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本編
伯爵令妹は思いを王弟殿下に伝えたくて……
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「うふふふ。訊くべきことは訊けて満足よ? それでも最後にこれを訊くわ。この後、一体どうなるのかしら?」
「そうだな。ミラトーウス家もキーウダガス家も奪爵され、諸々の訴追があるわけだが……残念だけど彼らの命はそこまで長くない」
「前ビルゼニウス公爵も?」
「ああ。残酷な刑罰にはならないが毒杯を賜ることは間違いないであろう。前ビルゼニウス公爵の後妻以下の一族、一派、前カーサドルアーカ侯爵以下の一族、一派はほぼ全員斬首であろう」
「そうなのね。積極的な関与が認められなかったのよね? 前ビルゼニウス公爵は。でも、家族を止められなかった罪は重いのね。残念なことだわ」
リリアナが最初に訊きたかった事は全て訊けた。だから満足している。そして、最後に気になるのは今後のことであろう。
ということで捕縛された面々の今後の話がバルガスからされるが結果としては大変厳しいものである。
前ビルゼニウス公爵は違法行為への積極的な関与は認められなかった。だが、それ以外の者は積極的な関与が認められた。ただ凡愚な後妻、嫡男、嫡孫を排出した結果責任は重たい。それでも毒杯で済むのだから、まだ良い法である。
「まあ。そういうことだな、非常に残念な話だが。処刑が始まるのは3日後。そして、処刑が終わるのそれから4日間も無いだろう。全て終わる……。その時にリリアナ? 時間をとってくれるか? 俺の思いを告げたいんだ……」
「待って! お兄様! お父様! お母様! ちょっとバルガスと2人きりになるために外に出たいんだけれどもよろしいかしら?」
バルガスは全てが終わる頃に思いを告げるつもりでいた……。でも、リリアナはそんなことはどうでもよかった。いや、どうでもよくはないが、後日というのが許せなかった。折角、長年の憂いが消え、更には思いを自覚したリリアナ。この熱が自身の心の奥底で迸っている今だからこそ思いを伝えたかった。そして、バルガスの本心を知りたいのだ。だから、そのための足がかりを作るべく、シエンタス、シュタロウス、ファティシエンヌにお伺いを立てる。
「行ってきなさい。リリー。バルガス! 可愛い妹の思いを全部受け止めなよ!」
「うん。リリー。しっかりとな!」
「あら? いいんじゃないかしら? 思いが通じ合うのは早いほうが良くってよ!」
シエンタス、シュタロウス、ファティシエンヌの賛同を得たリリアナ。そこからの動きは早かった。席から立ち上がりバルガスの元へとスタスタと近寄るリリアナ。
「バルガス! 行くわよ!」
「うん? ああ、分かった。行こうか」
そしてバルガスの腕をむんずと掴み、立ち上がらせる。その勢いで応接間を出ていく2人。
「庭へ行きましょう? バルガス」
「ああ。そうだな。まだ篝火は消えてなかったな」
こうしてリリアナはバルガスの手を掴んだまま、庭へと突き進んでいく。バルガスはリリアナの手の柔らかさを堪能しながら、ついていくことにした。
「ええ。そうなの。これはここで働いている使用人さんのおかげよね。いつかは私も篝火のある庭とおさらばえなのよね」
「ああ、そうだな。その時はそう遠くないんだろうな」
「ねえ? 庭に着いたら肩車してくれるかしら?」
「何でまた?」
「子どもの頃とは違った目線になれるかも知れないでしょう?」
「まあ構わないが?」
「じゃあ約束ね! 今から走るから私のところへついてきてよ!」
そう。ハルブーノ家の王都の屋敷の庭は夜になると篝火が点くのだ。そして、それはハルブーノ家の者が眠りに就くまでは煌々と灯され続けるのだ。リリアナにとっては思い入れが深い。
突如としてリリアナから突拍子もない要望をされるバルガス。一瞬、怪訝な表情になるが、リリアナの思いを知り、それを承諾する。
そして突如、バルガスから手を離して、リリアナは走り始めた。そんなリリアナにやれやれと思いながらも、ゆっくりと走る。あくまでもリリアナの速さに合わせるように。追い越さないように。
一体どれだけ走ったか……。いや、さほど走ったわけではないのだ。でも派手なドレスを身に纏ったリリアナにとっては激しい運動には違いない。
ゼェ。ゼェ。ハァ。ハァと庭に着いた瞬間に息を切らし、呼吸を整える為に喘ぐリリアナ。
そして平然と追いついたバルガスに聞こえたリリアナの喘ぐ音。それが無性に艶かしくて仕方ないのだ。バルガスから見れば、自分に向けて股を肩幅より広げて尻を突き出した状態。そんな姿を見せられて理性を失わない男がいるのであろうか? だが、そのなけなしの理性を使って、バルガスは音もなくリリアナの左後ろに近づく。そして……。
「キャッ!」
「流石にそのドレスでは完全なる肩車は厳しいがな? でも、右の肩だけで肩車をすることは不可能ではないからな!」
「ちょっと! バルガス! びっくりするじゃない! するなら言ってよ!」
「ふん! 俺に無防備な姿を晒すのが悪いんだ」
「もう! ああ! でも、子どもの頃とはぜんぜん違うわね!」
むんずとリリアナの腰を両手で掴み持ち上げる。そして、リリアナの尻を右肩に乗せて、片方の肩での肩車を完成させたバルガス。予告なしの動作にリリアナは猛然と抗議するが、バルガスとしては『俺は悪くない』の一点張りだ。それでもリリアナは久しぶりにバルガスの肩の上から見える景色に感動していた。
「ねえ? バルガス? 4つの頃の話……。今でも有効かしら?」
「4つの頃の話? 何のことだ?」
「もう! 今日は散々に真似したじゃない! あれよ! 『わたち! バルおじちゃんのおよめさんになりゅー!』よ!」
「ああ。あれか……。もし有効でないとしたらリリアナはどうするつもりだったんだ? まあ、有効か無効かで言ったら有効なんだがな……」
バルガスに今日は何度も掘り出された黒歴史。それを引き合いに出して、バルガスとの約束を語るリリアナ。バルガスはリリアナの柔らかさを感じながら、冷静さを保つために敢えてぶっきらぼうな姿勢をとる。
「私、バルガスのお嫁さんになりたいわ! 何度も何度も思っていたわ。本当はあの馬鹿との婚約なんて……、結婚なんて……したくなかったわ! でも、本当にあの馬鹿と結婚するしかないってなった時は……、その結婚式の前日にバルガスと逃げることだって考えていたわ! 10歳のあの日も、何度も何度も庭で愚痴を聞いてくれた日も。そして、今日のパーティも! バルガスの大きな背中が……私は……私は……大好きなの! だから……、だから……、私は……バルガスと結婚したいの!」
「……いやぁ。まいったな……。リリアナ……。四阿に着いたら下ろしていいか?」
「ええ……。バルガスの肩車に満足できたから、その時に下りるわ」
肩の上からのリリアナの告白を聞いて、ちょっと複雑な心境になったバルガス。それもそのはず。その思いは本来ならば……。空いた左手で頭を掻きながらリリアナに肩車から降りてもらうことを提案するバルガス。それにリリアナは承諾した。
バルガスはゆっくりと四阿へと歩みを進め、その扉を左手で開ける。四阿の中にある長椅子。そこへの道のり、歩幅、歩数。それはたとえ暗くとも分かる。それは何故か。何度も何度も訪れた場所だから。
そして、バルガスはリリアナの膝の裏に左腕を当て、腰に右腕を回し、ゆっくりとリリアナをお姫様抱っこの状態にする。そして、徐にリリアナを長椅子へと座らせた。
両腕をそっとリリアナから離したバルガスは四阿の燭台のあるところに向かい、燭台の蓋を外し、火魔石で燭台に火を灯す。それを残り3つの燭台にも同様に繰り返す。
炎から出る淡くも暖かな光により、明るくなった四阿。バルガスは長椅子に座ったリリアナの元へと向かい、リリアナの左隣へと何も言わずに座った。
そして、バルガスはリリアナの顎を右手で触り、クイッと自身の方向へ向けた……。
「そうだな。ミラトーウス家もキーウダガス家も奪爵され、諸々の訴追があるわけだが……残念だけど彼らの命はそこまで長くない」
「前ビルゼニウス公爵も?」
「ああ。残酷な刑罰にはならないが毒杯を賜ることは間違いないであろう。前ビルゼニウス公爵の後妻以下の一族、一派、前カーサドルアーカ侯爵以下の一族、一派はほぼ全員斬首であろう」
「そうなのね。積極的な関与が認められなかったのよね? 前ビルゼニウス公爵は。でも、家族を止められなかった罪は重いのね。残念なことだわ」
リリアナが最初に訊きたかった事は全て訊けた。だから満足している。そして、最後に気になるのは今後のことであろう。
ということで捕縛された面々の今後の話がバルガスからされるが結果としては大変厳しいものである。
前ビルゼニウス公爵は違法行為への積極的な関与は認められなかった。だが、それ以外の者は積極的な関与が認められた。ただ凡愚な後妻、嫡男、嫡孫を排出した結果責任は重たい。それでも毒杯で済むのだから、まだ良い法である。
「まあ。そういうことだな、非常に残念な話だが。処刑が始まるのは3日後。そして、処刑が終わるのそれから4日間も無いだろう。全て終わる……。その時にリリアナ? 時間をとってくれるか? 俺の思いを告げたいんだ……」
「待って! お兄様! お父様! お母様! ちょっとバルガスと2人きりになるために外に出たいんだけれどもよろしいかしら?」
バルガスは全てが終わる頃に思いを告げるつもりでいた……。でも、リリアナはそんなことはどうでもよかった。いや、どうでもよくはないが、後日というのが許せなかった。折角、長年の憂いが消え、更には思いを自覚したリリアナ。この熱が自身の心の奥底で迸っている今だからこそ思いを伝えたかった。そして、バルガスの本心を知りたいのだ。だから、そのための足がかりを作るべく、シエンタス、シュタロウス、ファティシエンヌにお伺いを立てる。
「行ってきなさい。リリー。バルガス! 可愛い妹の思いを全部受け止めなよ!」
「うん。リリー。しっかりとな!」
「あら? いいんじゃないかしら? 思いが通じ合うのは早いほうが良くってよ!」
シエンタス、シュタロウス、ファティシエンヌの賛同を得たリリアナ。そこからの動きは早かった。席から立ち上がりバルガスの元へとスタスタと近寄るリリアナ。
「バルガス! 行くわよ!」
「うん? ああ、分かった。行こうか」
そしてバルガスの腕をむんずと掴み、立ち上がらせる。その勢いで応接間を出ていく2人。
「庭へ行きましょう? バルガス」
「ああ。そうだな。まだ篝火は消えてなかったな」
こうしてリリアナはバルガスの手を掴んだまま、庭へと突き進んでいく。バルガスはリリアナの手の柔らかさを堪能しながら、ついていくことにした。
「ええ。そうなの。これはここで働いている使用人さんのおかげよね。いつかは私も篝火のある庭とおさらばえなのよね」
「ああ、そうだな。その時はそう遠くないんだろうな」
「ねえ? 庭に着いたら肩車してくれるかしら?」
「何でまた?」
「子どもの頃とは違った目線になれるかも知れないでしょう?」
「まあ構わないが?」
「じゃあ約束ね! 今から走るから私のところへついてきてよ!」
そう。ハルブーノ家の王都の屋敷の庭は夜になると篝火が点くのだ。そして、それはハルブーノ家の者が眠りに就くまでは煌々と灯され続けるのだ。リリアナにとっては思い入れが深い。
突如としてリリアナから突拍子もない要望をされるバルガス。一瞬、怪訝な表情になるが、リリアナの思いを知り、それを承諾する。
そして突如、バルガスから手を離して、リリアナは走り始めた。そんなリリアナにやれやれと思いながらも、ゆっくりと走る。あくまでもリリアナの速さに合わせるように。追い越さないように。
一体どれだけ走ったか……。いや、さほど走ったわけではないのだ。でも派手なドレスを身に纏ったリリアナにとっては激しい運動には違いない。
ゼェ。ゼェ。ハァ。ハァと庭に着いた瞬間に息を切らし、呼吸を整える為に喘ぐリリアナ。
そして平然と追いついたバルガスに聞こえたリリアナの喘ぐ音。それが無性に艶かしくて仕方ないのだ。バルガスから見れば、自分に向けて股を肩幅より広げて尻を突き出した状態。そんな姿を見せられて理性を失わない男がいるのであろうか? だが、そのなけなしの理性を使って、バルガスは音もなくリリアナの左後ろに近づく。そして……。
「キャッ!」
「流石にそのドレスでは完全なる肩車は厳しいがな? でも、右の肩だけで肩車をすることは不可能ではないからな!」
「ちょっと! バルガス! びっくりするじゃない! するなら言ってよ!」
「ふん! 俺に無防備な姿を晒すのが悪いんだ」
「もう! ああ! でも、子どもの頃とはぜんぜん違うわね!」
むんずとリリアナの腰を両手で掴み持ち上げる。そして、リリアナの尻を右肩に乗せて、片方の肩での肩車を完成させたバルガス。予告なしの動作にリリアナは猛然と抗議するが、バルガスとしては『俺は悪くない』の一点張りだ。それでもリリアナは久しぶりにバルガスの肩の上から見える景色に感動していた。
「ねえ? バルガス? 4つの頃の話……。今でも有効かしら?」
「4つの頃の話? 何のことだ?」
「もう! 今日は散々に真似したじゃない! あれよ! 『わたち! バルおじちゃんのおよめさんになりゅー!』よ!」
「ああ。あれか……。もし有効でないとしたらリリアナはどうするつもりだったんだ? まあ、有効か無効かで言ったら有効なんだがな……」
バルガスに今日は何度も掘り出された黒歴史。それを引き合いに出して、バルガスとの約束を語るリリアナ。バルガスはリリアナの柔らかさを感じながら、冷静さを保つために敢えてぶっきらぼうな姿勢をとる。
「私、バルガスのお嫁さんになりたいわ! 何度も何度も思っていたわ。本当はあの馬鹿との婚約なんて……、結婚なんて……したくなかったわ! でも、本当にあの馬鹿と結婚するしかないってなった時は……、その結婚式の前日にバルガスと逃げることだって考えていたわ! 10歳のあの日も、何度も何度も庭で愚痴を聞いてくれた日も。そして、今日のパーティも! バルガスの大きな背中が……私は……私は……大好きなの! だから……、だから……、私は……バルガスと結婚したいの!」
「……いやぁ。まいったな……。リリアナ……。四阿に着いたら下ろしていいか?」
「ええ……。バルガスの肩車に満足できたから、その時に下りるわ」
肩の上からのリリアナの告白を聞いて、ちょっと複雑な心境になったバルガス。それもそのはず。その思いは本来ならば……。空いた左手で頭を掻きながらリリアナに肩車から降りてもらうことを提案するバルガス。それにリリアナは承諾した。
バルガスはゆっくりと四阿へと歩みを進め、その扉を左手で開ける。四阿の中にある長椅子。そこへの道のり、歩幅、歩数。それはたとえ暗くとも分かる。それは何故か。何度も何度も訪れた場所だから。
そして、バルガスはリリアナの膝の裏に左腕を当て、腰に右腕を回し、ゆっくりとリリアナをお姫様抱っこの状態にする。そして、徐にリリアナを長椅子へと座らせた。
両腕をそっとリリアナから離したバルガスは四阿の燭台のあるところに向かい、燭台の蓋を外し、火魔石で燭台に火を灯す。それを残り3つの燭台にも同様に繰り返す。
炎から出る淡くも暖かな光により、明るくなった四阿。バルガスは長椅子に座ったリリアナの元へと向かい、リリアナの左隣へと何も言わずに座った。
そして、バルガスはリリアナの顎を右手で触り、クイッと自身の方向へ向けた……。
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