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30階
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「ぱぱ、大丈夫?」
「グギュル」
ユキと蜘蛛の王はダンジョンツリーの30階に太い鎖で捕らえられていた。ユキの母親を人質に取られており、蜘蛛たちはペテルギウスに手が出せなかった。それどころか悪事にまで手を染めさせられた。王はそれが悔しくてたまらなかった。だが、まだ娘のユキがいた。
だから暴走せずに済んだのだ。
だが王には分からない。何故、このペテルギウスという人間がここに未だに生きているのかを。
この前、この男を確実に仕留めた。だがこうしてやつは生きていて、また悪事を働いているのだ。
許せない、という思いとやつに対する純粋な恐怖が入り混じっている。
その恐怖を認めるのが王には苦痛だった。
たった一人の人間が怖いなどと言えるわけがない。一族の王としてそんなことは許されないのだ。
「フフフ、どうやらパーティが始まるようだね」
ペテルギウスはヒメリたちの動向に、随分早くから気が付いていた。だが、彼は何もせずそれを見逃していたのだ。
「さあ、ユキと言ったね?君の出番だ」
「ギュルル」
王は巨大な体を揺すろうとした。娘のユキにまで手出しをされるのはさすがに許せなかった。体に刺さっている楔が更に深く刺さり、激痛が走るがそんなことに構っていられなかった。青い体液がどろどろとこぼれ落ちる。
「たかが昆虫にも親の情念があるとはね」
「ギュルルルル」
ペテルギウスは身動きの取れないユキを担ぎ上げる。王はひたすら暴れた。
✣✣✣
ヒメリたちは30階を目指して階段を上っていた。
「く、許さぬ。ペテルギウス!!妾の仲間を侮辱したこと必ず後悔させてやる!」
25階から上は更に強力なモンスターが待ち構えていた。だが、今のテレスは無敵に近い。
彼女は本気で怒っていた。そんな彼女の怒りはモンスターたちにも伝わるらしい。彼らは自らは近づいて来なかった。テレスの怒りがそれほどまでに凄まじかったということだ。
一行は階段を上り、いよいよ29階のフロアに辿り着いた瞬間だった。
ペテルギウスの顔が現れる。
「ようやく来たのかい?クロード!おや、小鳥さんも無事だったんだね?何よりだ!」
わざとらしいペテルギウスの口調に、ぎりり、とテレスが拳をきつく握り締める。
「貴様は絶対に許さぬ!!」
ペテルギウスは高笑いをしている。
「許さない?我は誰よりも偉いのだ!
何をしてもいい!それが我の権利である!さあ、この子を君たちは救えるのかな?」
ペテルギウスの顔が消える。そして現れたのは泣いているユキだった。彼女の後ろに半透明の大型の蜘蛛がいる。ユキは大きな太刀を構えている。その蜘蛛に操られているのだろうか。
「ユキ!!」
ヒメリは叫んでいた。
「ヒメリ、ユキ、もう化物なの。殺して」
「何を言ってるんだ!そんなこと出来るわけ!」
ぶん、と大きな太刀が振り回される。その容赦のない太刀筋に一気に緊張感が増す。
「ユキ、もうユキじゃないから」
「なんてことだい」
ドレイアが呟く。
「ユキ、安心するんだ。俺たちが必ず助ける」
クロードが諭すように言うがユキは首を横に振った。
「無理だよ。ユキ、おかしいから」
ユキがぶん、ぶんと太刀を振り回す。ヒメリたちは後退を余儀なくされた。むやみやたらに彼女を傷付けられない。
「ヒメリよ、妾は後ろを狙う」
テレスの言葉にヒメリは頷いた。やはり、後ろにいる蜘蛛が怪しい。
だがその為にはユキの攻撃範囲から突破しなければならない。
「ヒメリよ、ユキの周りに防御壁を張れるか?」
テレスがどうするつもりなのかは分からない。だがヒメリは彼女を信じている。
「ユキの間合いの範囲なので、一瞬しか張れません」
「よい。妾に任せろ」
二人は頷きあった。この間もユキの攻撃は止まない。だが、やるしかないのだ。
ヒメリとテレスは同時に動いた。
ヒメリがユキの周りにだけ防御壁を張る。テレスが全力の跳躍でユキの後ろ側に回り込む。
「いけ!」
テレスの魔法攻撃が半透明の蜘蛛に直撃する。
その蜘蛛からもデスカットの結晶がこぼれ落ちた。ユキがその場に座り込み、荒く呼吸している。ヒメリはユキを抱きしめた。
「ユキ!良かった!!」
「ヒメリ、ぱぱが捕まってる。ままも」
「分かった。早く助けに行こう」
蜘蛛たちは人質を取られていたからこそ、ペテルギウスの言いなりになっていたのだ。
ユキがよろよろ立ち上がる。先程の戦いでかなり消耗したはずだ。
「ユキ、大丈夫か?」
クロードの問い掛けにユキは笑う。
「皆、また助けてくれた」
一行は向かう、30階へ。
「グギュル」
ユキと蜘蛛の王はダンジョンツリーの30階に太い鎖で捕らえられていた。ユキの母親を人質に取られており、蜘蛛たちはペテルギウスに手が出せなかった。それどころか悪事にまで手を染めさせられた。王はそれが悔しくてたまらなかった。だが、まだ娘のユキがいた。
だから暴走せずに済んだのだ。
だが王には分からない。何故、このペテルギウスという人間がここに未だに生きているのかを。
この前、この男を確実に仕留めた。だがこうしてやつは生きていて、また悪事を働いているのだ。
許せない、という思いとやつに対する純粋な恐怖が入り混じっている。
その恐怖を認めるのが王には苦痛だった。
たった一人の人間が怖いなどと言えるわけがない。一族の王としてそんなことは許されないのだ。
「フフフ、どうやらパーティが始まるようだね」
ペテルギウスはヒメリたちの動向に、随分早くから気が付いていた。だが、彼は何もせずそれを見逃していたのだ。
「さあ、ユキと言ったね?君の出番だ」
「ギュルル」
王は巨大な体を揺すろうとした。娘のユキにまで手出しをされるのはさすがに許せなかった。体に刺さっている楔が更に深く刺さり、激痛が走るがそんなことに構っていられなかった。青い体液がどろどろとこぼれ落ちる。
「たかが昆虫にも親の情念があるとはね」
「ギュルルルル」
ペテルギウスは身動きの取れないユキを担ぎ上げる。王はひたすら暴れた。
✣✣✣
ヒメリたちは30階を目指して階段を上っていた。
「く、許さぬ。ペテルギウス!!妾の仲間を侮辱したこと必ず後悔させてやる!」
25階から上は更に強力なモンスターが待ち構えていた。だが、今のテレスは無敵に近い。
彼女は本気で怒っていた。そんな彼女の怒りはモンスターたちにも伝わるらしい。彼らは自らは近づいて来なかった。テレスの怒りがそれほどまでに凄まじかったということだ。
一行は階段を上り、いよいよ29階のフロアに辿り着いた瞬間だった。
ペテルギウスの顔が現れる。
「ようやく来たのかい?クロード!おや、小鳥さんも無事だったんだね?何よりだ!」
わざとらしいペテルギウスの口調に、ぎりり、とテレスが拳をきつく握り締める。
「貴様は絶対に許さぬ!!」
ペテルギウスは高笑いをしている。
「許さない?我は誰よりも偉いのだ!
何をしてもいい!それが我の権利である!さあ、この子を君たちは救えるのかな?」
ペテルギウスの顔が消える。そして現れたのは泣いているユキだった。彼女の後ろに半透明の大型の蜘蛛がいる。ユキは大きな太刀を構えている。その蜘蛛に操られているのだろうか。
「ユキ!!」
ヒメリは叫んでいた。
「ヒメリ、ユキ、もう化物なの。殺して」
「何を言ってるんだ!そんなこと出来るわけ!」
ぶん、と大きな太刀が振り回される。その容赦のない太刀筋に一気に緊張感が増す。
「ユキ、もうユキじゃないから」
「なんてことだい」
ドレイアが呟く。
「ユキ、安心するんだ。俺たちが必ず助ける」
クロードが諭すように言うがユキは首を横に振った。
「無理だよ。ユキ、おかしいから」
ユキがぶん、ぶんと太刀を振り回す。ヒメリたちは後退を余儀なくされた。むやみやたらに彼女を傷付けられない。
「ヒメリよ、妾は後ろを狙う」
テレスの言葉にヒメリは頷いた。やはり、後ろにいる蜘蛛が怪しい。
だがその為にはユキの攻撃範囲から突破しなければならない。
「ヒメリよ、ユキの周りに防御壁を張れるか?」
テレスがどうするつもりなのかは分からない。だがヒメリは彼女を信じている。
「ユキの間合いの範囲なので、一瞬しか張れません」
「よい。妾に任せろ」
二人は頷きあった。この間もユキの攻撃は止まない。だが、やるしかないのだ。
ヒメリとテレスは同時に動いた。
ヒメリがユキの周りにだけ防御壁を張る。テレスが全力の跳躍でユキの後ろ側に回り込む。
「いけ!」
テレスの魔法攻撃が半透明の蜘蛛に直撃する。
その蜘蛛からもデスカットの結晶がこぼれ落ちた。ユキがその場に座り込み、荒く呼吸している。ヒメリはユキを抱きしめた。
「ユキ!良かった!!」
「ヒメリ、ぱぱが捕まってる。ままも」
「分かった。早く助けに行こう」
蜘蛛たちは人質を取られていたからこそ、ペテルギウスの言いなりになっていたのだ。
ユキがよろよろ立ち上がる。先程の戦いでかなり消耗したはずだ。
「ユキ、大丈夫か?」
クロードの問い掛けにユキは笑う。
「皆、また助けてくれた」
一行は向かう、30階へ。
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