僕と君を絆ぐもの2

はやしかわともえ

文字の大きさ
11 / 15
二話

ブレイクタイム

しおりを挟む
小林さんに案内されて入った部屋は、正に事務所だった。
事務所というテンプレートがあるとするならばこの部屋を指すんだろう。
周りを見渡すと、沢山の棚にファイルが並んでいる。大きなデスクも3つほどあった。

この部屋には僕たちの他には誰もいない。普段から誰もいないんだろうか。

「まぁ適当に座ってくれる?」

小林さんにそう促されて、僕達は椅子をあちこちの机から引っ張って、中央の机に寄せて座った。

小林さんはしばらく棚をゴソゴソやって、
冊子を取り出す。

「これ、なんだけど」

小林さんに手渡された冊子は確かに茶色く汚れていた。
相当読み込んであるらしく、紙がよれよれになっている。黄ばんでいる箇所も何箇所か見受けられた。
僕はぱらり、とページを捲った。やはり茶色く汚れてしまっている。

「これは読めないね」

「やっぱり無理かぁ」

小林さんが肩を落とす。
僕は諦めきれずにその次のページを捲った。

『美味しい玉子焼きの作り方』

辛うじて読める部分もある。
ふわふわな玉子焼きを焼くための大事なポイントが女性のイラストの横に書かれている。あれぇ?

僕はなんだか不思議な感覚に襲われていた。

「あのー、小林さん?」

一応聞いてみよう、そう思って僕は小林さんに声を掛けた。

「なんだい?加那くん」

「これってレシピっていうか、料理雑誌…ですよね?」

さっき師匠がどうとか言っていたような。
でもこのページ、昔どこかで見たことがある。気のせいにしてははっきり覚えているんだよな。

「そう、俺の心の師匠!というかばあちゃんなんだけどね」

それってつまり…。

「俺のばあちゃん、ちょっと有名な料理研究家なんだ。今もめちゃくちゃ元気で全国を飛び回ってる」

「じゃあおばあさんに頼んだらまたレシピを作ってもらえるんじゃないか?」

千尋がそう言うと、彼は大きな体を縮ませた。

「それができたら苦労しないっていうか…できないから困ってるんだけど」

「おばあさん、もしかして厳しい方なんですか?」

僕の言葉に小林さんは頷いてため息をついた。

「かなり。本を読みながらコーヒー飲んでたなんて知ったら…」

どうやら話は振り出しに戻ってしまったようだ。
今回ばかりは僕にもどうしようもできなさそうだ、なんて一瞬思ったのだけど。

「うーん」

「加那?どうした?」

車を走らせながら、千尋がそう聞いてくれた。千尋になら話してもいいかもしれない。

「ねえ千尋、僕の話、笑わないで聞いてくれる?」

隣の千尋にそう呟いたら彼は頷いてくれた。いつものことながら有り難い。

「あの雑誌、お母さんの店にあるかもしれなくてさ」

「それ、本当か?」

「うん。見覚えあるよ」

信号で千尋が車を緩やかに停める。

「なら里奈さんとこ、行ってみるか」

「でも小林さんはおばあさんにちゃんと理由を話すべきだと思う」

「それはそうだな」

僕はお母さんに電話を掛けて、これから行く旨を伝えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

天使から美形へと成長した幼馴染から、放課後の美術室に呼ばれたら

たけむら
BL
美形で天才肌の幼馴染✕ちょっと鈍感な高校生 海野想は、保育園の頃からの幼馴染である、朝川唯斗と同じ高校に進学した。かつて天使のような可愛さを持っていた唯斗は、立派な美形へと変貌し、今は絵の勉強を進めている。 そんなある日、数学の補習を終えた想が唯斗を美術室へと迎えに行くと、唯斗はひどく驚いた顔をしていて…? ※1話から4話までは別タイトルでpixivに掲載しております。続きも書きたくなったので、ゆっくりではありますが更新していきますね。 ※第4話の冒頭が消えておりましたので直しました。

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん

315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。  が、案の定…  対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。  そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…  三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。  そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…   表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...