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絶望の日々

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僕は胸倉を掴まれている。
その周りには数人の男子が、掴まれている僕を見て笑っている。全員、同学年のやつらだ。
僕をずっと苛めてくる。
学校でも外でもお構いなしだ。
他の人達は見ないふりをしている。

「こっち見てんじゃねーよ、きめぇな!!」

ガッという音がして僕は後ろの壁に突き飛ばされていた。
頬を殴られたのだと、やっと理解するにはもう遅くて、そのまま顔に蹴りをいれられる。血が僕の顔に飛び散る。痛い。痛いよ。

(あぁ…なんで僕は生きてるんだろう。
愛斗…)

気が付いた時には僕は冷たい地面の上で倒れていた。もうあいつらはいない。
それにホッとしてしまう自分が情けない。
さっき蹴られた時に出た鼻血はもう止まっているようだ。 
痛む体をおして僕はなんとか立ち上がった。ずきり、と肋が痛む。
ここのところずっと痛い。

なんで痛いんだろう、わからない。
骨が折れてるのかな。
痛みが治まるのを仕方なく座って待つ。

僕にはそうする事しか出来ない。
この事は誰にも知られちゃいけない。
病院なんて、絶対に行きたくない。行ったらなんで痛いのか理由を探られる。
それをあいつらに知られたらどうなるか。

(家に帰りたくないな)

家に帰っても、僕の居場所はない。
僕の居場所が家にもなくなったのはいつからだっただろうか。
気が付いたら僕はいないことになっていた。家族じゃないことになっていた。

なんでこうなったんだろう。
僕はなにかしてしまったんだろうか。
皆から嫌われてしまうなにかを。

(僕はこのまま生きていていいのかな)

「むぎ!!」

ぼうっと日が暮れる中、1人座っていたら声を掛けられた。
こちらに向かって走ってくるのは愛斗だ。

「むぎ!大丈夫か!!」

「愛斗」

僕は泣いてしまっていた。
彼は僕の親友の愛斗だ。
唯一、この世界で僕が生きていることを赦してくれる人だ。

「むぎ、ちょっと待ってろ」

僕の顔を見て愛斗が焦ったような声を出す。僕たちは橋の下にいる。だから近くに大きな川が流れている。
愛斗は何か悪態をつきながらハンカチを川の水で濡らしている。

「ごめんな、むぎ。川の水、綺麗だと思うから」

そう言って愛斗は濡れたハンカチで僕の顔を優しく拭いてくれた。血がよほど出ていたのだと僕はそれで悟った。

「くそっ、むぎが何したってんだよ!」

愛斗がそう言ってぎり、と歯を食いしばった。

「大丈夫だよ、愛斗」

「大丈夫なわけあるか!!お前、そのうちそいつらに殺されちまうよ!!」

「そうか」

僕が死んだら、誰か僕の為に悲しんでくれるかなぁ。そうぼーっとしながら思ったら、愛斗に両肩を掴まれた。

「そうか、じゃねーだろ!
死んでいいやつなんてこの世にはいないんだ!くそっ!」

「愛斗…でも」

「むぎ、俺と逃げよう。
ここにいちゃいけない。こんな町にいちゃ!
俺さ、北海道にじいちゃんが住んでるんだ。そこで二人で暮らそう!
じいちゃん、金持ちだし絶対大丈夫だから!」

「愛斗…」

僕の目の前が霞んでくる。愛斗もボロボロ涙を流していた。

(綺麗だな)

愛斗の涙が僕の心をじんわりと癒やしてくれた。愛斗はいつも綺麗だ。
僕はそう言ってくれた愛斗に頷いてみせた。

「うん、逃げよう。二人で」

愛斗に優しく抱き締められる。

「俺が絶対むぎを守る。約束するから」

愛斗は僕の目を見てはっきりこう言ってくれた。
僕はそれでとても幸せな気持ちになった。

愛斗は僕を愛してくれる。そして僕も愛斗を愛している。
これからはずっと愛斗と一緒にいられるんだ。
それだけで僕は生きようと思えたんだ。
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