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15 嬉しくも寂しい
しおりを挟むニコはだんだん忙しくなってラウラが寝た後に帰ることが多くなった。
週末のpanicにも来ない日が増えていった。
それでも毎朝朝食と弁当を用意してくれる。
「もう朝食は作らなくていいわ」
「どうして?」
不安そうな顔でニコが問う。
「毎晩遅いのに無理しないで。若い子はしっかり寝なきゃダメよ。
あ、もちろん今まで通り勝手に入ってキッチンもシャワーも使ってね」
「ラウラと会えるの朝だけだから」
「毎日会えなくたって友情は消えないわよ」
「ラウラに相談したい時はどうするのさ」
「夜中でも叩き起こせばいいのよ」
「・・・ボク、ラウラが大好きだよ」
「私もニコが大好き。毎日会わなくたって、お互いを思う気持ちは変わらないわ」
そうして次第にお互いの存在は壁を通して時折ガダゴトと聞こえてくる物音だけで確認するような毎日になっていった。
とはいえ、たまに顔を合わせると相変わらずの人懐っこさで楽しいお喋りを披露してくれるニコだったが、『夜中にラウラを起こしに来る』なんてことも無く、二人の距離が確実に離れつつあるのをラウラは感じていた。
ラウラは前日に買ったクロワッサンとカフェオレで簡単な朝食を済ませて出勤し、昼はパン屋のサンドイッチというスタイルに戻った。
なんのことはない、ニコと出会う前の暮らしに戻っただけ。
それでも退勤後の真っ黒な空を見上げると、そのまま誰もいない部屋に帰る気にもなれずついついpanicに足が向いてしまう。
panicでメニューには無い軽食を出してもらって簡単に夕食を済ます。
テーブル席ではルネとヨハンが客の相手をしてチップをもらっている。
最近ではまた別の男の子が出入りしているようだ。
「最近ニコとはどうなの?」
「忙しいみたい。役ももらってるし。
それに舞台を見に来た映画関係者から声をかけられてオーディション受けるんだって」
「上手く行って欲しい?」
「当たり前じゃない」
「寂しくなるねぇ」
「・・・ま、最初から分かってたことよ」
そこにランディーが来て合流する。
仲直りしたわけではないが誕生日プレゼントの一件以来、なんとなくラウラとカリスの会話に参加することは許してやっている。
「お、今日も一人酒か?」
「オマエもだろ」
「10も若い男になんか本気で相手にされるわけないんだからさ。
最初っから気心の知れた幼馴染みの方にしとけばいいんだよ」
「アンタ私に『お前は無いわ~』って言ったじゃない。何回も」
「・・・そ、それはカードに書いたじゃん」
「カード?」
「誕生日に渡したでしょ?読んでないの?」
「ゴメン。どっかいっちゃった」
く~っ。何度も書き直してやっと渡したのにっっ!!
とカウンターを拳で叩くランディーを無視してカリスが言う。
「でもさ、幼馴染みってお互い知りすぎてて嫌じゃない?」
「うんうん、私達なんて赤ん坊の頃から一緒だからある意味全て知ってるものね」
「そうよー。小っさい頃なんか真っ裸で水遊びしてたもんね」
そう言うとカリスは右手の小指を突き出して、左手の親指と人差し指で第二間接あたりを摘まんでラウラの鼻先に持ってくると、
「ランディーのって、こんなだったよね~」
ラウラも負けじと同じポーズをして、
「そうそう、こんなだった、こんなだった」
ランディーは顔を真っ赤にして、
「そんなハズ無いだろう?!
オレだって成長して立派になったんだぞ!!」
とか
「これだから年増女は始末に終えねー!」
だのと騒いでいた。
その後も互いに罵倒しながらも三人は楽しそうに笑っていた。
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