこと嫌ってるから、
『なんとか遺言無効の訴えをして息子さんを自由にして差し上げられないでしょうか?』
って、しおらしく言ってみたこともあるんですけど、
『できるならそうしたいのは山々なんだけど』
って、遺言が法的に不備の無いものだから撤回が難しいことと、もし不服を訴えたら遺言不履行で親戚が相続権の移行を虎視眈々と狙っているそうで・・・。
とにかく溺愛する息子に家と財産を継がせたい母親が引き下がるわけがないんです」
「オマエの周りはクズばっかりだな」
「それに所長も入ってますか?」
「殴るぞ」
「金が欲しけりゃ自分で稼げばいいじゃないか。
身分だってそんなにしがみついてまで守りたいもんなのか?」
「怖いんでしょうね。
ただでさえ民主化が進む昨今で、貴族制度自体が廃止される国が増えているでしょ?
自分達もいつ権力も生活基盤も失うことになるか分からないし。
漠然とした不安の中で、少しでも長く今の状態に留まっていたいんじゃないですか?
弱い人達なんですよ」
「フン!
オレは弱いヤツは嫌いだ。
弱いヤツはズルいからな」
「セイラさんがどうして所長なんかと恋人なのか理解できませんでしたけど、ちょっとだけ所長の良いところが分かった気がします」
「殺すぞ」
夕方、仕事を終えて事務所を後にしたシーリアは
『今日はルネが帰って来るのではないか』
という希望的観測を基に商店街で買い物をして帰ろうとウキウキしていた。
パンと~レバーペーストと~ルネはリンゴが好きだから~♪
鼻歌を歌いながら階段を降りたところでサイモンと出くわした。
シーリアは途端に自分の鼻根部に横ジワが寄るのを感じた。
「・・・・」
「・・・・」
「話があるんだけど」
「・・・・」
仕方なく公園のベンチに移動した。
「格好だけは一人前だな」
「同じ中身でもパッケージが良いだけで商品は売れるんですよ。知らないんですか?所長」
所長の嫌味にも屈せぬ強さ。
最近では税務相談よりも学園時代の人脈を駆使して会社や個人事業者に銀行からの融資を取り付けるコンサルティング業務で顧客を増やしているシーリア。
口では貶しながらも所長は思わぬ拾い物をしたと内心はホクホクしている。
「でもさ、オマエ結婚すんだろ?
辞める時は顧客置いていけよ」
「嫌なこと思い出させないでくださいよ」
「大体その誰も幸せにならない結婚なんなの?!
皆さん馬鹿なの?」
セイラさんも御立腹の様子。
「ホントそれですよ」
「爺さん達、異常だよな。
そこまで家同士の繋がりにこだわるって怪しくないか?
なんか犯罪めいた秘密でも隠してんじゃねえの?」
「それね、私も思ったんですよ。
でも、今のところ何も見つからないんです」
「その相手の坊っちゃんも、好きな娘がいるんなら そっちと結婚すれば良くない?
そこまでして貴族にしがみつきたい気持ちがオレには全く理解できねぇ」
「そのとーり!
なんですけど、既得権益を手放したくないんでしょうね。
伯爵ってだけでそこそこ威張れるし」
「そもそも今時そんな人権侵害な遺言なんて無効にできないのかしら?」
セイラさんが心配そうに眉をしかめる。
「相手の母親が私のこと嫌ってるから、
『なんとか遺言無効の訴えをして息子さんを自由にして差し上げられないでしょうか?』
って、しおらしく言ってみたこともあるんですけど、
『できるならそうしたいのは山々なんだけど』
って、遺言が法的に不備の無いものだから撤回が難しいことと、もし不服を訴えたら遺言不履行で親戚が相続権の移行を虎視眈々と狙っているそうで・・・。
とにかく溺愛する息子に家と財産を継がせたい母親が引き下がるわけがないんです」
「オマエの周りはクズばっかりだな」
「それに所長も入ってますか?」
「殴るぞ」
「金が欲しけりゃ自分で稼げばいいじゃないか。
身分だってそんなにしがみついてまで守りたいもんなのか?」
「怖いんでしょうね。
ただでさえ民主化が進む昨今で、貴族制度自体が廃止される国が増えているでしょ?
自分達もいつ権力も生活基盤も失うことになるか分からないし。
漠然とした不安の中で、少しでも長く今の状態に留まっていたいんじゃないですか?
弱い人達なんですよ」
「フン!
オレは弱いヤツは嫌いだ。
弱いヤツはズルいからな」
「セイラさんがどうして所長なんかと恋人なのか理解できませんでしたけど、ちょっとだけ所長の良いところが分かった気がします」
「殺すぞ」
夕方、仕事を終えて事務所を後にしたシーリアは
『今日はルネが帰って来るのではないか』
という希望的観測を基に商店街で買い物をして帰ろうとウキウキしていた。
パンと~レバーペーストと~ルネはリンゴが好きだから~♪
鼻歌を歌いながら階段を降りたところでサイモンと出くわした。
シーリアは途端に自分の鼻根部に横ジワが寄るのを感じた。
「・・・・」
「・・・・」
「話があるんだけど」
「・・・・」
仕方なく公園のベンチに移動した。
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