上 下
67 / 85

30階

しおりを挟む
「ぱぱ、大丈夫?」

「グギュル」

ユキと蜘蛛の王はダンジョンツリーの30階に太い鎖で捕らえられていた。ユキの母親を人質に取られており、蜘蛛たちはペテルギウスに手が出せなかった。それどころか悪事にまで手を染めさせられた。王はそれが悔しくてたまらなかった。だが、まだ娘のユキがいた。
だから暴走せずに済んだのだ。
だが王には分からない。何故、このペテルギウスという人間がここに未だに生きているのかを。
この前、この男を確実に仕留めた。だがこうしてやつは生きていて、また悪事を働いているのだ。
許せない、という思いとやつに対する純粋な恐怖が入り混じっている。
その恐怖を認めるのが王には苦痛だった。
たった一人の人間が怖いなどと言えるわけがない。一族の王としてそんなことは許されないのだ。

「フフフ、どうやらパーティが始まるようだね」

ペテルギウスはヒメリたちの動向に、随分早くから気が付いていた。だが、彼は何もせずそれを見逃していたのだ。

「さあ、ユキと言ったね?君の出番だ」

「ギュルル」

王は巨大な体を揺すろうとした。娘のユキにまで手出しをされるのはさすがに許せなかった。体に刺さっている楔が更に深く刺さり、激痛が走るがそんなことに構っていられなかった。青い体液がどろどろとこぼれ落ちる。

「たかが昆虫にも親の情念があるとはね」

「ギュルルルル」

ペテルギウスは身動きの取れないユキを担ぎ上げる。王はひたすら暴れた。

✣✣✣

ヒメリたちは30階を目指して階段を上っていた。

「く、許さぬ。ペテルギウス!!妾の仲間を侮辱したこと必ず後悔させてやる!」

25階から上は更に強力なモンスターが待ち構えていた。だが、今のテレスは無敵に近い。
彼女は本気で怒っていた。そんな彼女の怒りはモンスターたちにも伝わるらしい。彼らは自らは近づいて来なかった。テレスの怒りがそれほどまでに凄まじかったということだ。

一行は階段を上り、いよいよ29階のフロアに辿り着いた瞬間だった。

ペテルギウスの顔が現れる。

「ようやく来たのかい?クロード!おや、小鳥さんも無事だったんだね?何よりだ!」

わざとらしいペテルギウスの口調に、ぎりり、とテレスが拳をきつく握り締める。

「貴様は絶対に許さぬ!!」

ペテルギウスは高笑いをしている。

「許さない?我は誰よりも偉いのだ!
何をしてもいい!それが我の権利である!さあ、この子を君たちは救えるのかな?」

ペテルギウスの顔が消える。そして現れたのは泣いているユキだった。彼女の後ろに半透明の大型の蜘蛛がいる。ユキは大きな太刀を構えている。その蜘蛛に操られているのだろうか。

「ユキ!!」

ヒメリは叫んでいた。

「ヒメリ、ユキ、もう化物なの。殺して」

「何を言ってるんだ!そんなこと出来るわけ!」

ぶん、と大きな太刀が振り回される。その容赦のない太刀筋に一気に緊張感が増す。

「ユキ、もうユキじゃないから」

「なんてことだい」

ドレイアが呟く。

「ユキ、安心するんだ。俺たちが必ず助ける」

クロードが諭すように言うがユキは首を横に振った。

「無理だよ。ユキ、おかしいから」

ユキがぶん、ぶんと太刀を振り回す。ヒメリたちは後退を余儀なくされた。むやみやたらに彼女を傷付けられない。

「ヒメリよ、妾は後ろを狙う」

テレスの言葉にヒメリは頷いた。やはり、後ろにいる蜘蛛が怪しい。
だがその為にはユキの攻撃範囲から突破しなければならない。

「ヒメリよ、ユキの周りに防御壁を張れるか?」

テレスがどうするつもりなのかは分からない。だがヒメリは彼女を信じている。

「ユキの間合いの範囲なので、一瞬しか張れません」

「よい。妾に任せろ」

二人は頷きあった。この間もユキの攻撃は止まない。だが、やるしかないのだ。

ヒメリとテレスは同時に動いた。
ヒメリがユキの周りにだけ防御壁を張る。テレスが全力の跳躍でユキの後ろ側に回り込む。

「いけ!」

テレスの魔法攻撃が半透明の蜘蛛に直撃する。
その蜘蛛からもデスカットの結晶がこぼれ落ちた。ユキがその場に座り込み、荒く呼吸している。ヒメリはユキを抱きしめた。

「ユキ!良かった!!」

「ヒメリ、ぱぱが捕まってる。ままも」

「分かった。早く助けに行こう」

蜘蛛たちは人質を取られていたからこそ、ペテルギウスの言いなりになっていたのだ。
ユキがよろよろ立ち上がる。先程の戦いでかなり消耗したはずだ。

「ユキ、大丈夫か?」

クロードの問い掛けにユキは笑う。

「皆、また助けてくれた」

一行は向かう、30階へ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

イケメン猫ズと選ばれしお豆腐メンタル姫騎士のまったりな日常

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:3

嫁かと思っていたらスパダリだったんだが…

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:21

小1の時に担任のBBAから受けた屈辱

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

乙女ゲーム関連 短編集

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,363pt お気に入り:156

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:18,406pt お気に入り:3,526

【完結】私がいなくなれば、あなたにも わかるでしょう

nao
恋愛 / 完結 24h.ポイント:13,177pt お気に入り:932

男の娘、愛doll始めました!

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:200,945pt お気に入り:12,078

処理中です...